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映画好きはワクワク、ニマニマ『ピーター・ドイグ展』日本初個展見どころレポ

ウレぴあ総研

『ピーター・ドイグ展』展示風景

『ピーター・ドイグ展』が会期延長して開催中!

東京国立近代美術館で10月11日(日)まで開催中の『ピーター・ドイグ展』は、アートファンだけでなく映画ファンにも心底見てほしい展覧会だ。

「画家の中の画家」としてリスペクトされる、1959年スコットランドのエジンバラ生まれのピーター・ドイグは、大の映画好き。絵画への影響のみならず、自ら映画上映会を行ってそのポスターも自由に描いてしまう。そんな楽しげな油彩ドローイング40点が、展覧会のラスト、第3章「スタジオのなかで−コミュニティとしてのスタジオフィルムクラブ」に展示されているのだ。

ドイグは、ロンドンの他にもう一つ、ポート・オブ・スペイン(トリニダード・トバゴ)の旧ラム酒蒸留所の建物の一角にスタジオを設けている。

この街にはロンドンのような名画座やミニシアターがないため、ひと頃は毎週木曜日に友人作家のチェ・ラブレスと映画上映会「スタジオフィルムクラブ」を開催していた。

誰でも無料で参加でき、上映後はお酒を呑みながら映画について話したり、音楽ライブが始まったり。絵画を黙々と描くばかりでなく、時にはスタジオを開放し、文化サロン的な交流の場にしていたというわけだ。

例えば、デヴィッド・リンチ監督『ブルーベルベット』の耳(!)の絵の横に「5月1日、今晩」とあるように、これらは近隣住民に告知するため手早く描かれたもの。

公式ポスターとは違い、ドイグの着想も楽しめる。フランソワ・トリュフォー監督『突然炎のごとく ジュールとジム』はロートレック風、ジョン・シュレシンジャー監督『真夜中のカーボーイ』はバスキアみたいなタッチ。

『熱いトタン屋根の猫』のエリザベス・テイラー似ているなあ。と思えば日本映画もあって北野武版『座頭市』にはグフフ。『ピンポン』のペコとスマイルが描かれたラケットには爆笑。

先日逝去した大林宣彦監督の初期ホラー『HOUSE ハウス』もあるが、脱力系で微笑ましい。

ジム・ジャームッシュ監督『ストレンジャー・ザン・パラダイス』、写真家ラリー・クラーク監督作『KIDS/キッズ』など懐かしのインディペンデント映画も。

近作では、種族や性別を超えるヴァンパイアと少年の痛切で美しいスウェーデン映画『ぼくのエリ 200歳の少女』が雪景色にカラフルな文字で。ゴダールにブレッソン。27歳で早世した歌姫エイミー・ワインハウスの伝記映画もある。

10代の頃のドイグは、友人とスキーやスケボーに興じ、古本屋や洋服屋、レコードショップや映画館に出入りしたりするのが好きだったそう。

ロンドンの美術学校「セント・マーティンズ・スクール・オブ・アート」で学んでいた80年代には、すぐ近くの映画館に通っていたという。同時期に映画科にいたアイザック・ジュリアンの『ルッキング・フォー・ラングストン』も描いている。

そんなドイグの絵画は、美術史も多様なカルチャーも血肉としたコラージュのようだ。都市と地方の格差、思春期、孤独、自然など、希望と絶望が表裏一体の現実を描いた映画がけっこうあり、人柄も感じる。

展覧会メインの大型絵画には映画ファンもワクワク!

さて、展覧会のメインである大型絵画は、影響を受けた二つの土地——カナダの森と湖を第1章、トリニダード・トバゴの海辺や町を第2章で紹介。

1章には、『13日の金曜日』の最後に出てくる、湖に小舟が浮かび、人物が横たわるシーンにインスピレーションを受けたという《のまれる》《エコー湖》といった絵画がある。

《エコー湖》にはムンクの《叫び》のイメージも含まれている。ちなみに3章に登場する『カビリアの夜』(監督:フェデリコ・フェリーニ)も湖が象徴的だ。

また、第2章には、小津安二郎監督『東京物語』の静けさを念頭に置いた《ラペイルーズの壁》という絵画がある。熱海の防波堤なのかもしれないが、イメージはかなり飛躍している。

ドイグが描きたくなるシーンとは、動の中の「静」を感じたときなのだろうか。構図や色彩など、2、3メートル級のペインティングにも映画好きが垣間見えるし、これから映画の見方も変わりそうな、映画ファンもワクワク、ニマニマとしてしまう展覧会だ。

【開催情報】
『ピーター・ドイグ展』
10月11日(日)まで東京国立近代美術館にて開催

(ぴあWEB/白坂 由里)

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