4人のワンオペ子育ては「頼る勇気が不可欠だった」 シングルパパでプロコーチの前田顕蔵さんが実践する「子どもとの関わり方」【SNSで話題】
4男児を育てるシングルファザーの前田顕蔵氏インタビュー第3回。プロバスケットボール指導者だった前田氏ならではのワンオペ育児術。「ご近所の力」と、コーチング理論を応用した「聞きすぎない」コミュニケーション法ほか。全3回。
【▶画像を見る】子どもたちとの日々をインスタグラムに綴る前田顕蔵さん妻を亡くし、シングルファザーとして4人(14歳・11歳・7歳・4歳)の男の子を育てる前田顕蔵さん。想像するだけでも大変そうな日々ですが、仕事はプロコーチ。2025年末まではプロバスケットボール「秋田ノーザンハピネッツ」のヘッドコーチを担っていました。遠征のため出張もある仕事と、育児家事をどう両立してきたのでしょうか。
人を頼ること、子どもとの向き合い方、そしてコーチングと子育てに共通する考え方──。数々のピンチを乗り越えてきた顕蔵さんが、日々の暮らしの中で大切にしていることについて聞きました。
前田顕蔵(まえだけんぞう)PROFILE
1982年大阪府生まれ。プロコーチ。プロバスケットボール指導者。シングルファザーとして4人の男児を育てる日々を発信するSNS(インスタグラム)が人気を集めている。2015年より「秋田ノーザンハピネッツ」のアシスタントコーチからヘッドコーチを務め、2025年12月に退任。2026年4月、台湾へ移住。女子台湾代表ヘッドコーチに就任。
秋田の人たちに支えられたワンオペ育児
引用:本人のインスタグラムより@Kenzo Maeda
母ちゃんのお腹から生まれて良かった
三男が急に言った
何で?
父ちゃんが優しいから
ありがとう。父ちゃんもあなたが子供で良かったよ
三男と四男と少しお出かけして
一緒に昼寝した月曜日
力もらった引用:本人のインスタグラムより@Kenzo Maeda
2022年9月に妻・なつ美さんを病気で亡くして以来、インスタグラム(以下:インスタ)を始めた前田顕蔵(以下:顕蔵)さん。
妻の闘病生活のなかで、「時間には終わりがある」と実感したことが、子どもと過ごす「今」の大切さを見つめ直すきっかけとなりました。そんな思いがにじむ投稿が、多くの人の共感を呼んでいます。
とはいえ、ワンオペで4人の男児を育てる暮らしはカオス極まる日々です。
顕蔵さんの24時間は、夜中のオムツ交換→早朝に起床しデスクワーク→家事→保育園と学校へ送り、再度デスクワーク。昼からは体育館でチーム指導→夕方は保育園のお迎え→買い出し。帰宅後はご飯→お風呂→寝かしつけ……と分刻みのスケジュールです。
「人に頼ることができたからこそ、乗り越えられた」と顕蔵さんは振り返ります。
仕事のため移り住んだ秋田県で近くに親族がいないなか、助けてくれたのは“ご近所さん”でした。妻の闘病中から毎日のようにご近所さんが家に出入りし、ときには泊まりで手伝いに来てくれる人も。
なかでも、闘病中から四男を常に預かってくれていた妻の親友でもあるママ友の存在は大きく、「彼女がいなければ回らなかった」と顕蔵さんは話します。また、子どもたちにおこづかいをくれたり、顕蔵さんの体を気づかって食事を届けてくれた“秋田のじいちゃんばあちゃん”のような存在にも支えられてきました。
妻が亡くなったあとも、ママ友たちがLINEグループを作り、「前田家をどう助けていくか」を話し合い、支援を継続。兄と叔母が秋田に来て、数か月一緒に暮らしてくれたこともあったといいます。
遠征で家を長く空ける際は、四男を近所のママ友に預け、残り3人の子どもは、家政婦に夕方の家事を兼ねて担ってもらい、その後は別のママ友に片付けや寝かしつけを……、と実に多くの人の手を借り、チームのように連携して支えてもらっていました。
ワンオペで一番大変なのは「体調不良」。「子どもが病気になると頼れる先は本当に限られる。職場の理解があったので助けられましたが、そうでなければ仕事は続けられなかった」(顕蔵さん) 引用:本人のインスタグラムより@Kenzo Maeda
「闘病で苦しんでいる妻がいて、赤ちゃん含む4人の子どもの命も守らなければいけない。到底一人ではどうにもならない状況でした。だから、生きていくには“頼る”しかなかったんです。本当に、周りには感謝の気持ちでいっぱいです」(顕蔵さん)
頼るというのは、自分の弱さを見せることでもあります。それには勇気がいりますが、心を開くことで人とのつながりが広がっていく良さもあります。
「頼って、助けてもらって、今度は自分が助ける。そうやって『助け合いの循環』が広がっていくのを実感しています」(顕蔵さん)
今、14歳の長男と、11歳の次男は頼れる存在になってきました。食器を片付けたり、下の子の面倒を見たりと、日々の生活の中で自然と手を貸してくれる場面も増えてきたといいます。
「とはいえまだ子どもなので、“子どもの部分”はちゃんと残しておいてあげたいですね」と顕蔵さん。「お兄ちゃんだから」「男だから」「もう◯歳なんだから」と肩書で縛らないのも顕蔵さん流の子育てです。
長男と次男には「ありがとう」と伝えたうえで「無理な時は父ちゃんに言って。兄だからって全部やろうとしなくて良い。上手くなくて良い」と伝えた。 引用:本人のインスタグラムより@Kenzo Maeda
聞きすぎず“話す場所とタイミング”を大切に
長年、プロバスケの指導者としてチームを率いてきた顕蔵さんは、子育てとコーチングには共通点が多いと話します。
「人は『やらされている』だけでは、成長しないですね。本人が楽しくないですから。自分で考えてやってみて、失敗して、また考える。その過程で、サポートしたり見守ったりすることが大事だと考えています」(顕蔵さん)
そんな顕蔵さんが、子どもとの関わり方で意識していることの一つが、「聞きすぎない」ことです。小学校に入学したばかりのころは、心配すぎて、帰宅した子どもに質問を重ねてしまっていたといいます。
「今日はどうだった?」「友達できた?」「先生に怒られなかった?」
ところが、子どもはほとんど答えてくれません。コーチングと同じで、「聞きすぎると、相手は何を話していいか分からなくなる」。そう気づいた顕蔵さんは、質問をやめました。すると、子どものほうから話してくれるようになったといいます。
「話してくれたときは、過剰に反応せず、『どうした?』と自然に聞くようにしています。ただ、聞かないことで、本人が困る場合もある。学校に行きたくない様子があるときには、『どうして行きたくないの?』と、あえて直接的に聞くようにしています」(顕蔵さん)
大事なのは、「あなたのことを大切に思っているよ」という気持ちが伝わるかどうか──。
「聞かない=気にしていない、ではありません。どう関わるか、子どもがどんなサインを出しているかを大事にしています」(顕蔵さん)
もう一つ大切にしているのが、話す「タイミング」と「場所」です。
例えば、登校を渋るような様子があっても、朝の出発直前に聞くことはしません。お風呂の時間や二人きりで過ごせる時間など、子どもがリラックスしている場面で話すようにしています。
「信頼関係を作る過程として、タイミングと場所はすごく大事だと思っています」(顕蔵さん)
前田家では、毎日5人でお風呂に入るのが日課。「遊んだり、他愛もない話をするお風呂の時間が大好きです」(顕蔵さん) 引用:本人のインスタグラムより@Kenzo Maeda
ある日、三男を学童へ迎えに行った帰り道、突然こんな言葉を口にしたことがありました。
「父ちゃんも、いつか死ぬ日がくる」
顕蔵さんは驚きましたが、その場で深くは聞かず、そのまま二人でパンケーキを食べに行きました。リラックスした時間の中で、改めて、どうしてそう思ったのか聞いてみると、三男は「学校でそう思ったの」と話し始めました。
「父ちゃんはね、あなたが大好きな人と結婚して、子どもができても、まだまだ元気でいるから。心配しないでな。大丈夫やで」と顕蔵さんは三男が安心できるよう優しく伝えます。
子育てをしていると、どうしても時間に追われがちです。このときも四男の迎えが控えていましたが、顕蔵さんは一度足を止め、三男と向き合う時間を大切なタイミングとして選びました。そんな小さな選択の積み重ねが、親子の信頼関係をつくっていくのかもしれません。
パンケーキを食べながら「父ちゃんが100歳になったら自分は73歳やな。2人ともおじいちゃんやん」と大笑いしたあと、「大切にしないと。生きるぞ」と、さまざまな感情がわいてきたという。 引用:本人のインスタグラムより@Kenzo Maeda
「いっぱい愛してくれてありがとう」子どもたちからの手紙
上を向いて、前を向いて進んでいく。そんな姿勢で日々を重ねてきた顕蔵さんですが、もちろん、しんどいと感じるときも少なくありません。4人の子どもとの生活、仕事との両立、ヘッドコーチ退任──いくつものピンチがありました。
しんどいときは、無理にでも時間を作って裁縫など新しいことをやってみたり、自然の中を歩いたり、知らない店に行ってみたり。シチュエーションを変え、何かに没頭したり気をそらしたりすることで、気持ちを落ち着かせる時間をつくっています。
自分の状態や感情から目を背けないこと。そして、自分自身を大切にすること。月に一度心理カウンセリングを受けているのも、その一つです。
「自分がハッピーでいないと、それは必ず子どもに影響すると思っています。だからこそ、優先順位の一番を自分に持ってくるくらいで、ちょうどいいのかな」(顕蔵さん)
そんな思いが、思いがけない形で返ってきた出来事がありました。
2025年6月、顕蔵さんの誕生日に、子どもたちからサプライズで読み上げられた手紙。そこには、こんな言葉が綴られていました。
「母ちゃんが亡くなって2年と少したちますね。それでも楽しく生きている。この生活はあなたがいないとないものです。今みんなが笑っているのもあなたがいて、僕らにいろいろなことをしてくれて、いっぱい愛してくれているからなんです。これからも前田家は大丈夫です」
最後は、こう締めくくられていました。
「いつまでも日本一仲の良い家族でありましょう。僕らの父ちゃんへ」
一生懸命育ててきたものの、子どもたちはどう感じているのか──。ときどきわき起こる不安な思いは、この手紙でふっとほどけたといいます。
「そういうふうに思ってくれているんだとわかり、『もう大丈夫だな』と思えました。うれしくて涙が止まりませんでした」(顕蔵さん)
「いつも喜びと寂しさが同時にくる。だけど今日は心が満たされた。ありがとう」と綴った。 引用:本人のインスタグラムより@Kenzo Maeda
顕蔵さんはこの春(2026年)、家族で台湾へ渡ります。2025年末に「秋田ノーザンハピネッツ」のヘッドコーチを退任し、新天地となる台湾で女子代表のヘッドコーチに就任します。
秋田を離れる前に、これまで支えてくれた秋田の人たちへの心からの感謝をかたちにしたいと進めているのが「KENZO ARIGATO PROJECT(ケンゾウ アリガト プロジェクト)」です。
プロコーチ歴20年の経験と子育ての経験をシェアする勉強会を開催し、その収益を全額、秋田の子育て支援に回す取り組みです。里親制度の周知と支援、自分自身も助けられてきた家事代行やベビーシッターのサービスを必要な家庭につなぎます。
自らの足で精力的に県内を巡り、企業や施設、お店の方と話をしながら、「秋田を離れても、継続できる支援」を考えました。
「10年間、秋田の人たちに僕たち家族は支えてもらってきた。いつかまた必ず秋田に戻ってきたい」(顕蔵さん) 引用:本人のインスタグラムより@Kenzo Maeda
最愛の妻であり、子どもたちの大好きな「母ちゃん」だった、なつ美さんを亡くし、「深い悲しみの中にあっても笑って進んできた」と話す顕蔵さん。
子育ての毎日の中にはイライラしたり、「どこまでやらせんねん」と怒ることももちろんあります。それでも、「どれだけ大事に思っているか」を言葉でも伝えることを大切にしてきました。
「家族は“チーム”だと思っています。非常に過酷でもあるけれど、だからこそ、いいチームにしたい」(顕蔵さん)
そんな思いを胸に、前田家はまた新たな一歩を踏み出します。
取材・文/稲葉美映子