“すでにあるもの”に気づける豊かさを、森で学ぶ。――週末北欧部chika【learn learn FINLAND―北欧で、生き方を学ぶ記録】
北欧好きをこじらせて、ついにかの地への移住を果たしたコミック作家、週末北欧部chikaさん。そこで出会ったのは、「学び」によって人生を耕す人々と、それを後押しする社会。学びをとおして“世界の見え方”が更新され、新しい人生が形作られてゆく――そんな「学びの先にあったもの」を見つめるエッセイです。(毎月第1水曜日更新)
※NHK出版公式note「本がひらく」の連載「learn learn FINLAND ――北欧で、生き方を学ぶ記録」より
#02 森のきのこ狩りレッスンに行く
私がきのこ狩りレッスンに行こうと決めたのは、フィンランド人の友達と森へ行った体験がきっかけだった。
「森へきのこ狩りに行こう!」と誘われた初心者の私。持ち物を確認すると「歩きやすい靴と虫対策の長袖長ズボン、それと飲み水があれば十分だよ」と教えてもらった。友達と一緒に食べようと、少しだけお菓子を詰めて待ち合わせ場所へ向かうと、白樺のバスケットを手にした友達が現れた。
「素敵なバスケットだね!」と伝えると、「きのこ狩り用なんだよ」と教えてくれた。中にはきのこ用ナイフ、コーヒーポット、2人分のホーローカップ、ブルーベリーパン、仕分け用バッグまで入っている。「持ち物、本当はこんなにあるんだ……」と驚きつつ、初心者の私の負担にならないように必要最低限だけ伝えてくれていたことがわかり、じんわり感謝した。
森へ入ると、足もとに次々ときのこが見つかる。「これは食べられる?」と聞くたびに、「これは食べられない」「これはおいしくない」「これは知らない」と首を横に振られることの方が多い。どうやって覚えたのか尋ねたところ、「子どものころ、おじいちゃんが森に連れて行ってくれて、種類や食べ方を教えてくれたんだ」と話してくれた。
食べられるきのこを見つけた友達はさっとナイフを取り出し、「森できのこを掃除しておくと後が楽だよ」と言いながら、虫食いの部分を切り落とし、ブラシで土を払っていく。家に帰ると「これがいちばんおいしい」とバターでソテーして出してくれた。
私にも学べる場所
宝探しのような楽しさと、森の楽しみ方をよく知っている友達の姿を見て、「私もこんなふうに秋を楽しみたい!」と思った。けれど、私にはフィンランドの森に詳しいおじいちゃんはいない。
そんなとき、ヘルシンキが運営する労働者学校のコースに「きのこ狩りレッスン」があったことを思い出し、「ここで学べる!」と心が躍った。
きのこ狩りレッスンの申し込みサイトを見ると、とても人気のレッスンらしく、最初の年は募集開始と同時に満席に。翌年は少し気合を入れたけれど、結果は同じだった。それでも今回は、思い切って「列に並ぶ」というボタンをクリックしてみることに。
期待はしていなかったけれど、ある日ふいに「キャンセルが出ました」と一通のメールが届き、ほんの少しだけ粘ったことで森への扉が開いたような気がした。
きのこ狩りレッスンへ
当日、手に入れた白樺のバスケットを持って集合場所へ行くと、同じように佇む人たちがいた。言葉を交わさなくても、手に持つバスケットで「同じ森へ向かう仲間」だとわかってうれしくなった。
最初にきのこの見分け方レッスンを受けた後、みんなで森へ入ると「見つけた!」という声があちこちから上がった。それぞれが見つけたきのこを先生のところへ持って行き、「これは食べられる」「これは毒」「これは食べられるけれどおすすめしない」「これは育ちすぎている」など、ひとつひとつ判定してもらう。
気づくといつの間にか、グループは自然と散っていた。先生の現在地がわかるアプリがシェアされているので、広い森の中で誰かと並んで歩いてもいいし、ひとりで黙って歩いてもいい。まとまらなくていい雰囲気も、ひとり参加の私にはとても楽だった。
森の中では、先生に言われたとおりにしゃがみ込み、同じ場所をそっと見つめてみた。そうしているうちに「見つけなきゃ」「学ばなきゃ」と急いでいた気持ちがゆるみ、最初は見えなかったきのこがふっと姿を現した。静かに目を慣らしているだけで見えてくるものが増えたことで、「立ち止まること」そのものの大事さを知った気がする。そんな静かでゆっくりした時間を過ごしながら、きのこだけではなく「森での過ごし方」そのものを学んでいるように感じた。
マッシュルーム・エキシビション
レッスンの最後は先生が「マッシュルーム・エキシビションをしましょう!」と声をかけ、みんなが採ったきのこをずらりと並べ、先生がひとつずつ確認していく時間があった。
私の収穫を見た先生は、「これはヘッジホッグマッシュルーム。私はスープにするのがいちばん好きです!」とコメントしながら、ミルクスープのレシピを教えてくれた。他にも、保存の仕方として軽く炒めてから冷凍すると風味が残りやすいことや、きのこによっては乾燥させるのに向いているものもあって、スライスして室内のテーブルに置いて干すだけでもよいことを教わった。
これまで私は、よく知っている数少ないきのこだけを頼りにきのこ狩りを楽しんでいた。けれど今回のレッスンで、「確信を持って見分けられるきのこ」が少し増えた。
森は変わらない。けれど少し学ぶだけで、見える景色は大きく変わる。
新しいものを生み出す学びも楽しいけれど、すでにあるものへの気づきが増える学び直しにも、深い豊かさがあると知った一日だった。
変わらない森と、次の週末
帰り道、すすめられたとおり、少し良いバターと生クリームを買った。教わったようにきのこを炒め、ミルクを加えてスープを作ると、いくつかのきのこが混ざり合って、深い味になった。
スープを飲みながら、先生の言葉を思い出す。
「できれば、すぐにまた森へ行ってください。覚えたことは、時間が経つと本当に消えてしまいますから」
その言葉どおり、次の週末には、もう一度森へ出かけた。こんどは私から友達を誘い、レッスンで教わったきのこを紹介しながら歩いた。今まで“教わるだけ”だった自分にも、小さな引き出しができたようでうれしかった。
森は今日も、静かに同じ場所にある。けれど、私の目に映る森はほんの少し、前より豊かになっていた。
きのこ採りについての小さなお願い
登場するきのこや見分け方は「その場で先生に確認しながら判断した一例」です。
森で実際にきのこを採って食べるときは、必ず信頼できる専門家に聞いたり、ガイドなどで確認したりし、少しでも迷いや不安があるきのこは「採らない・食べない」と決めておくことをおすすめします。
プロフィール
週末北欧部chika
フィンランドが好き過ぎて13年以上通い続け、ディープな楽しみ方を味わいつくした自他ともに認めるフィンランドオタク。移住のために会社員生活のかたわら寿司職人の修業を始め、ついに2022年春に移住。モットーは「とりあえずやってみる」。好きなものは水辺、ねこ、酒、一人旅。著書に『北欧こじらせ日記』シリーズ、『マイフィンランドルーティン100』シリーズ、『世界ともだち部』シリーズ、『フィンランド くらしのレッスン』、『Tasty! 日刊ごちそう通信』、『まいにちヘルシンキ』など多数。
バナータイトルデザイン 山崎友歌(Y&Y design studio)