垂直試飲でたどる「スクリーミング・イーグル」のもう一つの顔『ザ・フライト』
ナパ・ヴァレーのオークヴィルに位置する「スクリーミング・イーグル」からエステートディレクターのアルマン・ド・メグレ氏が来日。メルロ主体の赤ワイン『ザ・フライト』の6ヴィンテージを試飲しながら進化の過程について語った。4アイテムは蔵出しの1500ミリリットル、2アイテムは輸入元が保管していた750ミリリットルで、すべて16度で供された。2010年に現職に就いたド・メグレ氏のワイン人生においても初の試みだった。
Be the Best
「スクリーミング・イーグル」は、不動産業で成功したジーン・フィリップさんが1986年にナパ・ヴァレーのオークヴィルに23ヘクタールの土地を購入し、ブドウを栽培して近隣のワイナリーに販売していたところから始まる。
所有していた畑の中で、0.5ヘクタールの区画のカベルネ・ソーヴィニヨンが抜群に素晴らしかったので、そこだけは自分用にキープしていた。周囲に意見を求め、小区画のブドウを使ったワイン造りに着手したフィリップさんは、スクリーミング・イーグルの名で1992年ヴィンテージを95年にリリースした。この時、ワイン評論家のロバート・パーカー氏が99点を付けたことで認知度が上がり、さらに97年ヴィンテージが100点満点の評価を受けたことで、ナパ・ヴァレーで最も入手困難なワインとして注目される存在となった。
スクリーミング・イーグルの販売ルートはメーリングリスト6割、輸出3割、米国内のディストリビューター1割の割合である。現在のオーナーは2006年にワイナリーを取得したアメリカ人の実業家スタン・クロンキー氏である。
今回来日したエステートディレクターのアルマン・ド・メグレ氏は、クロンキー氏について「素晴らしい上司で、業務に関する細かい指示は一切しない人物」と形容していたが、オーナーが発する言葉として挙げたのが唯一‟Be the Best(ナンバーワンになれ!)”だ。
スクリーミング・イーグルは「名前に恥じない究極の品質を目指し、ナンバーワンでいること」を旨とし、「ザ・フライト」においては「世界で最も美味しいメルロ主体のワインであること」を目指しているが、クロンキー氏のBe the Bestは“品質がよければ勝てる!”という信条にほかならない。
ワインメーカーは2011年に就任したニック・ジスラソン氏で、前任者アンディ・エリクソン氏のもとで働きながら研鑽を積み、バトンを引き継いだ。親日家で、花火職人の資格を持ち、『花火』というブランドでビール造りも手掛ける才気溢れる若き醸造家だ。
セカンド・フライトからザ・フライトにネームチェンジ
ワイナリーの引き継ぎに関しては、「カギを渡されただけで、畑やワインについて一切の情報もなかった」とド・メグレ氏。ゼロからのスタートになったが、これがターニングポイントとなり、メルロの再構築が始まった。スクリーミング・イーグルの主要品種カベルネ・ソーヴィニヨンと同様に栽培されていたブレンド用品種のメルロを、2006年から4年かけて見直し、加えて、10年の新ワイナリーの完成を機にメルロの区画のブドウを個々に醸造できるようにして、さらなる品質向上を図った。
スクリーミング・イーグルの畑は全18.2ヘクタール、うち9.3ヘクタールは1980年代に植えたブドウ樹で、スクリーミング・イーグルとザ・フライト双方に使用している。ちなみに、残りの7.2ヘクタールは2006年と07年に植樹、1.7ヘクタールは14年、15年、16年に植樹したが、これらはまだ製品化されたワインには使っていない。
ザ・フライトの初ヴィンテージは06年で、前オーナーのフィリップさんが「07~10年の4ヴィンテージ」をセットにして12年にリリース、それが初のお披露目となった。
発売当初のワイン名は『セカンド・フライト』で、15年ヴィンテージから『ザ・フライト』に改名した。セカンド・フライトだと、セカンド・ワインと誤解を招きかねない点や、主体となる品種が違う点を鑑み、スクリーミング・イーグルとは別の“もう一つの赤ワイン”としてのポジションを考えたからである。生産量はスクリーミング・イーグルが500~900ケース、ザ・フライトは450~800ケース。ド・メグレ氏から「『ザ・フライト 2022年』は熱波の影響で生産しなかった」との説明もあった。
フランスの『シャトー・ペトリュス』やイタリアの『マッセート』など、世界屈指のメルロからなるワインを視野に入れながら、メルロに強い愛着を示すド・メグレ氏。ザ・フライトに感じてほしい要素として「メルロの個性と緻密性。口に含んだ時のアタックと酸味。中盤以降に感じるしっかりした果実味、余韻に若干田舎っぽさがありつつも全体の構成をなす骨格とエレガンス。カリフォルニアの中で可能な限りのフィネス」と言及。スクリーミング・イーグルが手掛けるもう一つの顔『ザ・フライト』の真価を探る際のヒントになる表現だ。
text & photographs by Fumiko AOKI
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