“中東紛争”が日本の住宅価格&住宅供給に与える影響│中山登志朗のニュースピックアップ
原油の90%超を中東4ヶ国に頼る日本はナフサ由来の製品コストが今後上昇
日本は原油の90%超を中東のサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、カタールなどに依存している。これら4ヶ国はペルシャ湾を挟んでイランと隣接しており、原油輸出はホルムズ海峡(※)を通るルートが主流だが、中東情勢の悪化により同海峡の輸送への懸念が高まっており、時間もコストもかかる状況に変化している。
※ホルムズ海峡は国際条約ですべての国の船舶の航行が許されているが、過去紛争が発生する度に海峡閉鎖や通行禁止が交渉カードとして使われている
2月末に開始された軍事侵攻は早期の終結が計画されていたが、約2ヶ月を経過しても停戦協議すら目途が立たず膠着状態となっている。今後、イラン情勢が悪化もしくはさらに長期化すれば、日本は備蓄している原油を状況に応じて放出し続けることになり、またホルムズ海峡の航行に支障が出れば、従前より高コストな原油を購入することになる。そうなれば、ガソリンや軽油の価格上昇は当然のことながら(政府は補助金投入によって価格上昇を抑制する構想)、原油から精製される原材料=ナフサの供給逼迫および価格上昇の可能性が高いため、ナフサ由来の製品価格の上昇が見込まれる。
住宅関連の資材としては、断熱材(ウレタン・ポリスチレン)、配管用パイプ(塩化ビニール)、コーキング材を含む外壁・内装の樹脂製品、接着剤・接着溶剤、塗料・シンナー、防水シート、気密テープなど実に多くがナフサを原材料として製造されている。これらの供給が逼迫して入手困難になるなどで価格が大幅に上昇すれば、住宅の新規供給および価格にも確実に影響を与えることになる。
“ナフサ・ショック”はウッド・ショック以上のインパクト 住宅設備全体に影響が及ぶ
原油を蒸留し不純物を取り除いて精製されるナフサ=粗製ガソリンは、プラスチック、合成ゴム、合成繊維など石油化学製品を製造するうえで欠かすことのできない原材料であり、接着剤、塗料にも使われる “石油化学製品の米”とされる基幹原料だ。住宅建設の原材料・設備にも数多く使用されており、ユニットバスやトイレ、洗面台、システムキッチンなどの水回り設備・製品、塩化ビニール製の配管・コード類、近年断熱性が高く導入が進む樹脂サッシ、壁紙やクッションフロアなどもナフサが欠かせないから、住宅市場においても影響は極めて大きい。
実際に、4月にはTOTOやLIXIL、パナソニックなど住宅設備メーカー大手が相次ぎ新規受注停止、納期未定での受注を余儀なくされ“ナフサ・ショック”という言葉が飛び交ったが、政府がナフサの供給懸念による上流工程での製品の出荷を絞り込む行為(目詰まり)を回避するよう素材メーカーや元売事業者に強く要請し、現状は沈静化に向かっている。
ただし、先行きの見通せないイラン情勢が今後、悪化・長期化すれば原油の輸入は不安定になるのは確実だ。それはナフサの生産量および価格にも直結し、特に新築住宅については完工および引き渡しの遅れや請負契約の中断などが発生する可能性が高まる。新築住宅の引き渡しができないということになれば最悪の場合、住宅購入が契約解除になるケースも想定される。
一方の既存住宅も、購入時にリフォームするのは半ば常識だから、特に水回り設備の交換については今後影響が出てくるものと考えられる。建設工事・リフォーム工事が完了するまで住むことができないのは、新築住宅も既存住宅も同じで、共通の課題・懸念材料になる。
現在、マイホーム購入や修繕・リフォームを検討している人がとるべき対策は?
エンドユーザーが取ることのできる対策はほぼない。また、住宅は買って終わりではなく、引き渡しを受けて鍵を受け取り、所有権の移転登記など手続きがすべて済んで初めて“我が家”になるから、売買契約、リフォーム契約を締結しているので安心、ということではない。
仮に住宅の引き渡しが当初の予定から遅れることになれば、現在居住している住宅の退去時期にも影響するし、また大幅に遅れれば遅延による損害が発生する可能性もあるが、当然のことながら、これらは個々の住宅購入において状況が異なる。現状では不安は高まりつつあるものの、実際に供給がストップして工事ができなくなったとか契約解除になったなどのケースは聞かないので、冷静に状況を判断することが求められる。
ただし、住宅価格はこのような外的要因に加えて、地価の安定的な上昇、円安による資材価格の上昇、人手不足による人件費の高騰など、コストプッシュによって住宅価格の上昇が続いており、住宅購入やリフォーム工事を見送ることが正解なのか、判断は簡単ではない。
日本は1970年代の“オイル・ショック”で原油調達先の分散に着手したが、中国も東南アジアも経済振興によって内需優先となったし、ロシアとはウクライナ侵攻以降経済的な断絶が続いており、中東依存は今後も変わらない。中東情勢が住宅価格の高騰やリフォームのタイミングにも影響があることを認識し、今後の市場動向を注視されたい。
中山登志朗のニュースピックアップとは
LIFULL HOME'S総合研究所副所長兼チーフアナリストの中山登志朗が、不動産業界に関わる方なら知っておくべきという観点でニュースを厳選し、豊富な経験に基づくコメントとともに伝えるコーナー。業界関係者はもちろん、不動産に関心がある人にとっても、重要な動きを理解できるほか、新たな視点を得ることができるはずだ。
中山 登志朗
[オピニオンリーダー]株式会社LIFULL / LIFULL HOME'S総合研究所 副所長 兼 チーフアナリスト
出版社を経て、 1998年より不動産調査会社にて不動産マーケット分析、知見提供業務を担当。不動産市況分析の専門家としてテレビ、新聞、雑誌、ウェブサイトなどメディアへのコメント提供、寄稿、出演多数。2014年9月より現職。
著書一覧