タツキ先生は本当に甘すぎるの? ドラマから「不登校」と「勉強の遅れ」「教育の本質」を考える[教育ジャーナリストがコメント]
フリースクールを描いたドラマ『タツキ先生は甘すぎる!』への批判と、親を悩ませる勉強の遅れについて第2回。教育ジャーナリスト・おおたとしまさ氏の新著から、不登校の学習不安を解消する真実と教育の本質を解説。全2回。
【画像を見る➡】新たな選択肢【学びの多様化学校】はフリースクールと何が違う?2026年4月から放送中の町田啓太主演のドラマ『タツキ先生は甘すぎる!』(日本テレビ系/毎週土曜21時)の舞台は、学校に行かない・行けない子どもたちが集う「フリースクール」です。
しかし、ドラマ内のフリースクールスタッフ・浮田タツキ(町田啓太)が勉強を教えず寄り添う姿勢には、「甘やかしだ」「逃げだ」といった否定的な声もSNS等で飛び交っています。
“休ませることが大事”とは頭でわかっていても「学校に行かないと勉強が遅れてしまうのでは」とあせってしまうのは親のリアルな本音です。筆者もかつて子どもの不登校に悩んだ時期、一番の不安は勉強でした。
第2回となる本記事では、『フリースクールという選択』(著・おおたとしまさ/講談社+α新書)を参考に、不登校の親をもっとも苦しめる「学習への不安」の真実と、私たちが信じて待つべき「教育の本質」に迫ります。
「勉強が遅れる」という最大の不安が「幻想」である理由
不登校の保護者が抱くもっとも深刻な焦燥感であり、非当事者が批判の根拠にするのが「勉強の遅れ」です。学校に行かなければ基礎学力が失われ、将来社会に出てから自立できないという懸念は、もっともらしく聞こえます。
しかし、十分な休息とフリースクール等での自由な肯定体験によって心が安全を取り戻し、本人がみずから「知りたい」「学びたい」という意欲を取り戻したとき、その学習吸収力は爆発的なものになるといいます。
新書『フリースクールという選択』(著・おおたとしまさ/講談社+α新書)にも、次のような専門家のコメントが掲載されていました。
〈「普通の高校の5倍速くらいで学んでもらいます。15歳を超えて発達が安定してきてから本人がやる気になればそれは可能なんです」(市民立瀬戸ツクルスクール・一尾茂疋さん)〉引用:『フリースクールという選択』(講談社+α新書)
〈「多くの人が思い込んでいることとして(中略)三年間不登校で勉強していなかったら、取り戻すまでに三年かかるというものがあります。ですが、そんなことはありません。中学三年生の子どもがこれまでの勉強をやり直すとしたら、はっきり言って、小学校六年間の学習は三か月から半年で学べますし、中学校三年間の学習も一年程度で学べます。実際には、学校で学ぶ期間よりもはるかに短い期間で同じ知識を身につけることができるのです」(和光大学・髙坂雅康さん)〉引用:『フリースクールという選択』(講談社+α新書)
また、不登校当事者だった子どものリアルな声にも驚かされました。
〈「小1の1学期で学校には行かなくなりました。でも、楽しみながら勉強する方法を教えてくれるちょっと変わった塾を親が見つけてくれて、週1回4時間だけ、そこに通いました。それだけで、小学校の勉強に遅れは感じませんでした。実際、中学受験もできました。弟も、まったく小学校には通っていません。塾にも行かなかったので、小6でもかけ算九九ができませんでした。でも彼も中学受験を決意してからは目の色を変えて勉強しはじめ、なんと1ヵ月で6年間の国語・算数を終えてしまいました」〉引用:『フリースクールという選択』(講談社+α新書)
学習の遅れを気にしてまわりの大人があせると、子どもはプレッシャーを感じてしまい、なおさら心の回復が遅れます。すると自ら学習に取り組む意欲はいつまでたってもわいてこないのです。
ドラマのタツキが「勉強を教えずに遊んでばかりいる」ように見えるのは、まさにこの「学習の前提となる健康な心の土壌」を最優先でたがやしているからに他なりません。
あせる大人に対しておおた氏は本の中で次のように問いかけます。
〈私も保護者から「学校に行かなくて、勉強は大丈夫なんでしょうか?」という不安の声をよく聞きます。正直に言うと、それは私にはわかりません。ただし、学校に行っていれば勉強が自動的にできるようになるなんてことも幻想であることは、わが身をふりかえってみれば誰でも気づくのではないでしょうか。多くのひとは、学校で、勉強なんて、ほとんどしていないのです。でしたよね?
その意味では、不登校の子たちと変わりません。逆に学校に行っていないあいだにたくさんの本を読んで、学校では教えてくれない膨大な知識や教養を身につけたひとだってたくさんいます。
それに、こういうときに念頭に置かれている「勉強」はたいてい、入試を突破するための受験勉強にすぎません。しかも日本社会においてそこは、学習塾に牛耳られているのが実態です。だとしたら、学校に行かないことの何をそんなに焦る必要があるのでしょうか。〉引用:『フリースクールという選択』(講談社+α新書)
裁きの眼差しから「信じて待つ」社会へ
ドラマ『タツキ先生は甘すぎる!』は、不登校ジャーナリストの石井しこう氏(フリースクール監修)や、公認心理師・浜端望美氏(アートセラピー監修)といった専門家の厳密な監修のもとで制作されており、教育現場の最新の知見とリアリティをていねいに反映しています。
映像のソフトな色調や、江口洋介演じる「ユカナイ」代表者の三雲英治をはじめ、完璧ではない大人たちの葛藤は、子どもたちのあいまいで繊細な世界の輪郭を美しく、かつリアルに表現したものです。
劇中の温かい描写は、主題歌である福山雅治の『拍手喝采』とともに、不登校の当事者たちを勇気づけています。福山雅治本人も「このドラマ世界の子どもたち、大人たち、そしてタツキ先生、それぞれの人生の発見と向き合いかたに『拍手喝采』したくてこの歌が生まれてきました」とSNSで伝えています。
ドラマの温かいメッセージに対し、インターネット上で投げかけられる「きれいごとだ」「甘やかすな」という辛口コメントは、自らが「苦しくても我慢してシステムに適応してきた」という抑圧的な経験から生じる、当事者への羨望と嫉妬の裏返しにすぎないとは言い過ぎでしょうか。
約20校のフリースクール現場をルポしたおおた氏にドラマの感想を聞きました。
「これだけ不登校が増えていると言われていても、フリースクールがどんなところなのか、具体的にイメージできるひとはほとんどいません。ドラマを通じてフリースクールの実態が伝わる社会的意義は大きいと思います。不登校の当事者が具体的なイメージをもって一歩を踏み出せるようになることはもちろん、そうでないひとたちも不登校やフリースクールに対する理解を深めてくれれば、社会全体がちょっぴり優しくなるんじゃないかと思います。
フリースクールの子どもたちは“かわいそうな子どもたち”じゃないんです。彼らはみんな、“本当に優しい子たち”なんです。
フリースクールに通ってあんなに優しくなれるなら、不登校じゃない子たちも、一定期間フリースクールに通うのを義務教育の一環にしたらいいんじゃないかと思うくらいです」
不登校を巡る議論において、非当事者ひいては社会全体が克服すべきなのは、子どもたちの行動ではなく、大人側の「無理解な常識」と「抑圧の再生産」と言えるかもしれません。
ドラマ『タツキ先生は甘すぎる!』が描く「甘さ」とは、決して現実からの逃避ではなく、子どもたちの生命そのものを守り、主体的な回復を信じて待つという、もっとも強靱で温かい「教育の本質」ではないでしょうか。
“フリースクール探し”で最初に読む本、登場! 『フリースクールという選択』(著:おおたとしまさ/講談社+α新書)