【沼津が舞台の映画「ミッシング」】石原さとみの演技がすごい!なぜ沼津、裾野がロケ地に選ばれたのか?読めば作品を観たくなる!
静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「沼津が舞台の映画『ミッシング』」。先生役は静岡新聞教育文化部長の橋爪充が務めます。 (SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」2024年6月12日放送)
(山田)今日は公開中の映画「ミッシング」の話題ですね。
(橋爪)沼津市や裾野市で撮影された映画「ミッシング」は、失踪したまな娘の居場所を探り当てるために手を尽くす両親の姿、彼らを取り巻く社会の変容を描いた吉田恵輔監督13本目の長編作です。出口の見えないトンネルを歩くかのような日々を送る夫婦を、石原さとみさんと青木崇高さんが演じています。とてつもなく大きなものを失った人間にとっての「救済」を問いかけるヒューマンドラマになっています。
私は吉田監督と青木さんにインタビューし、5月21日付の静岡新聞で紹介しました。「ミッシング」は今、すごいヒットしているんですよ。
(山田)してますねー。
公開3週で29万人動員のヒット作
(橋爪)公開3週で観客動員数は29万人に達しているので、相当良い成績ではないかと思います。
(山田)話題になってますけど、僕は予告を見て「これは観られないかも」と思ってしまいました。おそらく、胸が締め付けられてしまうのではないかと。
(橋爪)自分に置き換えるとなかなかつらいものがあると感じる人は結構いらっしゃるでしょうね。
(山田)まずどんな映画かというところからですかね。
(橋爪)はい。まずあらすじを説明しますね。
とある街。これが沼津なんですが、そこで女児の失踪事件が起きます。石原さん演じる母親の沙織里は、青木さん演じる父親の豊とともに愛娘を探そうとあらゆる手を尽くすんですが、見つかりません。映画は失踪から3カ月たったところから始まります。
沙織里はずっと取材を続け、折に触れて番組で情報を提供を呼びかけてくれる地元テレビ局の記者・砂田を頼りにしています。ちなみに砂田は中村倫也さんが演じています。
ただ、世間の関心はどんどん薄れていき、番組で取り上げる回数を重ねるごとに集まる情報もほとんどなくなっていきます。そんな中、沙織里がネット上で「育児放棄の母」とレッテルを貼られて誹謗中傷されてしまうんです。
(山田)なんでですか?
(橋爪)沙織里が育児の合間の時間を活用して「推し」のアイドルのライブに行っていたことが世間に知られるようになったためです。
そうした日常が続く中で、沙織里の言動は次第に過剰、かつ不安定になっていきます。それを支える立場の夫・豊や、森優作さん演じる沙織里の弟、圭吾の日常も変容を余儀なくされます。そして…。というストーリーです。
ただ、救済がきちんと用意されている映画です。私は本当にすごいなと思いました。それだけは付け加えておきますね。
(山田)今のあらすじを聞いて、割と身近にある話題じゃないかなと思うんですよね。実際にこういうことがありましたよね。
(橋爪)吉田監督は作品のアイデアを世の中で起こっていることから拾い集めるのですが、今回も「こういうことはよくあるのではないか」という気づきがあったそうです。インタビューでもそれを糸口に話をしてくれたので、後ほど紹介しますね。
ほぼ全編沼津・裾野が舞台の“静岡映画”!
(橋爪)今、あらすじをお伝えしましたが、これはかなりディープな「静岡映画」です。
(山田)おお、静岡映画?
(橋爪)ある場面で愛知県蒲郡市が出てきます。中村さんが演じる記者が務める地方テレビ局は福島のテレビ局でロケしたそうです。ただ、それ以外の場面はほとんど沼津や裾野で撮影されています。
(山田)へぇー。
(橋爪)詳細を話してしまうとつまらないので言いませんが、沼津周辺に住んでいる方にとっては、開始早々から「あっ!ここは!」と思わされます。
(山田)わかりますか?
(橋爪)絶対にわかります。「ここから始まるのか」と度肝を抜かれました。
(山田)えー、それは楽しみ。
(橋爪)その他にも、石原さんが沼津仲見世商店街を歩く場面や、中村さんたちテレビクルーを乗せた車が沼津駅北の国道1号線を走る場面もあります。そうすると、看板にいろいろな地名が出ますよね。もう明らかに沼津です。
(山田)うわー。
(橋爪)上空から撮ったような「三(さん)浦」と呼ばれる静浦とか西浦の辺りを走る映像もあったりして、特に私のような沼津ファンにはたまりません。
(山田)それだったらテレビ局の撮影も静岡放送でやってもらえば良かったですね(笑)
「俳優業と子育てを両立できる」がロケ地選定の理由に!
(橋爪)確かに。それで、なぜこのエリアで撮影したのか、吉田監督に聞いてみました。
まずはアクセスの良さです。石原さんは撮影当時お子さんが生まれたばかりで、これが出産後初めての作品。コンスタントに帰ってお子さんの面倒をみたいという事情があったそうです。そうなると、当初メインロケ地として考えていた蒲郡は遠い。もう少し近い場所を探したら、ちょうどいい場所が沼津だった、ということでした。
(山田)すごいですね。ロケ地誘致の好例になるかもしれないですね。
(橋爪)そうですね。静岡県東部地域は各地でロケ誘致を一生懸命やっているので、そういうこともあって目が止まったということも当然あると思います。
(山田)あと、石原さんの子育てしながら俳優業もやるという、今の時代らしい働き方をされているじゃないですか。沼津という街の立地がそれに合っていたんでしょうね。
(橋爪)今回は、ある程度街の規模感が必要で、なおかつ自然豊かな、ノスタルジックな風景もあるということをイメージしていたそうです。テレビ局はある、でもローカルであるという感じを求めていて、作品の設定や背景との整合性という意味で「沼津が本当にぴったりだった」と吉田監督は話していました。
(山田)ローカルテレビ局がありそうな感じはありますね。
(橋爪)私は吉田監督の作品が好きで、かなり見ていますが、ここ数年の作品「愛しのアイリーン」「BLUE/ブルー」「空白」「神は見返りを求める」で「自己ベスト」を出し続けているんです。「ミッシング」はそんな吉田監督の、紛れもない現時点の最高傑作と言えます。
そこで、先ほども少し触れましたが、吉田監督にどうして今回のようなテーマで映画を作ろうと思ったのか聞いてみたんです。
(山田)はい。
(橋爪)吉田監督はほとんどの脚本を自分で手がけているので、どんな設定のどんな人物を描くか、というのは映画全体のトーンを決定づける重要な要素なんです。だから、常に社会の隅々に目を凝らして、映画のテーマを探しています。
今回、なぜ娘が失踪した母親、両親が主人公だったのかを聞いたら、作品の核心に近いことを答えてくれました。何を言ったかと言うと、
「自分はわりと一貫して『人が折り合いを付けていく』ということをテーマにして映画を作っている気がしていた。『空白』の撮影が終わった後に、『でも、折り合いを付けるのが無理な状況ってのもあるな』と思って。例えば、それが行方不明みたいな状況だとしたら、1カ月後、半年後、1年後…1度も立ち止まれないだろうなと。そういうつらい状況にある人たちがいるとしたら、その気持ちをどう救えるかなということを考えたい。それがきっかけです」ということでした。
「ミッシング」という映画はまさにこれを描いています。
(山田)ほう。
(橋爪)筋書きを言うのは難しいのですが、本当に吉田監督が頭に描いた通りの映画に仕上がっているなという印象をインタビューをしていて感じました。
石原さとみのイメージを覆す熱演に注目!
(橋爪)それと、やはり石原さんが素晴らしかった。情緒不安定な演技がすごくて「そこまでやるのか」と思いました。たたずまいがくたびれていて、目の動きとか、しゃべり方も不規則極まりないんですよ。
(山田)いろんなストレス抱えている姿を表現している?
(橋爪)そうなんです。石原さんは美しい人でしょ。
(山田)そりゃそうですよ。
(橋爪)これまで美しさのアイコン、ミューズとしてのイメージが強かったじゃないですか。連続ドラマやCMなどですごく華のある存在感を放っていて。それを完全に覆すものになっていました。
(山田)そうなんですね
(橋爪)これは彼女が望んだことだと吉田監督はインタビューの中で話していました。石原さんはこの先の俳優としての人生をどう生きていくかというようなことをいろいろと考える中で、吉田監督の映画に出演するということを強く望んだそうです。そんな意志を受け取った吉田監督は「石原さとみをぶっ壊してみたいという気持ちもあった。本人もそれを求めているんだろうなと」と思って撮影に臨んだそうです。
(山田)これまでのイメージと違うことをやろうということですね。
(橋爪)映画を観ると、石原さんは本当に「ぶっ壊されている」感じです。明らかに生まれ変わったという感じも受けます。観た人は皆さん「石原さんは完全にネクストレベルに行った」という感想を持つと思います。
(山田)そうなんですね。観たいけど、最後まで観られるかなぁ…。
(橋爪)吉田監督にとっても、石原さんはそれまで自身の映画に出てきた俳優と違うタイプなので、それを選んだというのは冒険なんです。「大きく化けるかずっこけるか、どっちかになる」というリスクを感じながらもあえて起用したそうです。そういう吉田監督のチャレンジと石原さんのチャレンジが奇跡的に交わったのがこの作品だと言えます。
(山田)番組の公式Xにも「だから沼津の映画館2館とも上映しているのか」「石原さとみさんの演技は素晴らしい」などと寄せられていますね。
(橋爪)石原さんの演技が通り一遍じゃないんですよ。つらいことが次から次へと起こるんですけど、その都度「つらい人」という一つの型にはまった演技をするのではなくニュアンスが全部違う。
(山田)ちょっと勇気を出して観てみようかな。現在、絶賛公開中ですね。
(橋爪)はい。県内各地で上映しています。
(山田)ぜひ観に行ってみましょう!今日の勉強はこれでおしまい!