【倉敷市】特別展「やべみつのりと矢部太郎〜『ぼくのお父さん』のふるさと・倉敷」(2025年12月21日まで開催)〜 倉敷でふれる、親子の優しさと笑いの展覧会
家族を「かたち」に例えるとしたら、どのようなものが思い浮かびますか。
その答えは、きっと人の数だけ存在することでしょう。「家族」をテーマにした展覧会が、倉敷市立美術館で開かれています。
倉敷で育った紙芝居・絵本作家のやべみつのりさんと、その息子でお笑い芸人・漫画家の矢部太郎さんによる親子展です。二人のまなざしから浮かび上がるのは、笑いとやさしさに包まれた「家族のかたち」でした。
思わずクスッと笑ってしまい、やさしい気持ちになれる展覧会のようすをレポートします。
特別展「やべみつのりと矢部太郎〜『ぼくのお父さん』のふるさと・倉敷」の概要
「やべみつのりと矢部太郎〜『ぼくのお父さん』のふるさと・倉敷」は、倉敷市立美術館で2025年10月17日(金)から12月21日(日)まで開催されている特別展です。
展示数は約200点。
紙芝居や絵本の原画、漫画作品に加え、やべみつのりさんによる家族絵日記や、矢部太郎さんの幼少期の作品「たろうしんぶん」など、ここでしか見られないような貴重な資料が並んでいます。
展覧会のようす
会場入口でまず目に入るのは、矢部太郎さんの著書『ぼくのお父さん』(新潮社)の表紙を使った特大パネル。今回の展覧会ポスターにもなっている印象的なビジュアルです。
足を運んだのは平日の昼間。
会場内は落ち着いた雰囲気で、時間を忘れて作品の世界に引き込まれました。
静かな空間のなか、どこかで「フフッ」と小さな笑い声が聞こえてくることも。見ず知らずの人の笑いに共感しながら、筆者も思わずにっこり顔に。
あたたかさやユーモアあふれる作品たちを前に、誰もが自然と笑顔になってしまう空気感がありました。
会場の物販コーナーでは、展覧会限定のオリジナルグッズも販売されています。
デニム生地のエプロンやトートバッグなど、倉敷らしさに心をくすぐられるラインナップです。
やべみつのりさんの多彩な作風
やべみつのりさんの展示では、その作風の幅広さに驚かされました。
やわらかくカラフルな色使いの絵本や紙芝居の原画から、細部までていねいに描き込まれた作品まで、その一つ一つに深い愛情が感じられます。
自分の子ども時代や、子育ての日々のなかで「あるある!」と共感できる場面も多く、まるで写真を撮るように、そのときの気持ちや光景を絵に残しているようでした。
やべみつのりさんは現在、造形教室の開催やワークショップを通して子どもたちと向き合うほか、紙芝居の普及のために海外でも活動しています。
作品からは、子どもの自由な心を何よりも大切にしてきたまなざしが伝わってきました。
廃材から生まれるアート&親子の合作
会場を半分ほど進むと、廃材を利用したおもちゃの展示コーナーにたどり着きました。
おもな作品は、以下のとおりです。
・発泡トレイで作る、ほねほねマンのお面
・にじのたまご(空き缶を利用した虹色オブジェ)
・空き容器で作るブーブーラッパ
普段なら捨ててしまうものが、工夫ひとつでこれほどに楽しいアートに変わるなんて。
同じ素材を使っても、仕上がりが一つとして同じにならないところにも愛嬌があります。
こちらのスペースでは、お二人の合作「倉敷市立美術館と僕」も展示されています。
それぞれの作品の登場人物や岡山名物とのコラボレーション、「ご縁」を連想させる「五円」モチーフなどが描かれており、作品全体から遊び心やワクワク感が伝わってきました。
矢部太郎さんの原点にふれる
矢部太郎さんの作品で印象的だったのが『雄鶏の絵』です。
小学2年生のときに描いた作品だと知り、驚きました。
「たろうしんぶん」と題した子どもの頃の手作り新聞です。
「やべけのしょうかい」欄のコメントには、子どもらしいユーモアがにじみ出ていて、思わず笑ってしまいました。
「子は親を見て育つ」とよく言いますが、ものづくりをする父の背中を見て育った、太郎さんの原点が垣間見えるようでした。
おわりに
会場の一角では、やべみつのりさん・太郎さんによる紙芝居実演の映像が流れています。穏やかな語り口に合わせて、観客はみんなうなずいたり、小さく笑ったりしていました。
その光景は、まるで大人が子どもの頃に戻ったかのようでした。
筆者自身も、心の奥に眠っていた「子どもの感性」が呼び覚まされたように感じました。
笑いあり、あたたかさありの展覧会。
観た人は作品を通して、自分の家族や大切な人との時間を思い出すきっかけになることでしょう。
倉敷市立美術館で過ごすやさしい時間を、ぜひ体感してください。