彼女たちの日々は、これからも続いていく──TVアニメ『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』最終話を上伊那ぼたん役・鈴代紗弓さん、砺波いぶき役・青山吉能さんが振り返る【連載インタビュー第12回】
塀先生による人気漫画を原作としたTVアニメ『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』(TOKYO MX・BS11ほかにて放送)が、ついに最終話を迎えました。
本作は大学へ進学した上伊那ぼたんが、埼玉県秩父市の学生寮での生活を通して、“お酒”をきっかけに寮生たちとの距離を縮めていく物語。お酒を介して生まれる会話や、ふとこぼれる本音、誰かと過ごす時間の温かみが、繊細な感情の揺らぎとともに描かれてきました。
アニメイトタイムズでは『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』のキャストインタビューを連載形式でお届けしてきました。最終回となる第12回に登場してくれたのは、上伊那ぼたん役の鈴代紗弓さんと砺波いぶき役の青山吉能さんです。
最終話放送後の今回は、互いの芝居に感じたこと、お酒という題材がもたらす楽しさや切なさ、そして全12話を通して『上伊那ぼたん』がどのような作品として心に残ってほしいかを語っていただきました。ぼたんといぶきと過ごした金曜の30分を振り返る、連載最後のインタビューです。
【写真】アニメ『上伊那ぼたん』鈴代紗弓×青山吉能対談【連載インタビュー最終回】
お酒があるからこそ、近づける距離と言葉がある
──最終話放送後ということで、まずはおふたりのお芝居についてお伺いできればと思います。青山さんから見て、上伊那ぼたんを演じられた鈴代さんのお芝居にはどのような印象がありましたか?
砺波いぶき役・青山吉能さん(以下、青山):本当に、紗弓ちゃんは多彩な表現力、彩り豊かな表現力がある方だなと思いました。少し技術的な話になってしまいますが、ぼたんって吐息感の多い、エアリーな声質じゃないですか。普通だったら、あの声のまま何か表現をしようとすると、どうしても幅が狭まってしまうと思うんです。出しにくいキーがあったりもすると思うので……。
でも紗弓ちゃんのお芝居は、そんな技術的な難しさをまったく感じさせないんです。ただ声色を変えているのではなくて、表現力から生まれる声色や性質の違いをまざまざと見せつけられた感じがして「勘弁してくれよ」と思う部分もありました(笑)。
上伊那ぼたん役・鈴代紗弓さん(以下、鈴代):嬉しい〜(笑)。
青山:キャラクターに向き合う姿勢も本当に真摯で、常にお芝居のことを考えているんです。座長でもある紗弓ちゃんがそうだったからこそ、その空気が現場にも伝播していったんだと思います。おかげで、みんなアフレコのときはぐっと集中力を持って臨めました。
もちろん、ずっとピリピリしているわけではなくて、根はものすごく柔らかくて優しいし気遣いもできるんです。アフレコが終わったあとにも「ご飯行きましょう」と誘ってくれたのですが、その日(鈴代さんは)後ろにも予定があって。全然時間がないのに「早食いして出ます!」みたいなことを言うんですよ(笑)。
そんなに時間がないなら無理しなくて大丈夫なのに、「みなさんと行きたかったので!」と言ってくれる。もう本当に、すべてを持った人だなと思いました。
鈴代:すべては持ってないよ(笑)。
青山:いやいや! 改めて、ありがとうございます。
──鈴代さんから見た、青山さんのお芝居の印象もぜひお聞かせください。
鈴代:原作を読んだときに、どのキャラクターにもそれぞれ難しさがあると思ったんですけど、なかでもいぶきは一番掴みどころがないキャラクターだなと思っていました。ふわ〜っとしているけれど、確かにそこにいる。いぶきって、どうお芝居を持っていくのがいいんだろうと……自分も(いぶきの)オーディションを受けていたので考えていたんです。
そうして実際に「いぶき役は青山さんです」と聞いたときは「よぴちゃん(青山さんの愛称)、お酒……!」と思って(笑)。
青山:(笑)。
鈴代:よぴちゃんはお酒が好きですし、シンパシーが多いんだろうなと思っていたのですが、最初のシーンから いぶきの人生にある「ひとりで飲んできた時間」のようなものが見えたんです。多くを語らないけれど、すごく魅力的な人だなと伝わってくる。呼吸から、もういぶきだったんですよね。
それこそ、しゃっくりが出ながら話すシーンは特に「現実にいそう」という感じがありました。
しかもそのしゃっくりも、出そうとして出しているのではなくて、本当に流れの中で出ちゃっている感じなんです。だから台詞をしゃべっていないところでも、いぶきがそこにいるように感じました。よぴちゃんが台詞ではない部分からも、いぶき像を自分の中にちゃんと沁み込ませているから出るものだと思いますし、そのお芝居に乗せられて自分の会話も上がっていく部分がありました。
青山:ありがとうございます。嬉しい……!
鈴代:ぼたん役としても「このいぶきは好きになっちゃうよな」と思いました。狙っていないけれど人間としての素敵さが滲んでいる感じがあって。出しているのではなく、滲んでいるんです。
私も技術的な話になってしまうのですが、映像に台詞を合わせるだけでも難しいのに、さらにしゃっくりも入れ込むのはかなり大変だと思うんです。しゃっくりにボールドがある場合もあるんですよ。アドリブで足したところもあったと思いますが、アドリブで足す難しさもあれば、ボールドがあるところに自然に持っていく難しさもある。でも、そのなかでわざとらしさが一切ないんです。
それはやっぱり、よぴちゃんがいぶきを自分の中に構築してきているからこそだろうなと思いました。それをまざまざと隣で見せられて(笑)。
青山:まざまざと(笑)。
鈴代:(笑)。ほかの作品でご一緒させていただいたときのよぴちゃんのイメージもあったのですが、それをまったく感じさせなくて。かといって、作り込みすぎているわけでもない。「自然にそこにいる感覚」がすごいなと思って、私も頑張ろうと思いました。
そういう意味で刺激を受けた部分もありますし、よぴちゃんのような役者さんと掛け合いができることへの喜びもありました。本当に、いぶき役がよぴちゃんでよかったなと思いましたし、私も「ぼたんが紗弓でよかった」と思ってもらえるように頑張ろうと思っていました。単純にまた共演できる嬉しさだけではなく、ひとりの役者さんとしても、すごく光栄だなと思った収録です。
青山:いい人だ……。
鈴代:あはっ!
青山:照れてますね(笑)。
──「まざまざと見せつけられる」が、こんなに褒め言葉として成立することがあるんだなと思いました(笑)。
鈴代:それくらい衝撃的だったんです(笑)。いろいろ一緒に演じてきた作品があったからこそ「こんなこともできるんかい!」と。
青山:えー、嬉しいわ。
鈴代:「感情グラス」の歌声も良かったですよね!
青山:それはもう、そっくりそのままお返しします(笑)。
お酒があるからこそ近づける距離と言葉
──改めて、本作は“お酒”がひとつの題材にある作品です。お酒がもたらすものについて考えたとき、哀愁とも少し違う、切なさも含めた魅力があるように感じました。おふたりは、その部分にどのように向き合ってきましたか?
青山:私は、ものすごくお酒に助けられてきた人生だったので、もう「ありがとう」でしかないですね(笑)。お酒っておいしいし、何より楽しいんです。そこがほかの飲み物とは違う部分だなと思っています。
みんなで同じ料理を食べるよりも、もっと共感できるものがお酒にはある気がしていて……「同じDNAが入る」といいますか、同じ家庭にいるような、そのとき家族になれるような感覚があります。
もちろん飲みすぎはよくないですが、私はお酒のおかげで普段だったら「これは言わないでおこう」と思うことも「実はこう思っていて……」と話せることがありました。腹を割った話ができるというお酒のパワーを以前から感じていたので、いぶきにはすごくシンパシーを感じていました。
また、ぼたんのように「お酒がなかったら、私たちの関係ってなんなの?」と感じてしまう部分もあると思うんです。でもそれって前提として、一緒にお酒を飲んで、それでようやくたどり着けた関係性の先にあるものですよね。だから、やっぱりお酒はあったほうがいい。人生にお酒はあったほうがいいし、必要だと思います。私自身の人生もそうなので。
──お酒があることで人との距離が近づいたり、普段は言えないことがこぼれたりするのも滋味深いのかなと。前提として適量が大事ではありますが……。
青山:もちろん「飲んでも飲まれるな」ではあるんですけどね(笑)。
「酒豪」と言うと文字通り豪快なイメージがあるのかもしれませんが、お酒が好きだからこそ「こんな楽しみ方もあるんだな」ということを『上伊那ぼたん』が表してくれた気がします。私自身は、どちらかというといぶきのような形で飲むことが多かったので「『お酒好き』にもいろいろな形があるんだよ」と伝えたいです。
──青山さんの事務所の先輩である江口拓也さんもマスター役でご出演されていましたが、江口さんもお酒好きで知られていて。
青山:江口さんも、もしかしたらこういう楽しみ方をされているときがあるもしれないですよね。
──5巻の帯に寄せられていたコメントが素敵でしたよね。
青山:「読むお酒」という。
鈴代:おしゃれな言い方! 本当に素敵だなあ。
青山:アニメでもご一緒できて嬉しかったです。
人生の時間を預けたくなる金曜の30分
──鈴代さんはお酒という題材については、どのように感じていましたか?
鈴代:私もお酒は好きなのですが、たくさん量を飲むというよりは面白そうだなと思った名前のものや、おすすめされたものを飲んでみるタイプで。弱くはない……くらいなんですけど、そう言うと「強いんだ」と言われるんですよね(笑)。そういうことではなくて、別にカッコつけたいわけでもなく、たしなむタイプだと思っています。
でも今、よぴちゃんの「お酒って楽しい」という話を聞きながら「確かに」と思いました。飲み物のジャンルとして「楽しい」と言えるのって、お酒ならではかもしれないですよね。「このあと、みんなでジュース飲もうぜ!」だとしっくりこない気がするといいますか。
やっぱり「お酒を飲もう」という場は特別だなって。お酒には楽しい部分もありますけど、同時に、楽しいからこそふとした瞬間に出るその人の本音や寂しさ、時には誰にも言えていなかった悲しい気持ちみたいなものが、ぽろっと出てくることもある。それを出せることもお酒の魅力だと思うんです。「お酒の力に任せて言うなよ」と思うこともあるかもしれないけれど、お酒があったから言えちゃったこともある。そこが、哀愁のような部分につながっているのかなと思います。『上伊那ぼたん』では、そこにすごく丁寧にフォーカスが当たっていましたよね。
──お酒がある場だからこそ、普段ならしまっておくような気持ちに関しても思い切れるのかなと。
鈴代:ときにお酒は、何かを伝えるための口実……と言うと言い過ぎかもしれませんが、その口実がいい方向に働くときもあれば、うまくいかないこともある。けれど、ひとつのきっかけとして、お酒を介することはすごく身近で、みんなが取れる手段でもあるので、そういう部分が自然に日常に馴染んでいるのが面白いなと思っていました。
キャラクター達が交わす会話・言葉は、すぐに過ぎ去ってしまいそうだけど、その一瞬を取りこぼさないように残しておきたいと思う作品なんです。9割は楽しい話をしていたけれど、ほんの一言、二言出た「おや?」と思う言葉をちゃんと覚えて帰るんだろうな、というか。楽しいだけじゃない部分をちゃんと拾っていけるように、感情として覚えていけるように演じたいと思っていました。
──ありがとうございます。最後に、視聴者の皆さん、そして原作ファンの皆さんにとって『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』がどのような作品として心に残り続けてほしいか、おふたりが想うことをお伺いできればと思います。
青山:改めて、砺波いぶきというキャラクターに出会えたことは、私にとって本当に財産だなと思っています。『上伊那ぼたん』は、原作からそうですが作品に身を委ねることができるんです。間(ま)だったり、空気だったり……そんなものも含めて、貴重な金曜の30分を皆さんと一緒に共有できたのかなと思っています。
最近は早送りや倍速視聴など、“ながら見”もしやすくなっていますが、本作は「この世界に入りたい」とより思える作品でもあったと思うんです。放送が終わってしまうと、そんな時間もなくなってしまうのかなと思うと、本当に不思議な感覚です。
鈴代:うんうん。
青山:でも配信もありますし、彼女たちの日々もまだまだ続いていきます。原作ではキャラクターも増えて、矢印もあらゆる方向に向かっていきますので、ぜひ読んでいただきたいです。これからも『上伊那ぼたん』に人生の時間を預ける一瞬が、皆様の中に残ってくれたらいいなと思っています。
鈴代:上伊那ぼたんを演じさせていただけて、本当に幸せでした。全12話を通して、登場するキャラクターたちの人間模様やドラマが、深く心に残ってくれていたら嬉しいなと思います。この作品を見たあとに、大切な誰かに会いたくなるような作品だなと思っていて。大切な時間を思い出したくなるような作品として届いていたら嬉しいです。
【文:逆井マリ インタビュー・編集:西澤駿太郎】