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特別寄稿 役者を生きるために生まれてきた男の12月13日、93歳の誕生日に捧げる讃歌 仲代達矢 (俳優)

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特別寄稿 役者を生きるために生まれてきた男の12月13日、93歳の誕生日に捧げる讃歌 仲代達矢 (俳優)

プロマイドで綴る わが心の昭和アイドル&スター

大スター、名俳優ということで語られることがない人たちかもしれないが、
青春の日々に密かに胸をこがし、心をときめかせた私だけのアイドルやスターたちがいる。
今でも当時の映画を観たり、歌声を聴くと、憧れの俳優や歌手たちの面影が浮かび、懐かしい青春の日々がよみがえる。
プロマイドの中で永遠に輝き続ける昭和の〝わが青春のアイドル〟たちよ、今ひとたび。

企画協力・写真提供:マルベル堂

 仲代達矢が映画の代表作を問われて必ず挙げたのが、小林正樹監督の『切腹』である。1962年、仲代が31歳のときの映画だ。切腹という儀式を通して武士社会の持つ矛盾や偽善を告発した、小林正樹ならではの骨太の時代劇。仲代はこの作品について「演出、撮影、脚本、キャスト……すべてが素晴らしい」と語る。

 ラストの決闘では刀の重みや怖さを表現したいという小林正樹の要望で本身(真剣)が用いられた。仲代の相手は丹波哲郎。リハーサルでは、殺陣の名手でもあった丹波に「もっとスレスレに斬り込んでこい」と言われたのだが、仲代は恐怖感を払拭できず、本番前夜は眠れなかったという。それでも出来上がった映像に文字通り「真剣勝負」の緊迫感が漲るのは、両者の間に確かな信頼関係があったからだ。

©マルベル堂

『切腹』の6年後、五社英雄監督の『御用金』で、仲代は再び丹波と共演する。2人に萬屋錦之介(当時・中村錦之助)が加わり、3大スター共演と銘打たれた大作時代劇だ。撮影中の面白いエピソードがある。

 ある晩、3人で風呂に入り、日本で一番いい役者は誰かという話になった。高らかに言い放ったのは丹波だった。

「決まっているじゃないか。俺だよ。君たちは俺に次いで、2番目、3番目くらいにはなれるかもしれないな」

 仲代と萬屋は笑って頷くだけだった。

 これは20年ほど前、丹波哲郎の本(『オーラの運命』)を書くにあたり、ご本人から聞いた話である。しかし、本当の話なのか。はたまた丹波らしいホラ話なのか。

 ずっと気になっていたぼくは、2年前に仲代達矢をインタビューした際にこの疑問をぶつけた。

「そうですか。丹波さんがそう言ってましたか。あまり覚えてないけど、丹波さんが言うなら、そうでしょう。いかにも丹波さんらしい話じゃないですか。私はいろんな役者と共演したけど、一番好きなのが丹波さんです。おおらかで、懐が深く、人を喜ばせるユーモアがある。演技のスケールも大きい。撮影前にセリフを覚えなくても、現場で記憶してなんとかなっちゃうんだから、大したもんです」

 仲代も丹波に劣らず演技のスケールは大きい。そして、人としてのスケールも大きな役者だった。

『御用金』では自分とのトラブルで途中降板した三船敏郎の代役を旧知の仲の萬屋錦之介に依頼し、快諾を得ている。もし撮影中止になったら、自宅を売却して賠償金を払う覚悟だった。小林正樹監督の『怪談』では撮影途中に資金難に陥ると、家にあった現金と預金通帳をすべて提供して撮影続行に協力した。ご存じ『影武者』では途中降板した勝新太郎の代役を務め、黒澤明の窮地を救っている。映画や舞台のためなら、すべてを投げ出す腹のくくりようは半端ではなかった。

 ぼくは仲代達矢は役者を生きるために生まれてきた人だと思っている。彫りの深い顔。エネルギッシュな声。演技に対する並外れた集中力。そして彫像のようなたたずまい。どこにいても目立った。スクリーンの中はもちろん、舞台の稽古場の隅っこにいても、仲代達矢の存在は光った。目がまたいい。強く澄んだ目は凄みだけでなく、どこか人懐っこさを感じさせる瞬間があり、豪快だが孤独な男が似合った。

 存命なら12月13日で93歳。演技に捧げ尽くした生涯だった。

 文=米谷紳之介(文筆家、編集者)

※プロマイドの老舗・マルベル堂では、原紙をブロマイド、写真にした製品を「プロマイド」と呼称しています。ここではマルベル堂に準じてプロマイドと呼ぶことにします。

マルベル堂
大正10年(1921)、浅草・新仲見世通りにプロマイド店として開業したマルベル堂。2021年には創業100年を迎えた。ちなみにマルベル堂のプロマイド第一号は、松竹蒲田のスター女優だった栗島すみ子。昭和のプロマイド全盛期には、マルベル堂のプロマイド売上ランキングが、スターの人気度を知る一つの目安になっていた。撮影したスターは、俳優、歌手、噺家、スポーツ選手まで2,500名以上。現在保有しているプロマイドの版数は85,000版を超えるという。ファンの目線を何よりも大切にし、スターに正面から照明を当て、カメラ目線で撮られた、いわゆる〝マルベルポーズ〟がプロマイドの定番になっている。現在も変わらず新仲見世通りでプロマイドの販売が続けられている。

マルベル堂 スタジオ
家族写真や成人式の写真に遺影撮影など、マルベル堂では一般の方々の専用スタジオでのプロマイド撮影も受けている。特に人気なのが<マルベル80’S>で、70~80年代風のアイドル衣装や懐かしのファッションで、胸キュンもののアイドルポーズでの撮影が体験できるというもの。プロマイドの王道をマルベル堂が演出してくれる。
〔住〕台東区雷門1-14-6黒澤ビル3F

読者の皆様へ
あなたが心をときめかせ、夢中になった、プロマイドを買うほどに熱中した昭和の俳優や歌手を教えてください。コメントを添えていただけますと嬉しいです。もちろん、ここでご紹介するスターたちに対するコメントも大歓迎です。

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