「起業のために移住」という選択。福島県田村市で夢を実現する
福島県中通り地方の阿武隈高原に位置する田村市。5つの町村が合併して誕生したため、各地区の個性が色濃く、地域資源を生かしたまちづくりが行われています。移住者の受け入れにも積極的で、近年は特に起業を目指す移住者を歓迎しており、生業をつくる起業型地域おこし協力隊の制度も設けています。田村市への移住や、起業を取り巻く環境はどのようなものなのでしょうか? 起業して夢を実現するために移住した、2組のご家族に話を聞きました。
田舎暮らしの夢をかなえ、キャンプ場と民泊を開業
まずは、「あぶくま洞」という鍾乳洞で知られる滝根地区へ。キャンプ場と民泊を営む榊原朋恵さん・長谷川敬三さんを訪ねました。お二人は、インターネットで見つけた物件に惹かれ、2023年9月に神奈川県から移住しました。朋恵さんは、「私は東京出身なので、昔から田舎暮らしが夢だったんですよ。二人ともキャンプが好きなので、定年後のセカンドライフを考えるなかで、キャンプ場をやってみようという話になりました。インターネットで広い土地を探していたところ、敷地が広大な今の家を見つけたのです。家が広くてしっかりした造りなので、キャンプ場だけでなく民泊もすることにしました」と話します。起業にあたっては、「福島県12市町村起業支援金」を利用しました。
朋恵さんのパートナーである敬三さんは大工。「東日本大震災後に、木造仮設住宅をつくるため船引地区に来ていたので、田村市にはもともと馴染みがありました。それも移住の後押しになったと思います」と振り返ります。2022年6月に家を購入してから、ときどき草刈りや手入れをしに来て、囲炉裏やピザ窯などを手づくりしました。2024年4月に民泊の許可が下り、開業。直後のゴールデンウイークには、早速キャンプ客でにぎわいました。
キャンプ場・民泊の名前は「Camp Circle きずな」。「人と人の絆が生まれる場所になってほしいという思いを込めて名付けました。訪れた人に、ふるさとに帰って来たと思ってもらえる場所にしたいですね」と朋恵さんは話します。今後、キャンプや民泊でゲストに食べてもらえるよう、畑での野菜づくりや果樹の栽培にも力を入れていきたいと考えています。
「田村市の魅力は、のんびりしていて静かなところ。それでいて、高速のインターから近くてアクセスがよく、スーパーやホームセンター、コンビニなども近くにあるので便利です」と朋恵さん。また敬三さんは、「移住してきて、地域の人々に歓迎されていると感じます。温かく受け入れてくださっているのがありがたいですね」と笑顔を見せました。
そんな田村市での起業環境について、朋恵さんは、「ここには余白・可能性がたくさんあるので、やりたいことができます。若い移住者も多く、いろいろなことにチャレンジしている人がいて、刺激を受けますね」と話します。田村市への移住や、田村市での起業を検討している人に向けては、「田村市を活気づけるために、ぜひ新しい風を吹かせてください!」とエールを送りました。
サスティナブルなシェアハウスをつくるため、起業型地域おこし協力隊に
次に、田村市の東部に位置する都路地区へ。埼玉県から移住してきたばかりの新井田美菜子さん・力さん夫妻に会いに行きました。美菜子さんは、起業型地域おこし協力隊の制度を利用して、サスティナブルなシェアハウスとカフェの開業を目指しています。「もともとは、住宅をつくる仕事や、転職してリフォームの仕事をしていました。でも、いわゆる“ハコ”だけじゃなく、もっと暮らし方や人の心の部分に関わりたいと思うようになり、ライフスタイルについても伝えていけるシェアハウスをやろうと考えました」と美菜子さん。いろいろな人が気軽に来られるカフェも併設する計画です。
実は、最初に起業型地域おこし協力隊の問合せをしたのは夫の力さんでした。ケガのため大工から木工職人に転向した力さんは、思う存分作業ができる広い工房を求めて、木工マルシェに参加しながら各地域を見て回り、移住先を探していました。オンラインの移住イベントで田村市のことを知り、美菜子さんと一緒に移住体験ツアーに参加することに。そのツアー参加中に、かつて竹炭職人が住んでいたという今の家を紹介してもらい、工房付きということもあってすっかり気に入り、引っ越しを決めました。
力さんは、「『自然資源を使い、課題を解決する』というテーマの起業型地域おこし協力隊への応募を検討していたのですが、いろいろな人とやり取りしながら事業をつくっていくのは、職人タイプの自分よりも妻のほうが得意なのではと思い、妻に勧めました」と当時を振り返ります。背中を押された美菜子さんは、「ずっと温めていた夢を形にできるかもしれない。チャレンジするなら今だ!」と意を決し、2024年1月に起業型地域おこし協力隊に応募。見事採用され、4月に田村市に移住しました。
起業型地域おこし協力隊の実際の業務とは、どのようなものなのでしょうか。「働き方はとてもフレキシブルですが、起業に向けた計画に沿って、週1回の定例ミーティングで進捗を確認します。任期の3年以内に成果を出さなければというプレッシャーはありますが、起業・創業支援を行っている会社『MAKOTO WILL』が伴走してくれますし、互いに応援し合える地域おこし協力隊の仲間もいて、心強いですね」と、美菜子さんは話します。MAKOTO WILLが地元の人やほかの移住者ともつなげてくれるため、地域でのネットワークが広がっています。
田村市での生活については、「買い物など多少不便な部分もありますが、それ以上に、すばらしい自然の恵みがあります。自然の中にいると癒やされますし、生き生きしますね。3人の子どもたちも、ここの豊かな自然環境がすっかり気に入っているので、移住してよかったなと思っています」と力さん。美菜子さんは、「地域のみなさんは温かくてよい人たちばかり。エネルギッシュでユニークな方もたくさんいて、おもしろいですね。ここなら自分たちもどうにか生きていけそうだなと思えます」と笑顔で話します。
最後に、移住・起業先としての田村市の魅力を、美菜子さんは次のように語りました。「田村市には、移住者を温かく受け入れ、夢を応援してくれる人がたくさんいるので、自分も挑戦しようと思えます。そして、起業型地域おこし協力隊は、自由と裁量があり、手厚いサポートも受けられるという恵まれた条件なので、やりたいことがある人にはおすすめです。興味のある方は、まず一度田村市に来てください。田村市の魅力を実感できると思います」。
ローカルビジネスの専門家が、田村市での起業を伴走支援
榊原さんの「福島県12市町村起業支援金」申請をサポートし、新井田さんの起業準備を伴走支援するのは、創業支援や地域おこし協力隊活用支援を行う株式会社『MAKOTO WILL』。担当の後藤大志さんは、田村市の起業型地域おこし協力隊のメンターとして、伴走支援を行っています。「田村市が起業型地域おこし協力隊の制度を導入したのは3年前で、私たちは当初から関わっています。現在4人の地域おこし協力隊を伴走支援していますが、みなさんおもしろい起業アイデアをお持ちです。新井田さんのシェアハウスのほか、フィンランド式サウナやキャンプ場、コミュニティカフェと語学事業など。共通しているのは、自身の実体験にもとづいた強い思いがあるということです」と後藤さん。
起業の伴走支援で後藤さんが心がけているのは、個人面談などを通して本人の内省や気づきを促すこと。「相談に乗ったり助言をしたりはしますが、答えを出すのはあくまで本人なので、答えを導き出せるようにサポートするのが私の役目だと考えています」と話します。
「榊原さんや新井田さんもおっしゃっているように、田村市の魅力は人の温かさです。私自身、MAKOTO WILLとして活動するなかで、地域コミュニティに入っていきやすいと感じています。また、地元住民も移住者も一緒にまちを盛り上げていこう! という前向きな雰囲気があります。何かやりたいことがある人にとっては、よい環境だと思いますよ。起業型地域おこし協力隊という好条件の制度もありますので、ぜひチャレンジしてください」と後藤さんは力を込めました。
<参考情報>
田村市では、起業型地域おこし協力隊を2名募集中。起業テーマ別のオンライン説明会も随時行われているので、興味のある方はチェックを。
https://tamura-iju.com/chiikiokoshi_kigyou
text by Makiko Kojima
photographs by Yusuke Abe