【田瀬びと】彫刻家・菅沼緑さん

1/17(水) 14:28配信

「音楽のように作品を感じてほしい」

菅沼緑（すがぬまろく）さんと話をしていくなかで出てきた、こんな言葉。

この言葉が緑さんの作品を物語っている、と感じました。

「田瀬びと」はじめます

みなさんこんにちは！東和町の地域おこし協力隊、柏谷恵です。

早いもので、花巻市東和町に移住してきて９ヶ月が経とうとしています。

2024年、東和町で過ごすはじめての冬は、１月中旬の現在雪が思いのほか少なく（こんなに雪がないのは珍しいとか）、びっくりしています。

さて、数か月過ごしてきて田瀬をはじめ東和町の良さをたくさん実感していますが、あらためて、皆さんの人柄がとても素敵だな、と感じています。

なんというか、ただ優しいだけではなく、大らかというか、いろんな人や物事を受け入れる懐の深さがあると思います（移住者にはありがたいですね）。

皆さんひとりひとりが、このまちの良さの”核”部分なのかもしれない。

もっと色んな方々とお話ししたい…そう感じている今日この頃です。

ということで今回から、そんな東和町…中でも「田瀬」の魅力的な人に焦点を当て、掘り下げていく企画「田瀬びと」をスタートしようと思います。

皆さんの素敵なお人柄、そして穏やかな空気感を感じていただければ幸いです。

まず第１回目として、田瀬在住の彫刻家・菅沼緑さんのアトリエにお伺いして、色々とお話をお聞きしました。緑さんとは、わたしがアート関係に興味があるため、紹介していただきました。

それでは、本編へどうぞ！

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田瀬での暮らしは2011年から

菅沼緑さんは、もとは東京生まれ。その後、神奈川県や北海道等を経て、ここ東和町に2000年にやってきました。

––柏谷（以下略）：最初から田瀬に住んでいたわけではないのですね。

菅沼緑さん（以下緑さん）「最初は、東和町北成島に住んでいました。東和町に来る前は神奈川県藤沢市にいたのですが、都会の生活が嫌だったので、どこかＩターン支援で受け入れてもらえるところはないかと、いろいろな場所にメールを送りました。そしてすぐに返事が来たのが東和町だったのです。それですぐに東和町を訪ねて、北成島の家を紹介してもらいました。そこはガレージがアトリエとして使えるし、搬出入がしやすくて良かったですね」

その8年後（2008年）田瀬に来る機会があってすぐにこの場所が気に入り、住む場所を探して３年後に晴れてこの地で暮らすことになったそうです。

––田瀬のどこに魅力を感じたのでしょうか？

緑さん「やっぱり景色ですね。初めて来たのが夏の日だったのですが、田瀬振興センターの横に見える砥森山（ともりやま）が夕日に染まって真っ赤になっていて。その景色を見て、ここに住むんだ！って決意しました。毎朝散歩していますが、飽きないですよ。いつも違った表情が見られる。湖もあって、開放感があるし、気持ちいいですね」

話を聞いているアトリエの一室では、田瀬湖が見えます。その日快晴だったこともあり、部屋は明るい光でいっぱい。そしてなにより、とても静かです。

––今日はお天気が良くて気持ちいいですね。湖が見えるし、明るくて静かで、とても素敵なアトリエです。

緑さん「とても気に入っています。夕暮れなど、時間によっては、モノがとても美しく見えます」

このアトリエは、もとは保育園として利用されていました。廃園後、役所に相談しアトリエとして使わせてもらっているそうです。

いたる所に保育園時代の名残があります

作品が生み出される場所へ

さて、どんなところで作品たちはつくられているのでしょうか。

制作場所に入ってびっくり。工場かと見間違えるほどの機械の数々！

緑さん「自分は機械マニア。どんな機械を使えば、自分のつくりたい作品ができるか、試行錯誤するのが好きなんです」

機械だけじゃなく、工具や塗料、なんでも揃っているように見えます。

これから作品になるモノたち

また、作品を収納している倉庫にもお邪魔し、作品を手に取って見ることもできました。

緑さんの作品といえば、カラフルな「色」、そして単純かつユニークな「カタチ」。

オモテ

ウラ

緑さん「空洞にすることをルールにして、作品をつくっています。最初は木から切り出してつくっていたんだけど、重くて、運べない。自分でつくって、自分で運べるものじゃないと」

カタチをつくるための周囲の木は、曲げやすくて薄いベニヤ板だそうです。

自由自在にいろんなカタチを創造できる…カタチの魔術師！だと思いました。

（ちなみに色合いは、カタチをより強調できると考えてカラフルにしているのだそうです）

作品について聞いてみました

––この作品たちは、なにかテーマはありますか？伝えたいことや、カタチに理由はあるのでしょうか。

緑さん「特にテーマや理由はありません。思いついた、好きなカタチというだけです」

創作する＝なにか理由がある、伝えたいことがあると思い込んでいた私。正直シンプルすぎる回答にびっくりしました。

––鑑賞する方にこう感じてほしいなどはありますか？

緑さん「うーん。観る方に求めることは特にないから難しいけど…。強いて言えば、フィーリングが合えばうれしいかな。音楽だってそうじゃないですか。この曲は好き、この曲は合わない、ありますよね。音楽を楽しむように作品も感じてほしい。音楽を聴くように、作品も感じてもらって、好きだと思ってもらえたらうれしいことです」

彫刻作品を、音楽のように楽しむ。彫刻だけではなく、ほかのアート作品についてもそんな風に考えたことのなかった私は、またしても衝撃を受けました。

緑さん「“すべての芸術は、音楽の状態に憧れる”という言葉があります。音楽は、聴けば、わかる、伝わる。彫刻作品も、そんな風に感じてほしいですね」

音楽は、理屈じゃなく感覚的に理解できる…そういったことを大切にする。何かと頭でっかちになりがちな自分にとっては、とても大切な概念のように感じました。

––もし音楽が奏でられたら、音楽で表現したいと思いますか？

緑さん「思わないです。彫刻という表現方法が好きだから。何ごとも、好きだから、やる。好きだからこそ、自然とその作品に魅力があふれ出てくるものだと思います」

たしかに、表現方法を考えるところから始めるなんて、ないですよね。なんでも、スタートは「好き」ということ。

（彫刻家の方に対して、失礼すぎる質問をしてしまいました…）

想いの根源にある「さくらが丘パルテノン」

緑さんは現在、東和町の廃校などを利用して若手アーティストのアトリエ兼居住スペースをつくりだせないか、ということを考えています。

緑さん「アトリエがなくて困っているアーティストは全国にたくさんいる。そして地方には空き家やもう使われなくなった施設などがたくさんあり、活用しないともったいない。耐震基準などの関係で、簡単にとはいかないけれども、ここでもそういった取り組みはできるはずです」

現在、各所に相談したり、めぼしい施設の耐震を確認したりなど各方面に働きかけて実現に向けて動いています。

緑さん「自分は東京都豊島区にあった、芸術家たちが住むアトリエ付き住宅群“さくらが丘パルテノン”というところに住んでいました。父も彫刻家だったのですが、そういったところで暮らしながら創作活動をしていました。アトリエ部分が家の多くを占めていて、居住スペースは4畳くらい。鍋や調味料もみんなでシェアするような感じで、物を貸したらみんなのところを一周して返ってくる、みたいな環境でした。だからプライベートはないです。でもみんなで芸術について語ったり、助け合ったり、分かち合っている感じがよかったんですよね」

そういった当時の記憶が、今構想している若手のアトリエ兼居住スペースの場所づくりに繋がっているそうです。

共同で暮らしを営む…小さな「ムラ」のようなイメージが湧きます。人と人の繋がりが希薄になりがちな現代において、とても豊かな暮らしに思えますね。