【君の名は。】北関東ブラザーズが栃木県足利市へ / 第3回:奇跡の再会は夕陽の境内で…渡良瀬橋の記憶と無情な運命
北関東を愛し、北関東に愛された「北関東ブラザーズ」がいきなり大ピンチ……前回、仲間の1人・古沢がワープに失敗して時空の狭間へと消えた。足利駅前に残されたのは、彼が大事に持っていた「北関東ノート」ただ一冊。
古沢は生きているのか? 彼はどこへ行ってしまったのか? 時空の狭間に取り残された仲間を救う術は果たしてあるのか……北関東ブラザーズの異次元宇宙大戦争が幕を開けようとしている。第3話、始まります。
古沢ァァアアアアア!
古沢ァァアアアアア!
・よみがえる記憶
──渡良瀬川のほとり、夕焼けに染まる足利の空。眠っていた記憶が静かによみがえる……
── 数年前 ──
「渡良瀬橋で見る夕日を あなたはとても好きだったわ きれいなとこで育ったね ここに住みたいと言った」
古沢「森高千里さんの渡良瀬橋、いい歌ですね」
砂子間「わかる」
古沢「足利市の夕焼けも見事です」
砂子間「わかる」
古沢「僕……いつか生まれ育った北関東に恩返しがしたいと思っていて」
砂子間「わかる」
──その2秒後、我々は「北関東ブラザーズ」の結成を決意し、2人で涙を流しながら『渡良瀬橋』を合唱したのだった。
そして夢を叶えた結果、古沢はワープに失敗して時空の狭間を彷徨うことに……運命とは無情なものである。
・夢を叶えた代償
もしかしたら……の話だが、群馬在住の古沢は、太田市(群馬県)から足利市(栃木県)へワープする際に、見えざる結界・通称「群馬の壁」を越えられなかったのかもしれない。
これまで数多くの勇者の行く手を阻んできたとされる群馬の壁。一説によると、渡良瀬川の流れすら、その力を恐れて静かに蛇行したらしい。
まだ彼には早すぎたのだろう。あるいは北関東ブラザーズの宿命を背負う者として、群馬の壁を越える試練を与えられたのだろうか。
しかし彼はもう……運命は無情であると同時に、残酷なまでに美しい。古沢、君の犠牲は決して無駄にしない。安らかに眠れ。
・生きていた古沢
…………
古沢「こ、こ、ここは……!」
古沢「僕が生まれた亀山産婦人科医院だ」
古沢を魔境・群馬の壁から救い出したのは他でもない……彼がこの世に生を受けた亀山産婦人科医院(足利市)だった。産声をあげたその場所が、ふたたび彼を呼び戻したのだ。彼にはまだ果たすべき使命があるということだろう。
・運命を受け入れて
病院の目の前にあるのが「足利氏宅跡」として国の史跡に指定されている「鑁阿寺(ばんなじ)」。源氏・足利氏の守り本尊である大日如来を祀り、春は桜、秋はいちょうの黄葉が美しく、市民からは「大日様」と呼ばれ親しまれている人気スポットだ。
その荘厳な山門が彼を迎え入れる……古沢は吸い込まれるように境内へと足を踏み入れた。
・運命だとか未来とかって
──これもまた運命なのだろうか。 足利駅から全力で駆け抜けた私は、息を切らしながら鑁阿寺の東門にたどり着いた。その静寂の中で私は確信していた……「ここで古沢と再会できる」と。
静まり返る鑁阿寺の境内。夕陽が差し込み、石畳に長い影を落とす。
その時……山門の向こうからゆっくりと歩いてくる人影があった。
胸が高鳴る。時空を超えて、運命に導かれるように思わず叫んだ。
「あの、俺、君のこと、どこかで……」
「僕も……」
夕陽が2人を照らし、世界が一瞬だけ静止する。 声が重なり、時空が震える。そして2人で同時に……
「君の名は」
「まだこの世界は 僕を飼いならしてたいみたいだ 望み通りいいだろう 美しくもがくよ……」
来世は東京のイケメン男子にしてください!
でも現世は……
We are 北関東ブラザーズ!
・普通に観光
奇跡的な再会を果たした我々は、北関東ブラザーズとしての役割を全うすべく、普通に観光を再開した。鑁阿寺の表参道には室町幕府を開いた足利尊氏像がある。言うまでもなく、征夷大将軍との記念撮影は必須だ。
日本最古の学校こと「足利学校」はすでに閉館していた。かのフランシスコ・ザビエルが「日本国中最も大にして最も有名な大学」と世界に紹介した名門。門越しに眺めるだけでも歴史の重みが伝わってくるだろう。
・地元民に愛される名店へ
そして……今回訪問した地元民オススメのグルメは、足利で長年愛されてきた昔ながらの焼鳥店「鳥勝」だ。
扉を開けると「ただいま」と言いたくなるような懐かしい空気が漂っている。
こういうお店こそ、旅人にとって一番居心地がいい。お通しの「おでん」が旅の疲れをやさしく癒してくれる。
串はどれも絶品だった。カシラは噛むほどに旨みがあふれ、ナンコツのコリコリとした食感も文句なし。皮も香ばしく焼き上げられている。ビールとの相性は言うまでもないだろう。
なかでも想像を超えたのが、おすすめされたイカリング(オニオンサラダのせ)。サクサクの衣に包まれたイカの旨みとシャキシャキのオニオンサラダが絶妙に重なり合う。激ウマです。確実に頼むべき一品だろう。いい店だった。
・屋台コーヒーへ
足利の夜のラストを飾るのは、全国でも珍しい屋台スタイルの喫茶店「カフェアラジン」。昭和46年創業の異国情緒あふれるコーヒースタンドだ。
メニューは潔く、ホットコーヒー1択(500円)である。
ネルドリップで丁寧に淹れられた1杯は香り高く、深みがありながらも後味スッキリ。シメにふさわしい味わいだ。2人で1杯ずつ頼み、言葉少なにカップを傾ける。
夜風に吹かれながら、ランプの灯りに照らされた湯気を眺める。とても贅沢な時間だった。
・試練は続く
ワープに失敗した古沢の奇跡の生還、そして運命の再会、足利の旅は異常に長く感じられた。こうして「北関東ブラザーズ in 足利」は数々の試練を乗り越え、なんとか無事に幕を閉じたのである。
だがしかし……!
──次回、北関東ブラザーズにさらなるピンチが襲いかかる。果たして我々は運命の荒波を乗り越えられるのか……北関東の未来を賭けた宇宙大バトルが、今始まるッ!
執筆:砂子間正貫
Photo:RocketNews24.