大船渡市山林火災 釜石市も後方支援続く 緊急消防援助隊の拠点に 市職員は避難所運営を応援
大船渡市で続く山林火災は、きょう4日で発生から1週間となった。県によると焼失面積は約2600ヘクタールに拡大。1896世帯4596人に避難指示が出され、12の避難所に1213人が避難している(4日午前6時現在)。同市に隣接する釜石市では鵜住居町の市民体育館が緊急消防援助隊の宿営地になっていて、24時間体制で火災現場に向かっている。1、2の両日は避難所運営の応援として市職員を派遣。後方支援で現場活動を支えている。
釜石市は県災害対策本部の要請を受け、2月27日に後方支援活動を開始した。緊急消防援助隊の活動拠点として市民体育館と周辺を提供。同日夜に新潟の部隊が到着し、茨城、栃木と続き、3県の計117隊約460人が集結した。各種機能を備えた消防車両が同館駐車場のほか、周辺の臨時駐車スペースに待機。館内に設置した簡易ベッドで睡眠を取りながら、県大隊ごとに交代で出動している。3日は午前6時20分ごろに第一陣が出発後、数回にわたって現場に向かった。
茨城県笠間市消防本部消防司令の鈴木俊史さん(50)は、2月27日から4日間活動した第一派遣隊からバトンを受け、2日午後に釜石入り。夕方、大船渡市綾里に入り、午後7時すぎに現場活動を開始。簡易型水のうを背負い、ジェットシューターで消火活動にあたった。「これほどの規模の山火事は地元でも経験がない。第一隊から送られてきた写真で過酷な現場になるとは思っていたが…。急斜面も多く、機材を背負っての活動は慣れていない人には厳しい現場ではないか」と話す。
市民体育館には日中は市指定管理者の協立管理工業スタッフ、夜間は市スポーツ推進課職員が常駐。市は近くの釜石鵜住居復興スタジアムのシャワー室も開放し、隊員の疲労軽減を図る。同課の佐々木利光課長は「東日本大震災の時にお世話になった方々が再び被災地で消防活動に従事してくれているのはありがたいこと。当時の感謝を今回の対応で返せればとの思いもあるので、隊員の皆さんが活動に従事しやすい環境をできる限り整えたい」と気を引き締める。
同館の近隣住民も昼夜を問わない活動に「頭が下がる思い。これだけの消防車両が集まっているのを見ると、火災規模の大きさを実感する。現場は大変だろうが、1日も早く火が消えるよう願うばかり」と隣町に思いを寄せた。
釜石大槌地区行政事務組合消防本部(駒林博之消防長)は県内相互応援隊として、連日、隊員を現場に派遣する。大船渡市では今回の火災の前にも2件の山林火災があり、同本部は1件目から消火活動の応援を続けている。今は常時10人ほどが現場にいる体制を組み、本県隊は防災ヘリの水のうに水を補給する作業を中心に行っている。緊急援助隊が来るまでは、夜間に山に入り、家屋への延焼を防ぐための放水作業も担った。駒林消防長は「今回の火災は火の勢いが強く、延焼が止まらない状況だと聞いている。山が急峻で人が入れない場所もあり、半島の道路も広くないので、大型ポンプ車が入っての消火もしにくい状況」と活動の困難さを示す。同本部隊員の活動はまもなく2週間となる。「徐々に疲れもたまってきていると思う。体調管理をして事故を起こさないように」と駒林消防長。
釜石市では2017年に類似地形の尾崎半島で山林火災が発生。413ヘクタールを焼失し、鎮火までに2週間を要した。当時は住家の被害は免れたが、今回は多数の民家に被害が及んでいる。「延焼の一番の要因は乾燥と風。沿岸南部は乾燥注意報が継続中。この状況下で当管轄内の山火事が起きると大変なことになる。より一層の注意を」と呼び掛ける。
避難所運営を支える応援職員は1、2の両日、各3人が派遣された。避難所となっている大船渡市三陸町越喜来の三陸公民館で、物資の受け入れや運搬、仕分け、供給などの業務にあたった。都市計画課の佐々木良衡(よしひら)さん(44)は2日に活動した。同公民館には綾里地区の住民らを中心に約260人が避難。震災時と異なり、避難所の環境は良く、食事は3食弁当が配られ、入浴施設への定期便が運行されるなど、健康面や衛生面に配慮されていたという。直接話す機会は多くなかったが、住民らの印象は「暗い表情ではなかった。現実を受け入れている感じ」。作業の合間には「釜石から来てくれてありがとう」と声を掛けられることもあった。
「隣町での出来事で他人事ではない」と感じていた佐々木さん。現場の最前線で活躍する消防隊員、自衛隊員らのようには動けないが、「自分にできることで大船渡を応援したい」と力を込める。電気工事の設計・管理業務、建物の修繕など特技を生かしたサポートも考えている。今回は所属する釜石ライフセービングクラブから託された飲料水など物資を持参したほか、通信手段に活用してもらおうとトランシーバー10数個も貸与。今週末にはクラブの仲間数人で避難所運営の応援に再訪する予定だ。
釜石市も飲料水や菓子などの物資を支援。市内の災害公営住宅の空き室を確保し、被災者を受け入れる準備も進めている。避難所運営の職員派遣は継続する見込みで、防災危機管理課の川崎浩二課長は「後方支援的な役割を担いつつ、被害の状況や県の動きを見ながら、できる支援を独自に考え対応していきたい」と話した。
物資や義援金を届けたいとの声は市民からも上がっていて、炊き出しに出向く企業もある。大町の釜石情報交流センター、市民ホールTETTOでは早期鎮火を願い、雨を待ちわびる「ふれふれ坊主」作りを通じた募金活動を展開中。参加費として募金してもらい、用意された花紙で工作、完成したものを館内に飾り付けるという手順だ。集まった善意は、避難所で炊き出しなどを行っている一般社団法人大船渡地域戦略に贈る予定。両施設を運営管理する釜石まちづくり会社の下村達志事業部長は「被災した人たちが必要としている活動の後押しになる」と参加を呼びかける。
赤、青、黄色などカラ“フル”な、ふれふれ坊主を見つめていた女の子。願いを込めて、そっと手を合わせた。「雨が降って、火が消えますように…」