「姉妹タブレット戦争」後、ASDの長女と見つけた「ネット動画」の代替案は?わが家のデジタルメディアとの距離感【体験談】
監修:室伏佑香
東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
動画視聴に翻弄されるわが家
以前デジタルメディアとわが家とのこれまでの紆余曲折をお話ししてきました。
子どもたちが小さな頃からメディアにどっぷりだったわが家、リビングからテレビを撤去することによりネット動画と少し距離を取れた時期があったのですが、回っていたはずの仕組みが就学後に崩れてタブレットを解禁、あっけなく元のストレスフルな状況になってしまい、今は再度環境を整えたいともがいているところ……。
とりあえずの解決編をどうぞご覧ください。
デジタルメディアについて、私の線引き
そもそも動画用のタブレットを遠ざけたかった一番の理由は、姉妹ゲンカを減らすためでした。
そしてもう一つ心配だったのは、動画視聴による発達途上の脳への影響です。
デジタルメディアといっても、テレビ番組・映画・ネット動画・ゲームなど内容はさまざまですが、この時すでに私はネット動画の視聴に対しては否定的な考えになっていました。
タブレット学習やゲームは、少なくとも頭と手を使う活動です。視力や姿勢への配慮は必要ですが、私は基本的にOK寄りの立場です。
テレビ番組や映画も、わが家では家族でワイワイ見ることが多く、展開に緩急があったり興味の外の内容も流れたりするため、強くのめり込むことはあまりありません。
けれど、ネット動画は違います。
コンテンツにもよりますが、強い刺激が次々と展開し、子どもたちは目を奪われ続けてしまうのです。
おまけに、動画を終わらせる際の抵抗は凄まじく、次女は怒りのあまり私を叩き、長女も泣きながらリモコンを押し付けてくるのです。電源を切るたびに毎回荒れてしまうのには参りました。
そんな様子があったので、“ただひたすら光と音の刺激を浴び続ける時間”が子どもの脳にどのように影響するのかは、やはり気がかりでした。メディア視聴の発達への影響については、まだ十分に解明されていない部分もたくさんあります。知識も得られるので害ばかりとは言いませんが、少なくともネット動画の依存性の高さについては実感があります。
便利さも有難みも重々分かっていたのでデジタルメディアを一律に禁止するつもりはありませんでしたが、ネット動画に関しては線引きしてもう見せないようにしようと決意しました。
改めて、まゆみの内面を分析
「たぶれっと、チョウダイ」
言葉の少ないまゆみなので、成功体験を積ませるために言葉にできたことは極力叶えてあげることにしているのですが……ここで折れるとまた同じことの繰り返しになるので、必死に打開策を考えました。
まず考えたのは、まゆみが動画視聴を強く求める理由です。
ずっと動画視聴のネガティブな面にばかり目を向けていましたが、まゆみにとっては動画を見ることが癒しに繋がっているのかもしれません。発語のハードルが高いまゆみがわざわざ伝えてくるからには、本人にとって特別な必要性があるのかも……?
そもそもタブレット視聴を解禁したのは、「好きなものを見て、ゆったりする時間を持てれば」という思いから。
出発点はそこでしたが、動画から受ける刺激をコントロールできず、結果的にメリットをデメリットが上回ってしまったのでした。
では、映像をなしにして、音楽だけならどうだろう?
まゆみは音楽が大好きで、歌や楽器に強い興味を示します。
もし、まゆみの好きな音楽を、まゆみの好きなタイミングで流せたら……。
ひらめきを実現できる製品を探すと、録音できる音声タッチペンが見つかりました。
すぐさま購入し、まゆみの好きな歌を250曲ほど収録した『まゆみ専用ソングブック』を作ってプレゼントしました。
まゆみの食いつきぶりはすごいものがありました。
同じ曲を何度も繰り返したり、冒頭だけを連打したり、2~3歳の頃に聴いていた懐かしい曲に反応したり、運動会の曲を流して踊ったり。
自分で選び、楽しんでいる様子がハッキリと伝わりました。
動画視聴と大きく違う点は2つあり、切り替え時のトラブルが起きにくいことと、ほかの遊びと併用して使えることです。
従来の遊びと組み合わせることができるので、ブランコに乗りながら軽快な音楽を流したり、お人形遊びにBGMをつけるなど、遊びの発展も見られました。
さらには、落ち着かない時には音声タッチペンとソングブックをサッと出し、穏やかな曲でクールダウンしようとするまゆみの姿が見られるようになったのです。セルフレギュレーション(自己調整)のツールとして役立てているのは明らかでした。
―――そうか、動画でなくても良かったのかもしれない。まゆみに必要なのは音楽のほうだったんだ!
本人にしてみれば映像があるほうが嬉しいとは思いますが、音楽さえあれば満足してくれると分かったのはわが家にとって大発見でした。
今でもときどき「たぶれっと」とまゆみが言いに来ることはありますが、「タブレットはないから、こっちをどうぞ」と音声タッチペンを差し出すと、そのまま受け取って自分の遊びに入っていってくれます。
ハンモックの中でゆったりと音楽を聴きながら笑みを浮かべているまゆみの様子は、私がタブレットでの動画視聴を解禁した時、「こうあってほしい」と願った姿そのものでした。
まとめ
ここまで試行錯誤してきて思うことは、“デジタルメディアとのほど良い距離感”というのは、子どもの状態や家庭環境によってそれぞれ異なるということです。
たとえば、わが家では「姉妹ゲンカの火種になる」という部分が動画視聴する上でのネックとなっており、どちらか一人しかいない時や、取り乱さずに制限時間を守れるほど成長した後であれば、もう少しデジタルメディアを活用することもできそうに思います。
刺激に敏感で切り替えが苦手なまゆみと、好奇心が強く喧嘩っ早いあずさという組み合わせの姉妹なので、現状はこうした形に落ち着いているという感じでしょうか。
今後、子どもたちの成長に伴って解禁されていく部分もあると思います。
また、音声タッチペンも「電子機器を使って情報を扱う」という点では広義のデジタルメディアの一種になりますが、同じデジタルでも、動画のように引き込まれるほど強い刺激を受けるものと、音楽のように刺激を本人がコントロールできるものとでは、利用後の子どもの情緒に大きな違いがあるように思いました。
このようにデジタルメディアも機器や内容はいろいろです。
特に動画サイトなどは制作側も意図して飽きにくい構造にしているので、子どもの意思ではそうそうやめられません。
わが家も動画に助けられてきた時間があったのは事実なのですが、デジタルメディアとの距離感は子ども本人が調整するのが難しいからこそ、使い方や環境を大人が整えていくことが大切なのだと感じています(私もできているかは怪しいのですが……)。
音声タッチペンがまゆみにバッチリはまったのは、音楽が好きで、選曲やタイミングを自分でコントロールしたい本人の性質にマッチしたからでした。
デジタルメディアとの付き合い方は、万人向けの正解があるものではないからこそ、その子にとって無理なく扱える形に整えていく先に、「ほど良い距離感」があるのかなと感じています。
執筆/にれ
引き続き、デジタルメディアとの付き合い方について、ご家庭での工夫とまゆみさんの反応を共有してくださり、ありがとうございました。まゆみさんが本当に求めているものは何だったのかを丁寧に見直していく過程がとても印象的でした。動画を見たがる行動だけを見ると、「動画に依存している」「タブレットをやめられない」と捉えがちですが、まゆみさんの場合、その背景には「好きな刺激で安心したい」「自分のタイミングで楽しみたい」「落ち着く手段がほしい」などというニーズがあったのかもしれませんよね。
デジタルメディアとの付き合い方を考えるうえでは、視聴時間の長さだけでなく、刺激の強さ、本人がコントロールできる度合い、終わった後の情緒、ほかの遊びに広がるかといった視点も重要ですよね。ネット動画のように強い刺激が連続し、自動再生やおすすめによって次々と関心が引き寄せられるものは、子ども自身が区切りをつけるのが難しくなりがちです。一方で、今回ご紹介いただいた音声タッチペンやCD、DVDなどのように、ある程度制限された音楽や映像の中で、自分で選び、止めたり繰り返したりしながら、ご自身でコントロールしやすいものは、子どもの主体性や安心感につながる場合がありますね。
また、まゆみさんが音楽を流しながらブランコや人形遊びをするようになった点も大切です。動画視聴は活動がそこで止まりやすい一方、音楽はほかの遊びと組み合わせやすく、遊びを広げる支えになることがありますね。これは、メディアを「子どもの活動を止めて受動的にしてしまうもの」から「子どもの活動を支えるもの」に変えていく工夫とも言えますね。デジタルメディアは、一律に良い・悪いと判断するものではなく、その子にとってどんな役割を持っているのかを見ながら調整していくことが大切ですね。家庭に合った形で整えられたことは、まゆみさんにとってもご家族にとっても、とても大切な環境調整でしたね。(監修:小児科医 室伏佑香先生)
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。