二軍監督からヘッド、そして指揮官へ…阿部慎之助が歩んだ「現場改革」と「覚悟」の軌跡。 ゴジキ氏の新刊『マネジメント術で読むプロ野球監督論』が解き明かす、名将たちの勝負哲学
ベストセラー『データで読む 甲子園の怪物たち』で緻密な分析力を見せつけた野球著作家・ゴジキ氏による最新刊、『マネジメント術で読むプロ野球監督論』が3月18日に発売!
『マネジメント術で読むプロ野球監督論』著:ゴジキ/光文社新書
「強いチームを作るための普遍的な方法は存在するのか――。」
組織を率いるリーダー、あるいは結果を求められるビジネスパーソンなら、誰もが一度は抱く問いではないでしょうか。野球界の歴史を紐解き、その答えのヒントを与えてくれる一冊が登場しました。
発売前から重版が決まり、発売後わずか1週間で3刷が決定。予約段階から大きな注目を集めている本書。ラブすぽでは、その中から名将たちの監督論を数回に分けて特別公開します!
今回は、読売ジャイアンツの歴史を背負い、新たな時代を切り拓く阿部慎之助氏。二軍での徹底的な基礎固めから、一軍での「3チーフ体制」を経て監督へと至る、熱き「現場改革」と「帝王学」のプロセスを紹介します。
巨人・阿部慎之助監督 ©産経新聞社
スパルタの継承者・阿部慎之助 ――二軍発の現場改革と帝王学の実現
叱って鍛え、守りで勝つ。球団史上最高捕手は、情熱と規律を両立させながら現場を動かす構造をつくり上げた。二軍では走り込みと打ち込みで基礎体力を叩き込み、一軍ではデータと経験を融合させて再現性のある戦いを築く。厳しさの裏にある合理、情熱の中にある秩序――そのどちらも欠かさず、勝利の型を練り上げていった。24年の「守り勝つ」優勝、25年の試練と再構築。阿部慎之助のリーダーシップは、スパルタを再定義し、鍛える現場を組織の力へ変えていった。本章では、その熱と構造のマネジメントを読み解く。
帝王学を学んで指揮官へと転身
19年シーズン終盤、巨人一筋19年の捕手・阿部慎之助は現役引退を決断した。チームの主将を長年務め球団そして球界に名を残した男は、引退翌年から早くも巨人二軍監督に就任した。40歳という異例の若さで重職を担わせる人事は、将来の一軍監督候補として早期に現場経験を積ませる狙いがあったとされている。
阿部が掲げたのは時代に反するかのように、スパルタとも評される猛練習によるチーム力の底上げだ。自身が新人時代に名コーチ内田順三の下で経験した過酷な練習の日々が糧になったとの信念があり、「練習量は誰にも負けない」という指導哲学を持っている。キャンプから若手に走り込みや打ち込みを徹底させ、「まだまだ! もっといけるだろ!」と大声で檄を飛ばしつつ自らバットを握り模範を示す熱血指導を行った。
一方で、昭和的な根性論だけでなく令和の改革も取り入れた。昼食を素早く栄養補給できるおにぎりや軽食に変更する、コーチ会議を朝だけにして夜は休養に充てる、自転車移動で待ち時間を省くなど効率化を推進した。また、当時の元木大介ヘッドコーチが急病で離脱した際には半月ほど一軍ヘッド代行を務め、一軍戦のベンチワークを経験した。この出来事は、原が阿部の采配力を早くも信頼していたことの表れである。
2年目も徹底指導の姿勢は変わらず、若手育成とチーム強化に注力した。ウエスタン・イースタン交流試合や教育リーグなどでも精力的に指揮を執り、将来の主力候補たちに実戦経験と厳しい練習を課した。即戦力級の新人を一軍に送り出すまでには至らず、依然「若手の底上げ」が課題として残ったとはいえ、阿部の熱血指導ぶりはファームの選手たちに大きな刺激を与え、練習量の増加や意識改革といった目に見えない効果もあった。
シーズン終盤、阿部の身に再び転機が訪れる。二軍公式戦全日程終了後の10月5日付で、阿部は一軍作戦コーチに電撃配置転換された。そして22年、阿部は初めてシーズン当初から一軍コーチ陣の一員として戦うことになる。この年、巨人はヘッドコーチ職を空席とし、代わりに複数のチーフコーチがその役割を分担する異例の「3チーフ体制」を敷いた。阿部は一軍作戦兼ディフェンスチーフコーチとして、主に守備・走塁面の統括と作戦面での助言を担う立場となった。投手チーフコーチには桑田真澄、ヘッド兼オフェンスチーフコーチには元木が就任し、阿部はこの〝三本柱〞の一角として一軍首脳陣の要を占めた。
この布陣の下、22年シーズンの巨人軍は序盤こそ健闘したものの、シーズン後半に失速しリーグ4位に終わる。阿部にとっては苦しい結果となったが、一軍コーチとしての経験値を大きく積んだ一年でもあった。守備や走塁面での采配・作戦にも関与し、試合中のベンチワークや選手交代のタイミングなど実戦の勘どころを学んだ。
翌年、巨人はコーチ陣の編成を見直し、3チーフ体制を解消した。それに伴い、阿部は一軍ヘッドコーチ兼バッテリーコーチに昇格し、名実ともに原の右腕となる。これにより、誰の目にも阿部が次期監督候補筆頭であることが明確となった。阿部はヘッドコーチとして試合中は原の隣で作戦を練り、捕手出身らしくバッテリー面で細やかな助言を与えるなどチームの要として奮闘。選手交代や継投のタイミングなどでも原を支え、その姿は将来を見据えた帝王学を実地で学んでいるかのようだった。しかしチーム成績は振るわず、この年もシーズン途中から優勝争いに乗れない展開が続く。結局、巨人は2年連続でリーグ4位と3年連続でV逸になり、原の進退問題がクローズアップされる状況となった。
シーズン終盤、続投か退任かさまざまな憶測が飛ぶ中、東京ドームで行われたシーズン最終戦後のセレモニーにおいて、原がマイクの前で突然「ここからは個人的な話をさせていただきます」と切り出し、自ら今季限りでの監督退任を表明するとともに、後任監督に阿部を充てることを発表したのだ。
【出典】『マネジメント術で読むプロ野球監督論』著:ゴジキ
阿部慎之助氏というリーダーの「愚直なまでの情熱」と、それとは対照的な「運営の効率化」というハイブリッドな姿勢。本書には、阿部氏が原前監督の隣で何を学び、どのような葛藤を経て自身の采配を確立していったのか、その舞台裏が鮮やかに記録されています。
発売前から大きな反響を呼んでいる本作。その全貌は、ぜひお手にとってお確かめください。