『M bit Live #2』UA×アイナ・ジ・エンド、EX THEATER ROPPONGI公演のオフィシャルレポートが到着
2024年10月21日(月)にEX THEATER ROPPONGIにて『M bit Live #2』が開催された。本記事では同公演のオフィシャルレポートをお届けする。
2024年10月21日(月)、『M bit Live #2』が行われた。これは「ひとりひとりの人生に音楽との出会いを届ける」ことを掲げた企画「M bit Project」による2度目のライブ。第一弾では渋谷WWWを舞台にOriginal Love Jazz TrioとSTUTSが共演したのだが、そんな限られた人数のみ目撃することのできたシークレット感から一転、今回はグッとキャパシティを拡大してEX THEATER ROPPONGIが会場に選ばれた。登場するのは、UAとアイナ・ジ・エンドである。
オープニングのジングルが終わると、ズーンと会場丸ごと震撼させる重低音のイントロが鳴り出し、舞台袖からゆらりと歩み出たのはアイナ。官能的に舞い、時折ステージに膝をつき倒れ込んだりしながら歌うのは、2018年にMONDO GROSSOの楽曲に客演として参加した「偽りのシンパシー」だ。当時、グループの一員としてだけでは語れない彼女の特異な“個”を世に知らしめた楽曲である。ダンサーを伴い繰り出す、表情から指の先まで神経を行き届かせたしなやかなパフォーマンスと、微かなノイズを含んだウィスパーボイスの凄まじい求心力たるや。続く「Frail」では強靭なダンスビートに乗ってソウルフルな歌声を披露。返しのスピーカーに片足をかけ、「行けるか!」と檄を飛ばせば大音量のリアクションが飛ぶ。とにかくフロアの熱量も高く、リズミカルなスウィングビートで迫る「ZOKINGDOG」ではポーズ付きで「ワンワンワン」の大合唱だ。曲中、「やばいよ、今日はUAさんと対バンだ! UAさん、大好き!!」とアイナは快哉を叫ぶ。
両者の出会いはおよそ2年前のミュージカル『ジャニス』での共演に遡る。そこではアイナが主役としてジャニス・ジョプリンを演じ、UAはジャニスがリスペクトを抱く存在アレサ・フランクリンを演じている。そこでは初主演の大役というプレッシャーに潰されそうなアイナをUAが励ますといった交流があったそうで、初の対バンながら相思相愛で互いをよく理解する間柄だ。また、バンドメンバーのうち西田修大(G)と大井一彌(Dr)が両者のサポートを務めるという共通点もある。
その西田と大井も交えて制作したという新曲は「風とくちづけと」。柔らかくも力強いミドルナンバーに乗せて「オーオーオー」というチャントが飛び交う様子は、重厚感のあるライブの中で涼やかな空気を感じる一幕だった。さらに、前述した共演時のエピソードを明かしつつ「いつかわたしもUAさんみたいに人を守ってあげられることを言いたいな」と憧れを口にしたあとには、UAの名曲「悲しみジョニー」をカバーした。UAのレパートリーの中でも不穏さとスリルが表出したタイプのサウンドは、アイナとの相性抜群。音源化を希望したいレベルのハマりっぷりだった。終盤にはヘヴィな音に乗せシャウト混じりのエモーショナルなボーカルで魅せた「Love Sick」、そしてリズミカルに弾ける「サボテンガール」で締め。ライブ中何度も覗かせていた不敵でクールな微笑は、ここでは満足げな優しい笑顔に変わっていた。
後攻めのUAもアイナと同様、イントロの鳴り出す中をゆらりと舞いながら登場。しかし纏う空気は対照的で、シリアスに張り詰めたアイナのそれよりもふわりとした包容力を感じる。ギター、ベース、ドラムに加え二機の鍵盤と2名のコーラスも加わり生み出すサウンドも、UA自身の歌声も角の取れた丸みを帯びたもの。そのぶんグルーヴのコシは抜群に強く、身体の奥底に作用して突き動かしてくる。ライブ序盤には「微熱」「お茶」と近作からの楽曲をチョイス。後者では「みんなアツすぎない? 凄かったね、アイナっち」と賛辞を送りつつ上質なディスコサウンドで場内を揺らす。基本的にセンターのマイクスタンド前から動かずにパフォーマンスするのだが、歌声のニュアンスや身振り手振りによる表現力と存在感はピカイチで、フェイクやラップをシームレスに織り交ぜる歌唱力にも目を見張るものであった。流麗なピアノの音色からはじまった「数え足りない夜の足音」では、ここまでの浮遊感漂う展開から一変、ローの効いた野生的なビートとファンクネスで重厚なアプローチ。さらに「スカートの砂」ではシンプルな構成とスローなテンポながらオルタナロック的な凄みを、「閃光」ではネオソウル調のモダンなサウンドと、多彩な引き出しでも楽しませる。
「今日は運命の夜だと思ってます。大好きなアイナとこんな夜を過ごせるなんて信じられない。アイナと六本木心中よ!……ウソウソ(笑)」と、くだけた調子のMCから唐突に流れたしたイントロがあの「情熱」なのだから堪らない。パワフルさと繊細さがトレードオフの関係になっていない生命力に満ち溢れた歌声と、遊び心も忍ばせたフリーキーな歌唱スタイルとアレンジ。極上のグルーヴを生み出すバンド陣の演奏。ステージ上から放たれるもの全てに刮目する時間となった。さらに畳み掛けるように「アイナっちの名曲を──」と披露したのは「粧し込んだ日にかぎって」だ。2番に差し掛かったタイミングではアイナが現れ、コンテンポラリーなダンスで魅了。ラスト、アイナにもたれかかったUAが耳打ちするように<愛してるよ>と歌い、アイナがその頭をそっと撫でる一幕はまるで名画のワンシーンのようであった。
後半にかけてはよりギアを上げていくUA。歌とコーラスの絡みが呪文的な響きを生む怪しげな立ち上がりから、シンセや尖ったエレキギターの音とともにテクノ系のダンスナンバーが立ち上がっていく「AUWA」。そこから民族音楽的なプリミティヴな興奮をもたらす「TIDA」へと繋ぐ展開で圧倒する。メンバー紹介を経て陽性ダンスビートとバキバキのデジタルサウンドのコントラストも見事な「太陽手に月は心の両手に」でライブを終えた。ソウルやR&Bといった自身のルーツも、ポップシーンで輝いたヒット曲の数々もしっかり披露しつつ、そのどちらに寄りかかるでもない斬新な表現を求め続ける姿勢を何より感じるアクトであった。
アンコールではUAとアイナがじゃれ合うようにして登場。本編の緊張感から一気に和やかな空気のもと、撮影OKである旨を告げた上でUAの「HORIZON」を共に歌った。まもなく30周年を迎えるUAのデビュー曲であるこの曲に、アイナが初めて触れたのは幼稚園の送り迎えの車内だったそう。それだけの年齢・キャリアの差がありながらも互いの音楽と表現を通じて響き合い、こうしてステージに並び立つこととなった2つの才能。奇跡的な光景を噛み締めながら、『M bit Live #2』は幕を閉じた。なお、同シリーズの『#3』も既に進行中とのことで、世代やジャンルを超えた次なる「音楽との出会い」にも胸が高鳴って仕方がない。
文=風間大洋
撮影=Kazuhiko Tawara