海中転落車両から運転女性を救助 唐丹の漁業者 橋本尚實さんに釜石警察署長感謝状
釜石市唐丹町の小白浜漁港で車両ごと海中に転落した80代女性を救助した同町の漁業橋本尚實(たかみつ)さん(77)に、釜石警察署(松本一夫署長)は17日、署長感謝状を贈った。橋本さんの迅速な行動がなければ、女性は命を落としていた可能性も。「とにかく車が沈まないよう必死に耐えた。顔だけ出してもらえれば…それだけを考えて」。橋本さんは当時の緊迫した状況を語った。
橋本さんは5月30日午前7時5分ごろ、早朝のウニ漁を終えて帰港。船を岸壁に着けようとしていたところ、背後で「ガーン」とものすごい音がした。振り返ると、軽トラックが頭から海に落ちている状況。運転席に人の姿が見え、「大変だ。これを沈めてしまっては助からない」と、とっさに船の接岸などで使う1メートル50センチほどの“棒かぎ”を伸ばして運転席側の車体に引っかけた。
自分の体も持って行かれそうになる中、船のへりを利用して力ずくで踏ん張った。荷台の方が沈み、運転席が上向きになったことで、乗っていた女性は助手席の手動窓を開けて脱出。水面から手が出たのを確認した橋本さんは棒かぎを車から離し、持ち手側を女性に差し出してつかまらせた。女性を船に引き寄せ、背中側から脇を抱えて引き上げた。同時刻、偶然にも漁業取り締まりパトロールに来ていた釜石海上保安部職員3人が高台から事故を目撃。すぐに現場に駆け付け、橋本さんの船から女性を岸壁に上げた。女性は左手首を骨折したが、命に別条はなかった。
現場の岸壁は海側に向かって緩やかな傾斜がある場所。「車のエンジンはかかっておらず、(何らかの要因で動いた)車体が岸壁のへりをこする形で落ちたようだ」と橋本さん。女性はウニ漁に出ていた夫を待って、岸壁で作業中だったという。橋本さんは他の漁業者よりも一足早く漁を切り上げて帰ってきたところで、事故に出くわした。近くに他に人はおらず、橋本さんがいなければ命に関わる事案になっていたとも考えられる。
「10秒でも20秒でも遅れたら危なかった。女性は泳げなかったというし、岸壁にはつかまって上がれるところが無いから」。漁業歴約60年の橋本さん。実は、海での人命救助は中学生の時から人生3回目。今回は沈みゆく車を船上から1人で支えるというすご技で命を救った。「体力は案外ある。腕力もそれなりに。これを助けられなければ一生の不覚と思って…」と、とっさの行動を振り返った。
唐丹町漁協事務所で感謝状を手渡した松本署長は「海に落ちた車の中から脱出するのは非常に困難。けがをしていればなおさら。橋本さんの迅速な行動、奮闘がなければ助からなかったかもしれない」と深く感謝。同町では5月14日にも海中転落事故があった。「地元の皆さんに事故防止の広報はしているが、漁港には他地域から釣りに来る人もいるので、合わせて注意を促していきたい」と話した。