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「在日」に何を思う?ちいかわとポケモンが好きな朝鮮学校の日常に“違い”はあるのか

Sitakke

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札幌の朝鮮学校は、在日コリアン4世、5世の子どもたちが通う、北海道内唯一の学校です。
“近くて遠い=北朝鮮”のイメージを重ねる人も多いかもしれません。

ところが実際に学校内へと入ると、印象はガラリと変わります。

2024年秋から半年あまりにわたり、朝鮮学校の日常を取材しました。

北海道唯一の朝鮮学校

「アニョハセヨ!」

子どもたちが話しているのは、朝鮮語。
貼られている掲示物には、ハングル文字。
女性の教員が身に着けているのは、民族衣装のチマチョゴリです。

2024年10月、札幌市清田区にある、北海道朝鮮初中高級学校で取材をはじめました。

北海道内にある朝鮮学校は、ここだけ。
6歳から18歳までの、在日コリアン4世、5世が在籍しています。

児童・生徒数は、あわせて26人で小学生は16人、中学生は6人。
高校生は4人いますが、人数が少ないため道外の朝鮮学校で寮生活をしています。

以前は、いまの10倍以上の人数がいたといいます。

朝鮮語の歌、母国の地理

廊下に、子どもたちの朝鮮語の歌がきこえてきました。
音楽の授業は、1、2年生が一緒に受けていました。
2年生は、小さな木琴も練習します。

「“夢金浦に行こう!”といえばいいほど、有名な海水浴場です」

5年生は、朝鮮半島の地理について。6年生は、社会で税金について勉強をしていました。
日本の学校と同じように、数学・理科・体育などの科目もあります。

語学は、朝鮮語のほか日本語や英会話も学びます。

入学して初めて朝鮮語に触れる…大好きなのはポケモン・ちいかわ!

子どもたちのほとんどが、入学して初めて本格的に朝鮮語を学びます。
学校の外では、友だちとも家族とも日本語を話します。

1年生のクラスをのぞくと、先生とのお喋りでは日本語もチラホラ…。

「先生は、この中でいちばん好きなポケモンはどれ?」

大好きなポケモンがあしらわれた算数のドリルを使い、勉強していました。

中学生のかばんには、あの人気キャラクターがいっぱい。
思わず声をかけると、笑顔で見せてくれました。

「“ちいかわ”のグッズばかり」

キャラクターのトレンドも、日本のものです。
民族としての歴史や文化を学びながらも、好きなアニメや音楽は、日本の学校に通う子どもたちと変わりません。

今日本で暮らす「在日コリアン」のほとんどが、学校の研修などの機会で訪れない限りは「祖国」の生活を知りません。
学校に通う4世・5世、そして彼らの親世代も…。

日本で生まれ、日本で育つ。

一方で、自分の民族としてのルーツも確かにアイデンティティとして存在しています。

学校は、子どもたちが自分を形作るそんな要素を伝える場所になっているのです。


卒業生の在日コリアン3世が、教員として学校に

学校には、部活動もあります。
放課後の時間、ある教室からはサックスの演奏が聞こえてきました。
吹奏楽部のメンバーは、先生1人と生徒1人。

生徒と一緒に演奏していたのは、北海道朝鮮初中高級学校の卒業生でもある、金妙香(キム・ミョヒャン)教頭、27歳。在日3世です。

妙香先生たちが着ているチマチョゴリは、学生時代に研修などで祖国に行ったとき、平壌で仕立てたものだといいます。
日本で買ったお気に入りの布を持っていき、作ってもらうんだとか。

卒業生の中には、日本の高校や大学に進学する人もいます。

妙香先生は東京の朝鮮大学校に通ったあと、この学校に教員として戻る道を選びました。
そこに、ある思いがあります。

「朝鮮学校が廃校になった地域は、地域同胞社会も廃れていく。同胞社会の中心に、必ず朝鮮学校がある。朝鮮学校を前線で守る、発展させていく教員になりたいと思った」

妙香先生には、日本の学校に通い続けている在日コリアンの友だちもたくさんいます。
中には、日本での名前=「通名」をつかって生活している人もいるといいます。

朝鮮学校に通い、在日コリアンの同胞コミュニティの中で、朝鮮語の本名を名乗り、自らのルーツを学んだ経験を「幸せだと思う」と話します。

「わたしたちと手を取り合っていく存在を日本で1人でも増やしていけることが、若い世代の課題なのかなと思います」


自由な発想で…

2025年2月、札幌市民ギャラリーを会場に、“在日朝鮮学生美術展”が開催されました。

全国にある朝鮮学校の子どもたちによる作品の展示会です。

絵や粘土細工など、美術の授業で作った、自慢の作品が並びます。

「これも僕が描いたやつ」

作った作品を紹介しながら、元気いっぱい会場をかけまわり、日本語で説明してくれる子どもたち。

「学校」をテーマにした絵には、子どもたちの目線でみた、学校や日々の暮らしが描かれています。

作品の中には、「食」の文化が自然と映し出されたものも。

“焼肉を食べてきたジンベイザメ”を描いたという作品も…。

子どもたちの自由なひらめきが、尊重されています。

美術を担当する朴蓮淑教諭は「次はこれ、あれと…アイデアが出てくるので、ある程度テーマを与えてあげた後は、好きなように自由に制作させてみるスタイルですね」と話します。

朝鮮学校に通う人は減っている、それでも

美術展では、子どもたちの母親「オモニ会」が体験ブースを開いていました。
保護者の1人、李慧娘さんもこの学校の卒業生であり、元教員です。

この学校では、新型コロナの感染拡大前の2019年まで、隔年で学校祭を開いていました。

「保護者手作りのキムチが人気で、開場の何時間も前から整理券を持った地域の人が、学校ぐるっと1周分くらい並んでいたりしていて…」

李さんは懐かしそうに、教室からグラウンドを見下ろしました。

李さんが子どもの頃に比べ、在日コリアンの人生の選択も多様化し、以前より朝鮮学校に通う子どもの数は減っているといいます。

その中でも、自身の子どもには「劣等感を感じず、自分が朝鮮民族であることに胸を張って生きてほしい」思いから、朝鮮学校に通わせることを選びました。

「ご近所付き合いの中では、朝鮮学校について、偏見なしに聞いてくれる人もいる。人と人が仲良くなるように、国同士の関係が良くなることを願っています」


暴力や差別…「日本が好きな子がほとんど」

学校の体育館と食堂を結ぶ渡り廊下の途中に、誰もが観覧できる資料館があります。
そこには北海道の在日コリアンの歴史に関する資料が並んでいます。

太平洋戦争が終わるまでの35年間、日本は朝鮮半島を植民地支配し、民族としての誇りや文化を奪いました。

多くの朝鮮人が職を求め、あるいは、強制連行により日本に渡りました。

戦後、帰国する人たちもいましたが、生活上の理由などから、日本に住み続けることを選ぶ人たちもいました。

そんな中で、「朝鮮戦争」が勃発。
彼らの故郷は南北に別れました。

日本に居ても朝鮮の文化を学ぶことができる場所を作ろうとする動きが全国で高まり、1961年、北海道朝鮮初中級学校が創立しました。

しかし、1994年には東京で、朝鮮学校に通う女子生徒の制服が切られる事件が起きるなど、朝鮮学校は、時として暴力や差別の対象になってきました。

その事件以降、札幌の朝鮮学校に通う子どもたちも、学校の外では制服を着ることができなくなっています。

「朝鮮」=北朝鮮なのか

街頭やSNSでは、いまも在日コリアンに対する攻撃が絶えません。

政府は、拉致被害が未解決であることなどを理由に、高校無償化の対象から、朝鮮学校だけを外しています。

学校の経営は、学費や、在日コリアンや日本人の支援者からの寄付金などで賄われています。

「朝鮮が誇りなら帰ればいい」
「なぜ日本に暮らすのか」

そんな声があがるなか、北朝鮮を「帰る場所」というには、少し違和感を感じるという声を、取材中に聞くこともありました。
先祖が日本に来てから、朝鮮半島が南北に分かれた歴史もあるためです。

いま日本に暮らす在日コリアンの多くは、祖父母や曾祖父母の代から日本に暮らしています。
慣れ親しんだこのマチ、マチの中で紡いできた人とのつながりを大切に思っています。

SNSなどで根強い在日コリアンに対する攻撃があることから、「子どもたちの顔をそのまま出して放送をするか」、校長や教員、保護者の多くがとても悩んでいました。

“ありのままの子どもたちや学校の姿を伝えたい”という思いから、結果として多くの方が顔を隠すことなく、取材を受け発信することを決断してくれました。

朴大宇校長も、「子どもたちを守る」というのは前提のもと、どのような取材ができるか
私たちと真剣に向き合い続けてくれました。

「在日コリアンであること」は、まぎれもなく自分たちを形づくる大きな要素。
それを隠したり、否定したりさせられたりすることは、自分自身を否定する経験として蓄積されていきます。

ありのままの自分のルーツ、アイデンティティを大事にしていいんだと、そんな「自己肯定感」育ててあげたいというのも保護者が朝鮮学校への通学を選ぶ理由のようでした。

「日本好きな子たちも多いですし、それがほとんどだと思います。在日コリアンとして生きていくのは簡単なことではないので、何か自分で得た答えがあったら、堂々と生きていける」


知った経験からつながる私たちの「共通点」

5月、放課後のグラウンド。
地域のサッカークラブチーム「FCフォルテU15」の中学生たちが集まっていました。

チームメイトの多くは、日本の学校に通う日本人ですが、朝鮮学校の生徒も所属し、練習に励んでいます。

チームの川内悠平監督は、大学院で文化人類学を専攻し、朝鮮学校をフィールドに研究していました。
授業を一緒に受けさせてもらい、朝鮮語も学んだといいます。

川内監督自身も、研究を始めてから在日コリアンたちと交流し、抱いていた「イメージ」が変わっていった1人です。

「SNSにたくさんの情報がある中で“こういう意見もあるけれど、俺はこう思う”。だって“こういう経験してきたから…”というふうに、自分の頭でしっかり考えて、社会を見る目が養われていることにつながるといいなと思う」

練習以外でもみんなで遊びに行くほど仲良しだというチームのメンバーたちに、「仲良くなってからも『違い』を感じるか」と聞くと、自然とつぶやくようにこんな声が。

「同じ人間で差別とかもないから、同じ人間だと思う」
「チームも学校と違って楽しい。貴重な友達」

簡単に他者を攻撃できる現代。知ろうとした1歩の先には、互いにわかりあえる共通点があるはずです。

文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部あい

※掲載の内容は「今日ドキッ!」放送時(2025年5月20日)の情報に基づきます。

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