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なきごと、ミニアルバム『パトローネの内側で』ーー根底の思いは変わらないまま拡張していくバンドの世界観

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なきごと 撮影=高田梓

水上えみり(Vo.Gt)が結婚をする姉を祝福するために作った晴れやかな「Hanamuke」や、ブラックミュージックのエッセンスを感じる「D.I.D.」を筆頭に、なきごとが12月1日(水)にリリースする3rdミニアルバム『パトローネの内側で』は、これまでのバンドのイメージを打破し、新しい自分たちを提示するような作品だ。……と思った。さぞや実験的、あるいはチャレンジングな気持ちで制作に臨んだのだろうと想像してインタビューに臨んだが、当のふたりは極めてフラットな姿勢で曲作りに取り組んでいた。やりたいことを自由にやる、それがいまのなきごとのモードだ。結成から3年、根底の思いは変わらないまま拡張していくなきごとワールド。その深遠から 「幸せの意味」を投げかける。

なきごと

――昨日(11月18日(木))、今回のミニアルバム『パトローネの内側で』に収録されている「Hanamuke」のリリースライブ『4th Digital Single " Hanamuke " Release Party』を渋谷eggmanで観させてもらいました。岡田さん、「Hanamuke」のとき、泣いてましたよね?

岡田安未(Gt):ハハハ(笑)。たまにライブでどこかの涙腺がバグって泣くことはあるんですけど。あんなにボタボタ(泣いたの)は初めてでした。

――どういう意味の涙だったんですか?

岡田:『はじめてのおつかい』で泣くときと同じような感覚ですかね。えみりに感情移入したのか、お姉ちゃんか、はたまた2人のお母さんか(笑)。

水上:最初は岡田が泣いてるのを全然知らなくて。岡田の目が赤くなって、うるうるしてるのに気がついて客席を見たら、(ライブを観にきていた)姉ももらい泣きしてたんですよ。

――「Hanamuke」は結婚するお姉さんをお祝いするために書いた曲ということで、えみりさんが自分の生い立ちとお姉さんとの関係性をMCで話したじゃないですか。あれは私もぐっときました。

水上:去年の12月9日に姉が入籍したんです。ちょっと前から話を聞いてはいたんですけど、実際に名字が変わったりすると、遠くに行ってしまう気がして寂しい気持ちもあって。でもやっぱり純粋にお祝いしたいなという気持ちもあって、この曲を作ったんです。

――岡田さん、この曲を聴いてどう思いましたか?

岡田:これ、お姉さん、泣くだろうなと思いました。いままでとはどこか違った温かさを感じて、いい曲だなと思いましたね。

水上:恥ずかしい。

――いままでのなきごとの曲は夜の「泣き言」に寄り添うようなという思いもあるから、暗めの曲が多かったじゃないですか。こういう明るい曲調は新しいですよね。

水上:たしかにいままでのなきごとは夜とか涙のイメージが強いと言われてて、そこに心地好さを感じてくれる人もいたと思うんです。でも、ずっと人の泣き言を聴き続けるとしんどいなと思うところもあって。もっとなきごとをいっぱい聴いてもらうためには明るい曲も作りたいということを考えてたときに、姉の結婚式では弾き語りをさせられるかなと思って、この曲を作ったんです。しっとりやるのが自分っぽいけど、お祝いの日だからアップテンポで楽しいほうがいいのかなと。だから戦略的にというよりも、この曲だから明るい曲調にしたというのが私のなかでは大きいですね。

――出発点がお姉さんのためというのがあったから、自然にこういう曲になった。

水上:そうですね。

岡田:この歌はいろんな人に知ってもらいたいなと思うんですよ。いろんな人にお祝いの場で演奏してもらいたいですし、最初はお姉ちゃんのための曲だと思うんですけど、他の花嫁さんとか、贈る側の人たちにも寄り添ってほしい曲なんです。

――たしかに歌詞をじっくり聴かせてもらうと、妹からお姉さんへの意味だけじゃなくて、密かに思いを寄せていた幼馴染に贈る曲のようにも聴けるんですよね。

水上:そうなんですよ。Aの世界とBの世界というように、どっちにも解釈できるように曲を書いてて。それこそ幼馴染が結婚をして、僕のものではなかったけど、旅立ってしまって、「あ、好きだったな」と思う気持ちを描きたかったんです。姉には言えないですけど、けっこう寂しかったんですよね。誰かのものになっていくというのが。その気持ちをカモフラージュするために、こういう設定を作って。そっちの世界でも解釈できるようにとは思ってました。

水上えみり

――アルバムにはブラックミュージックのエッセンスを取り入れて、なきごとの新機軸になった「D.I.D.」も収録されます。かなりチャレンジングな曲だなと思ったのですが。

水上:これも純粋にこういう曲を作りたかったんです。ちょうど読んでた漫画がDID(解離性同一性障害)を扱ってて。オンとかオフとか、表裏一体の自分がテーマだったんです。それを読んで、自分にも、どうにもこうにもうまくいかないときと、無敵ゾーンに入ってる最強の自分みたいなのがいて、その最強の自分って体たらくな自分を押しのけて出てくるイメージがある。そういうオンとオフを意識した曲を作りたいと思ったんです。

――タイトルを「D.I.D.」と表記したのは?

水上:「誰でもいいから、どうにかしてくれ」の略のつもりです(笑)。曲を書くときは無敵モードに入るんですけど、少しあとになって見直したら、やっぱりこれはちょっと違うかなとか、いままでと似たり寄ったりなのかなとか、人から言われたことが頭のなかで再生されたりするんですよ。そういうときの気持ちですね。やっぱり基本、自己肯定感が低いのかなと思うんですけど、それを認めてあげたい。そういうのも表現したかったんです。

――サウンドはどんなふうに作っていったのですか?

水上:これはベースリフから作っていきました。そこを基軸に考えていって。

――そこにラップをのせて?

水上:いや、私のなかであれはラップのつもりはないんですよ。

――そうなんですね。メロディメイカーの方はラップの認識がなく、ラップっぽいフレーズを作ったりすることがありますよね。

水上:はい(笑)。自分のなかでジャンルの境界線がかなり甘くて。単純にこういう曲もやりたいなというところだったと思うんです。サウンドの話で言うと、初めて電子パットの音を使ってるのが大きいかなと思います。自分のなかでは4人で出せる音でしかやりたくないというのが強くあったので。電子パットはどうなんだろう? と悩んだんです。

――ええ。そこでいちいち悩むタイプのバンドだと思います、なきごとは。

水上:やっぱり生音にこだわりたいと思ってたんです。でも、純粋にこの曲のオンとオフというテーマには電子パットが合うかなと。結局、電子パットもパットを生で叩いてるじゃないですか。ポンッと叩いてずっと鳴ってるのは嫌だけど。同期演奏(事前に用意されていた音源に合わせて演奏すること)とは違って、パットを叩いてミスれば、そこはミスになる訳だし。結局それはほぼ生に近いものなのかもという解釈で腑に落ちた感じです。

――「Hanamuke」にしろ、「D.I.D.」にしろ、いまのなきごとのモードとして、これまでのバンドのイメージを打ち破りたいとか、そういう思いはあったんですか?

水上:特にないんですよ。

岡田:ただ自由にやるっていうことだけだよね。

――あ、そうなんですね。正直に言うと、結成から3年が経って、もっと自分たちを大胆に更新したいとか、脱皮したいというような気持ちがいまは強いのかなと思ってました。

水上:頑固じゃなくなったんですかね。開拓していこうというよりも、こういう音楽も好きなので、それを自然にやったという感じなんです。どちらかと言うと、私のなかで「D.I.D.」はもっとドープな感じでも良かったのかなと思ってるんですけど。なきごとがやったら、なきごとっぽくなったという。私が大元を作って、ギターは(岡田に)お任せしてたりとか、ベースもドラムもサポートメンバーの方がわりと「こんなのどう?」と提案してくれるので。プリプロからレコーディングまでのあいだにも変わっていって、かなりしっかりした音になっていったので。

岡田安未

――岡田さんは新しいアプローチのなかでギタリストとして、どう向き合いましたか?

岡田:トラック寄りにしようかなと思ってやりました。ベースがメロディックに動いてるし、歌詞も詰まってる感じなので、ギターはシンプルにしようと。後ろで支える感じにしましたね。

――とはいえ最終的のほうはいつものようにぐわっと出てくる。そこで岡田さんの存在があるから、最終的になきごとのロックになるんだなと思いました。

水上:そうなんですよね。なきごとはロックなんですよね。「Hanamuke」も「D.I.D.」も、私はもっとポップな感じになるかなと思ったんですよ。でも、みんなのロック魂が収録されていて。根底にあるロックがぐぐっと出てきてるんです。

――先に今回の新機軸だなと思った「Hanamuke」と「D.I.D.」の話を伺いましたが、今回のミニアルバム『パトローネの内側で』を作るうえで何か意識していたことはありますか?

水上:さっき「Hanamuke」で言ったことと重なるんですけど、なきごとをいろいろな人に聴いてもらおうと思ってました。高校生とか大学生がコピーバンドをしてくれるような曲がいいなと。いままでの曲はプレイヤーのカバーを突き放すような曲ばっかりだったんですよ。難しいことをしすぎてたので。歌詞とかも含めて、各々のパートが理解しきれないような境地にいた部分もあったんだろうなと思ったんです。そこの難易度を下げることによって聴きやすくするというか。ここはリフを聴いてほしいとか。ちゃんと自分たちが聴いてほしいところに意識がいくように作りたいなと思ってました。

――レコーディングで何かやり方を変えてみたことはありましたか?

水上:ちょっと変わったことと言えば、曲の意味を説明するようになったんですよ。

岡田:それだけで曲に対する意識が変わるなと思いましたね。この言葉はどういう意味なんだろうというのがわかると音も変わります。

水上:「ひとり暮らし」のベースは山崎(英明)さんが弾いてくれてるんですけど、いままでの自分からの脱却という曲の意味を説明したら、それを汲んだフレーズになってて。

――たしかに「ひとり暮らし」はエッジの効いたベースが印象的でした。アルバムの幕開けになる曲ですね。これぞ、なきごという感じの曲ですけど。

水上:これはアルバムのなかではいちばん最後にできたんです。全体的にゆったりとした曲が多いので、アップテンポなロックチューンを入れようという話をしてて。私はあんまり曲を作るのが速くないんですけど、それは歌詞を先に書くからかなと思ったんです。で、この曲はメトロノームを鳴らしながら、歌詞と平行して作ることを意識して。ライブでみんなが歌ってくれるところをイメージして作っていきましたね。

なきごと

――次々に音色が変わっていくギターは岡田節ですよね。

岡田:さっきの話に通じますけど、この曲は難しいことはやらずに空間を大事に弾いてますね。曲が持ってるカラーとか、ちょっと寂しい感じだけど、なんだろう……芯がある強い感じ。この曲は聴いたときに映像が鮮明に浮かんできたんです。誰しもが使ってるであろう身近なワードがたくさん出てきて情景を想像しやすい。その表現が上手いなと思いました。

水上:歌詞としては、ふたり暮らしからひとりになる暮らしになるというところを意識していて。誰かと一緒に住んでると、勝手にものが動いてたり、食べ物が減ってたりするんですよ。それが当たり前になるとわかんなくなるけど、ひとり暮らしになると、それがまったくなくなるじゃないですか。

――家に帰ったときと、家を出たときとが同じ状態ですもんね。

水上:むしろ変わってるほうが怖いですよね(笑)。その、ふたりからひとりになるというところをすごく表現したかったんです。

――それは実際にひとり暮らしをしている経験から書こうと思ったんですか?

水上:いや、シャンプーボトルを見て書いた曲なんですよ。うちは女3人で全員同じシャンプーを使うから、すごい減るのが早かったんです。1ヵ月もすれば、なくなってたものが……。

岡田:1ヵ月で?

水上:そう、みんな髪が長かったから。でもちょっとお高めの、1000円ぐらいのシャンプーを買って、ひとりで使ったらマジで全然減らない! と思ったのが本当のキッカケなんです。

岡田:ちなみに私は実家でも自分専用のシャンプーを使ってたから、そういうのはなくて、でも家族らしくていいね。

水上:そういうのは家庭によるよね。私的には、この曲の<なかなかか減らないシャンプーと計画的なコンディショナー>が上手く書けたなと思ってます(笑)。

――最後に収録されている「フィルター」はスローテンポでひとりごとのような曲だなと思いました。

水上:「フィルター」は書こうと思って書いた曲というよりは怒りみたいなものが大きくて。私、1年半ぐらい前から推しができたんですよ。

――誰ですか?

水上:いや、すみません、公表はしてないんです。

岡田:存在を明かしてくれないんですよ。

――岡田さんも知らないの?

岡田:はい、誰なのかわからない。でも、だんだん絞れてきたよ。

水上:ダメだよー!

――で、推しができて?

水上:推しへの目に余るほどの誹謗中傷があって、それを見て悲しい顔をしてる瞬間があったんですよね。自分への誹謗中傷もあるからわかるんですけど、「そんなの気にしなくていいんだよ」というのが、周りからの主な回答なんですよ。「そんなん言いたいだけだから言わせておけ」とかすごい言われるけど、でもそれは本当なのかな? とも思ってて。それで自分が傷ついてるのも事実だし、気にしないことなんてできないこともわかってる。だから、私はこう思っていますというのが推しに届けばいいなと思ったんです。

なきごと

――<よく見て、よく聞いて、何と向き合うべきか>とか<自分で決めていいんだ>とか、そういう優しい言葉を届けたかったんですね。

水上:はい。月は、きれいなものにたとえられることが多いけど、ネットを真っ黒な海にたとえたときに、ぽっかり浮かぶ月みたいな感じで誹謗中傷が浮かんで見えるなと思ったんですね。でも実は自分に対するいいコメントをしてくれるも人もいっぱいいる。どうしようもなく、そっちが気になっちゃてるだけなんだよというのを遠回しに言えたらなと思ったんです。

――なるほど。

水上:この曲のお気に入りポイントを言っていいですか?

――聞かせてください。

水上:ギターなんですけど。歌詞で<君は君だけだ>書いてるんですけど、それが「ドリー」に近いことを歌ってるなと思ったんですよ。

――ドリーでも<君は君でしかないんだ>というフレーズがありますね。

水上:そう。それでその部分のギターリフにちょっとだけ「ドリー」のフレーズを入れてもらっているんですよ。聴いたときに「ドリー」を思い出してほしいなと思って。

岡田:こういう楽曲のリンクは、ファンとしてはすごくうれしいですね。ギターとしては、「フィルター」は支える曲だなと思ったので優しく包み込むように、撫でるように弾きました。で、最後は心が晴れるような音になってるので、強気になって前に進むようなフレーズにしましたね。

――この曲のタイトルの「フィルター」というのが、『パトローネの内側で』というアルバムのタイトルにもつながってるのですか? パトローネというのはカメラの用語ですよね。

水上:フィルムの黒い部分の遮光板の部分をパトローネというんです。パトローネの内側というのはまだ光を取り入れてない真っ新なフィルムということで、そのフィルムに写真を投影するような感じで、このアルバムに自分の生活を重ねて聴いてもらいたいです。このアルバムは全曲を通して、自分の幸せとは何だろう? というものを問いかけてて、それが裏テーマなんです。聴いてくれる人がちょっとでも幸せって何だろう? 考えてくれたらいいなと。

なきごと

――そのあたりのことをストレートに歌っているのが「不幸維持法改定案」?

水上:そうです。苦労話とか、そういうのを話してる人のほうがなぜか支持されるなと思ったんですよ。「自分はこれだけつらいことをしてきました」と言うと、「あ、その人はすごいがんばってたんだな」と称賛されがちなんだけど、それは本質的じゃなくて。別に苦労してなくても、その人が幸せであることには何も変わりはない。不幸を維持してることを正義みたいにいうのは違うと思ったんです。それを「不幸維持法」という言葉としたときに、それを改定していきたいなと。苦労してるから素晴らしい人になるんじゃなくて、別に苦労してなくても、素晴らしい人はいるし。

――逆に苦労を明かさないだけで、がんばってる人もいますしね。

水上:それが見えないと、何も苦労せずにポンッと出てきたと思われたりするんですよね。でも実はその人にもがんばってきたバックボーンがあるはずだから。それまでの人生を否定するようなことになるのかなと、そういう気持ちを曲にしたかったんです。

――そういう考え方を抱くようになったきっかけは何かあったのですか?

水上:中学のときに「不幸の数だけ人は幸せになれる」みたいな持論の先生がいたんです。不幸で涙を流すことによって幸せを知ることができる。不幸を知らなかったら、自分が不幸であることも気づかないと言うんですよ。それがちょっと違うような気がしてて。

――相対的に幸せを判断するんじゃなくて、幸せはもっと絶対的なものとして捉えたほうがいいような気はしますね。不幸なときと比べて幸せとか、誰かと比べて幸せとかじゃなくて。

岡田:テレビの印象操作というか、ドラマで観る幸せが幸せすぎて、自分のいまが幸せじゃないんじゃないかと思っちゃう節もあるんじゃないかと思うんですよね。でも最終的に幸せかどうかと思うのはその人次第でいい。それを人に押し付けるなということかなと、私は思いました。

水上:自分なりの幸せでいいですよという気持ちですよね。

取材・文=秦理絵 撮影=高田梓

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