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ティーファクトリー『4』川村毅(作・演出)×今井朋彦(出演)~死刑制度の洞察の向こうに、人間という存在の本質を押し出す

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川村毅(右)と今井朋彦

ティーファクトリーを率いる川村毅が「モノローグの可能性」をテーマ書き上げた戯曲『4』。裁判員に選ばれた大学職員、死刑に消極的な法務大臣、時に刑を執行する苦悩を語る拘置所の刑務官、自身が起こした無差別殺人を「夢の中の出来事」と振り返る死刑確定囚を演じる俳優たちがモノローグを語り、役を入れ替えながら進行していく中で、死刑制度に関わる人びとと、関わらざるをえなかった人びとの思考や人生が浮き彫りになっていく。2012年に白井晃の演出で高い評価を得て、ニューヨークやコペンハーゲンでのリーディング、韓国での現地カンパニーによる演劇祭での上演が行われ、今夏、満を持して川村の初演出で上演される。川村とF役を演じる今井朋彦に聞いた。

――川村さん、この作品の全体像について紹介してください。

川村 もともとは世田谷パブリックシアターによる学芸企画、劇作家のためのワークショップ「劇作家の作業場」において生まれた作品です。当初は上演を前提にはしていなかったのですが、リーディングを経て2012年に世田谷パブリックシアター主催公演として初演されました。作品のモチーフは死刑制度。裁判員、法務大臣、刑務官、そして死刑囚を演じる4人がそれぞれの立場からモノローグを発します。『4』というタイトルはその4人の男たちに由来するのですが、彼らによる死刑をめぐる議論、対話から成立していく芝居です。こう説明すると社会派演劇に感じられると思います。死刑とはなんなのかという洞察も確かにありますが、役柄がチェンジするという重大な仕掛けがあって、最後の最後にその謎が解けるという構成になっています。

川村毅

――初演も高い評価を得ていらっしゃいますが、今回、川村さんが演出する狙いはどういうところにあるのでしょうか?

川村 白井さんがセンセーショナルな演出をしてくださった初演は、私も本当に満足しています。しかし、さまざまな感想を読むと、まだまだこの戯曲は多くのお客様にとって謎なんじゃないかなと感じました。死刑制度に関することと同時に、もう一つのテーマである、社会派演劇には留まらない人間という存在の本質をもっと押し出したいと考えたんです。また、この戯曲は私自身、劇作家としてのターニングポイントになったものです。ストーリーを説明して、「テーマはこうだ」といった作品ではありません。本当に言葉の芝居なので、言葉を強靭な形で舞台上で表出できる今井さんに出ていただけると聞いたときは「やったな!」と思いました。5人の役者さんとも非常に良いキャスティングになりました。

今井 ありがとうございます。戯曲を最初に読んだとき、川村さんがおっしゃるように、これまでのイメージをかなり裏切るような書き方をされていると思いました。そのタイミングで初めてご一緒するのは、何か意味があるんだろうと楽しみです。また僕自身ここ数年、俳優として舞台に立つときにどういう身体でセリフを言っているんだろうかということをテーマにしています。この戯曲には、そのテーマにつながる何かを感じました。それこそ、こういう背景があって、こういう性格で、こういう人間関係があってなど、従来の言葉にできる範囲の役柄、役割から離れて舞台上にどう存在できるかというチャレンジができることは、自分の役者としてのテーマをもう一つ進められるチャンスをいただいたと思っています。

今井朋彦

――5人の役者が出演するんですけど、戯曲を拝見すると役は4つです。そこは根幹に関わるところですか?

川村 そうなんです。役柄は4人が演じています。つまり5人目というのは書いている途中で思いついた人物で、実は構成をぶっ飛ばすようなポジションです。しゃべってしまうとネタバレになってしまうので言えませんが、全編とも4人による、曰く言い難しの時間が流れているということですね。私もしゃべりづらい作品です(笑)。

――今井さんはどの役を演じられるか伺ってもいいものですか?

今井 僕はFという役です。

――裁判員として、裁判で無差別殺人を犯した青年Rに死刑判決を下す役ですよね。

今井 そうですね。とは言え、Fも定まった設定があるわけではないし、途中で役柄を変えたりもします。戯曲の構造としてはFを演じていると思いつつ、ある瞬間にはFそのものになったり、あるいは今井そのものになったり、俳優としての僕そのものであったり、いろんな瞬間が含まれている。ただそれが予想以上にシームレスなんです。つながったキャラクターのよりどころは僕自身にしかないので、自分がどう変わっていくのか、あるいはモノローグの合間にほかの皆さんと会話を交わすシーンがありますから、その中で自分が変わったり変わらされたりするのか、それをこれから楽しんでいきたいと思っています。人って日常生活の中でいろいろな役割を演じていて、それが本当に同一平面上でさまざまな形に変容していく。はっきりした切れ目はなく、いつの間に変わっていく、いつの間にか戻っているという面白さがこの戯曲のミソなのかなと思います。

今井朋彦

――川村さんが書かれた長いモノローグとはどう戦っているんですか?

今井 確かに僕はわりとこれまでも長いセリフをしゃべることも多かったんですけど、今回は戦わないようにしています。なるべく自分を器化するというか、僕というお皿の上に川村さんのセリフをどう載せてお客様にお出しするかという意識が強いんです。自分が料理してさばいてやろうという意識は薄い。いや、川村さんはあまり細かいことをおっしゃらないんですけど、もしかしたら違うなと思っていらっしゃるかもしれませんけど(笑)。

川村 ある意味、どの役柄にもパーフェクトな正解がないんです。今井さんはそれを楽しんでやっているように見える。これまでさまざまな戯曲、セリフと格闘されてきただけあってさすがだと思います。本当は楽しんでないかも知れないけど(笑)。

――非常に迷路のような戯曲ですよね?

今井 シンプルな道がクリアに用意されているような本ではないでしょう。そういう意味では迷っていただきたいのですが、ただ迷わせるわけにもいかない。迷い方、あるいは迷っている時間を楽しんでもらうために役者が演技とかセリフ運びなどを考えないといけない。迷ってはいただいているんだけど、そのプロセスが意外と心地いいねという状況がつくれればと思います。

川村毅

――この公演のために京都芸術大学ではさまざまなことを試されたそうですね?

川村 今回の企画は京都芸術大学が言い出しっぺなんですよ。白井さんの演出で上演された後、いずれ私の演出で、京都発信、京都芸術大学発信で上演できないかということを大学と相談していました。確かに公演に向けていろいろな実験をやらせていただきました。このプロジェクトで主に試したのは、モノローグの部分をどう演出するかということです。古今東西のいろんなモノローグばかり抽出してリーディングをやってみたり、複雑な要素を含んだ芝居ですからライブカメラを使いどういう演出をすれば効果があるか、客席をどう組めば効果的かなどの実験も行いました。9年間という準備期間があって、大学のプロジェクトとリンクすることができたというのは、非常に贅沢なつくり方をさせていただきました。その成果をぜひともご覧いただきたいと思います。

今井 今回は、言い方は語弊があるかもしれないですけど(笑)、いい感じでわからないんですよ。本当にかなり複雑なことをやっていますから、稽古が進んで、ここからどんな感覚になれるのか自分自身が楽しみですし、それをお客様がどう観てくださるかも楽しみにしています。

『4』上演の可能性を巡る劇場実験(2019年6月/京都芸術劇場 春秋座)

※京都芸術大学は劇場をプレゼンの場だけではなく、創作の場として活用できるかを考える、文部科学省の共同利用・共同研究拠点に認定されている。

取材・文:いまいこういち

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