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「コーヒー風味」の日伊不均衡状態:大矢麻里&アキオ ロレンツォの 毎日がファンタスティカ! イタリアの街角から #17

PARCFERME

ものづくり大国・ニッポンにはありとあらゆる商品があふれかえり、まるで手に入れられないものなど存在しないかのようだ。しかしその国の文化や習慣に根ざしたちょっとした道具や食品は、物流や宣伝コストの問題からいまだに国や地域の壁を乗り越えられず、独自の発展を遂げていることが多い。とくにイタリアには、ユニークで興味深い、そして日本人のわれわれが知らないモノがまだまだある。イタリア在住の大矢夫妻から、そうしたプロダクトの数々を紹介するコラムをお届けする。

ありそうでなかったコーヒー風味

日本では乳製品メーカー各社が近年、ガラス瓶入り牛乳の販売を軒並み終了していると耳にした。子どもの頃、宅配の牛乳に混じって、たまに届くコーヒー牛乳は、特別な味わいがあったものだ。今回はイタリアにおける“コーヒー風味”にまつわるお話を。

実は、日本にあってイタリアでは長年見かけることがなかったものに「コーヒー風味のキャンディ」がある。
それに気づいたのは、しばらく前イタリア人の友だちを連れて日本を旅した時のことだった。コンビニでロングセラー商品「ライオネス・コーヒーキャンディー」が目に留まった。「♪本場のコーヒーの味〜」という懐かしいCMソングが脳裏で渦巻き、購入してイタリア人の口にも放り込んだ。すると彼らは「美味しい!イタリアじゃ、こんなの売ってないなぁ」といたく感激したのだ。さらに彼らは道中舐め続けた挙句、お土産にも買って帰った。

イタリアのスーパーマーケットで、大手菓子メーカーが製造するコーヒー風味キャンディを目にするようになったのは、ようやくここ数年のことだ。以下は、なかでも代表的な3品と、実際の味わいである。

最初は、「アルペンリーベ」社の小粒なキャンディ「エスプレッソ」。ミルキーな味わいゆえ、エスプレッソというよりはカフェオレといった印象。砂糖不使用なため健康志向派にも人気の商品だ。

アルペンリーベ社の「エスプレッソ」。箱入りタイプは大抵タバコ屋のレジ脇に並んでいて、つい買ってしまう人が続出

第2は、いわゆるコラボ商品だ。1836年創業の老舗「スペルラーリ」による「ラヴァッツァ・セレクション」である。イタリアを代表するコーヒーパウダー・ブランド「LAVAZZA」の製品が配合されている。砂糖たっぷり入れたエスプレッソを飲み干して、カップの底に残った甘い部分をスプーンですくった時のような味わい。舐め続けていると、最後にエスプレッソの苦味を感じさせるクリームが中からとろりと溶けだしてくる。

「スペルラーリ」社の「ラヴァッツァ・セレクション」。同社はクレモナに本拠を置くキャンディーやヌガーの老舗メーカー

第3の商品もラヴァッツァとのコラボレーションで、蜂蜜のトップブランド「アンブロゾーリ」による「カフェ・パウリスタ」だ。もともとCafè Paulistaとは、遠く1961年にラヴァッツァがブラジルのコーヒー豆研究所と共同開発したアラビカ種100%のブレンドコーヒーのことである。

ちなみにオリジナルのコーヒーには発売当時、商品のキャラクター「パウリスタ」が印刷されていた。口髭を生やした陽気なおじさんを考案したのは、イタリアを代表するグラフィックデザイナーのひとりアルマンド・テスタだった。奇跡と呼ばれる経済成長の中、消費主義の浸透と共に急速に普及したテレビで、CMにも登場。ラヴァッツァの認知度向上に大きく貢献した。

ラヴァッツァは近年、パウリスタを復刻。その流れでアンブロゾーリとのコラボレーションにも採用されたようだ。キャンディに配合されてもアラビカならではの豊かな苦味が強く、甘味は抑えめだ。

日本における怒涛の商品開発からは縁遠い国ゆえ、登場まで時間を要したイタリア版コーヒーキャンディ。ただし出来た品は、さすが本格的かつ、歴史的うんちくに富んだものだった。

陽気なおじさんのキャラクター「パウリスタ」とはブラジルの首都サンパウロの住人を意味する。製造元のアンブロゾーリは創業を1923年に遡る蜂蜜製造のトップブランド
復刻版として販売された缶入りコーヒーパウダー。アルマンド・テスタによるデザインは60年以上経ても色褪せない存在感がある

異色のマリアージュ

逆に、日本にはなくイタリアで見かける商品に、「コーヒー風味のヨーグルト」がある。意外すぎる組み合わせに「いったいどんな味?」と思われる読者も多いだろうが、なかなか相性が良い。
ヨーグルトの酸味とコーヒーのかすかな苦味が絶妙なのだ。

ひとつは、赤いパッケージが印象的な「ヨーモ」の製品。YOMOとは乳製品のリーディングカンパニーであるグラナローロ社の一ブランドで、イタリア家庭の朝食でポピュラーなヨーグルトのひとつだ。そのコーヒー風味は、クリーミーというよりは、サラリとした口当たりが特徴で、コーヒーの味わいが十分に感じられる。

もうひとつは北イタリアのドイツ語圏を本拠とし、イタリアとオーストリア産の双方のミルクを用いているブランド「ヴィピテーノ」のプロダクトだ。前述のヨーモと口当たりを比較すると、さらにクリーミーだが、酸味はいくぶん強い。コーヒーの風味はやや抑えられたソフトな味わいだ。

「ヨーモ」は赤いパッケージが目印(右)。ドイツ風情を漂わせているのが「ヴィピテーノ」(左)。
見た目にもコーヒーを十分に感じさせる「ヨーモ」(左)と、マイルドなミルク感の「ヴィピテーノ」(右)。イタリア旅行で朝食会場にヨーグルトが置かれていたら、ぜひコーヒー風味を試してみて!

しかし不可侵の領域が

ここまでコーヒー風味の食品を説明したが、缶コーヒーはどうか?というと、イタリアでそれを見つけることは極めて稀だ。

第一に、この国には日本と比較して飲料の自動販売機が圧倒的に少ない。さらに治安や保守の理由から、屋外に設置されていることは極めて稀だ。

容器入りコーヒーも種類は極端に限られている。近年、高速道路のサービスエリアで「イリー」の缶や「スターバックス」のプラスチック入りが冷蔵ケースに入って売られているのを見かけるようになったが、手に取る人は少ない。そもそもアイスコーヒーという飲み方が、いまだ浸透していない。

理由は簡単である。コーヒーはバールと呼ばれる喫茶店で、立ち飲みするものなのだ。とくにエスプレッソ・コーヒーはゆっくり座って飲むものではない。入店、オーダー、飲み干し、退店まで5分もあればいい。F1レースのピットストップのごとく味わうのがイタリア流だ。バリスタの淹れるコーヒーが気軽に手早く飲める環境では、あえて自動販売機で缶コーヒーを買う必要性を感じないのである。

ちなみに店舗としてのスターバックスは、日本国内1885店(2023年9月現在)あるのに対し、イタリアには35店(2023年12月現在)しかない。行きつけのバールに行きたがるので、スタバも普及していない。

イタリア人にとって、コーヒーをキャンディーやヨーグルトに加えることは、ギリギリ許容範囲といったところなのだろうか?イタリアを代表するデザートとして定着したティラミスは、フィンガービスケットにコーヒーを浸して作るものだ。しかし考案されたのは1950〜70年代とされており、その歴史が意外に浅いことはあまり知られていない。

いっぽう、その元となる飲むコーヒーは、21世紀に入っても不可侵・神聖な領域なのだ。イタリア人が納得する缶コーヒーが完成するのは、全固体電池の実用化よりも時間を要するに違いない。

冷蔵コーナーにひっそりと並ぶ、スターバックスのチルドカップ。

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