【弁護士が解説】「子どもを叩いてしまった」 役所に相談したら親はどうなる?
「子どもを叩いてしまった」「もしかして虐待?」弁護士に聞く、虐待の悩み・ギモン。SOSの出し方は? 児童相談所の対応は?<解決への一歩>を踏み出すためのアドバイスとは。
【4タイプ別】「ワンオペ育児」のモヤモヤ解決法夜、子どもが泣きやまない。イライラして「手を上げてしまうかも」とハッとしませんか。
行政に相談したくても「子どもと引き離されたら……」とためらってしまいます。
「早いSOSは、むしろ歓迎されます」そう話すのは、子どもの問題に詳しい弁護士の山下敏雅さんです。親を責めずに子どもを守る仕組みについて伺います。
▲育児がつらい、誰かに相談したい、でも“危ない親”と思われたらどうしよう……そんな悩みを抱えてしまったら? (写真:アフロ)
SOSを出すことで受けられるサポート
子育てのイライラや叩いてしまいそうだという不安を相談したからといって、ただちに親子が分離されるわけではありません。
深刻な虐待などでなければ、いきなり一時保護で親子が分離されることは稀です。
「相談したら“危ない親”として目を付けられるのでは」と心配する方もいますが、実際にはその逆。
むしろ、“早めに助けを求められる親”と受け止めてもらえるのだといいます。
山下さん……「『しんどいです』と本音を言ってくださる親御さんは、現場からするとありがたい存在です」
行政とつながることで、家庭の状況を具体的に伝え、必要な情報や支援策を提案してもらえます。
たとえば、次のようなサポートを提案されることがあります。
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●情報提供・調整
利用できる制度やサービス、窓口の案内、学校や関係機関との連携調整など
●見守り・伴走
面談の場づくりや、親の不安を聞き取る支援
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追い詰められる前にいったん休み、態勢を立て直すことは、親にも子どもにもプラスに働きます。
「今はとにかくしんどい。少し離れて落ち着きたい」というときは、一時保護ではなく、行政の子どもショートステイ(短期入所)事業を利用し、一時的に子どもと距離をとる方法も考えられます。(ただし、ショートステイは事前調整・予約が必要な場合があるため、早めの問い合わせをおすすめします)
子どもを叩いてしまった! どうしたらいいの?
2019年の東京都の条例の制定や児童虐待防止法の改正、2022年の民法の改正で、体罰が法律違反であることが明確になりました。
ここだけを切り取ると、「少しでも𠮟ったらアウトなのでは」「相談したら責められるのでは」と不安に感じる方もいるかもしれません。
山下さん……「体罰禁止は、“しつけなら叩いても当然だ”という考え方を止めるためのルールです。育児に悩む親御さんを追い詰めるためのものではありません」
つまり、この改正は、親の開き直りを防ぐための歯止めです。「子どものために叩いたのだから正しい」という理屈にストップをかけ、子どもの権利と安全を守ることが目的なのです。
「つい強く子どもに当たってしまいそうで怖い」「どう関わればよいか分からない」と悩みながら、踏みとどまろうとしている親を責め立てる趣旨ではありません。
山下さん……「『しんどい』と感じてSOSを出せる時点で、解決へのハードルはすでに半分超えています。不安に感じる必要はありません」
だからこそ、「苦しくなったときは早めに相談してほしい」と山下さんはいいます。
実際の相談の場では、親子をいきなり引き離すことを前提にしません(子どもの命に関わるなど危険が大きい重い事案は別)。
まず現状を一緒に整理し、子どもへ穏やかに関われる具体的な方法や使える支援を検討します。
“ナナメの関係の大人”が、子どもの命を守る
子どもの泣き声がずっと聞こえている、食事が十分に取れていないようだ──。
よその家庭の“異変”に気づいた場合には、どうすればよいのでしょう。
虐待を受けている子どもにとって、命綱となるのは「ナナメの関係の大人」だと、山下さんは強調します。
親や担任のような関係性の大人だけでなく、学童や児童館の職員、習い事の先生、クラスメイトの保護者、民生児童委員など、子どものすぐそばにいる大人の存在なのです。
山下さん……「本音を受け止めてくれる“ナナメの関係の大人”が一人いるだけで、踏みとどまれる子がいます。まずは今何がつらいか、何をしたい・したくないかを、時間をかけて聴いてください」
中には、児童相談所への相談を、子ども本人が強く拒む場合もあります。
山下さんが関わったケースでは、虐待をうけた子どもの話を聞いた大人が、その子に断りもなく、そのことを親へ伝えてしまい状況が悪化。その経験が子どものトラウマになっていました。
虐待の開示があったときには、その子の気持ちに共感しつつ、児相に知らせる義務が大人にあること、勝手に親に話してほしくないという思いも尊重してもらうこと、児相などいろんな大人があなたを支える仲間に加わるのがその子にプラスであることを伝えて、子ども本人が納得するように話してください。
それでもその子が「児相に言わないでほしい」と言う場合にはどうするか。
そのときでもやはり、「児相への通告を本人が拒んでいる」ということも含めて、児相に通告する必要があります。(弁護士のように守秘義務がある人でも、守秘義務より通告義務が優先します)
なお、特に性的虐待の開示があったときには、当初から事実関係を深く聞き出そうとはしないで、専門の訓練を受けた担当者による聞き取りのために、早期に児相に繫げるようにしてください。
悩んだ時、相談できる窓口は?
「自分自身が虐待をしてしまいそうだ」
「虐待が疑われる事例があるが、どうすればいいかわからない」
助けてほしいとき、悩んだとき、さまざまな場面で相談できる窓口の例を紹介します。
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【子育てや家庭のことで困ったときの相談先】
●保健所・保健センター
乳幼児の発達や子育て、健康に関する相談ができます。
●子ども家庭支援センター
子育ての悩みや家庭内のトラブル、発達やしつけなど幅広く相談できます。
●子ども家庭センター(自治体によって名称が異なる場合があります)
子育てや福祉、教育などを包括的に支援する総合窓口です。
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【虐待に関する相談先】
●児童相談所虐待対応ダイヤル「189(いちはやく)」
身近で虐待を発見したときや、自分の子育てに不安を感じたときなどに、匿名で相談できます。24時間・無料でつながります。
●警察(#9110)
子どもの命や安全が危険にさらされている場合は、ためらわずに警察へ通報しましょう。
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上記の他、各地の弁護士会が開設する「子どもの人権110番」も心強い相談窓口です。
山下さんのように、子どもの問題に取り組んでいる弁護士が対応。虐待だけでなく、いじめや不登校、体罰など、子どもの人権に関するあらゆる相談に応じています。
【日本弁護士連合会/「弁護士会の子どもの人権に関する相談窓口一覧」】
(https://www.nichibenren.or.jp/legal_advice/search/other/child.html)
周囲とのつながりが子どもを守る
「自分はダメな親かもしれない」そう感じると、胸がぎゅっと痛みます。けれど、その思いを抱え込む必要はありません。
子育ては常に手探りです。子どもの数だけ違いがあり、そのたび新たな悩みにぶつかります。
何度経験しても、「その子」を「あなた」が育てるのは初めてであり、たった一度の経験なのです。
山下さん……「子育ては誰にとっても一度きり。子ども一人ひとりに特性があり、みんな初心者です。不安で当たり前なのです」
困りごとは小さなうちに、早めに相談するほど軟着陸しやすくなります。
「困ったら頼る」ことを家族の標準装備にして、今日からできる小さな一歩をはじめていきましょう。
【弁護士・山下敏雅さんに「子どもの人権」をテーマに伺う連載は前後編。子どものいじめ・ネットトラブルについて伺った前編に続き、今回の後編では虐待についてお話を伺いました】
取材・文/中村藍
撮影/市谷明美