京都・東山に「帝国ホテル 京都」と「カペラ京都」が開業。周辺の住環境と不動産市場への影響を考える
京都・東山に超高級ホテルが相次ぎ開業
2026年3月、京都市東山区に「帝国ホテル 京都」と「カペラ京都」という2つの超高級ホテルが相次いで開業した。いずれも1泊数十万円クラスのラグジュアリーホテルである。
華やかな開業のニュースは観光の話題として大きく報じられた。しかし、このような超高級ホテルが1つのエリアに集まると、その地域の暮らしにもさまざまな影響が及ぶ。地価や賃料、住宅供給、住民の生活環境など、周辺の住環境にも少なからず影響を与えることは避けられないだろう。
2つのホテル開業をきっかけに、東山区で起きている街の変化を整理しながら、住まい選びや不動産判断の視点で何を見ておくべきかを考えていきたい。
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東山区に開業した「帝国ホテル 京都」と「カペラ京都」
2026年3月5日に開業した「帝国ホテル 京都」は、祇園甲部歌舞練場の敷地内にある国の登録有形文化財「弥栄会館」の一部を保存・活用して生まれたホテルだ。弥栄会館は1936年に竣工した劇場建築で、長年にわたり祇園のランドマークとして親しまれてきた建物だが、老朽化や耐震性の課題から近年は使用されていなかった。
帝国ホテルはこの建物を取り壊すのではなく、南西面の外壁と躯体の一部を残しつつ、大規模な改修・増築を行い、全55室のスモールラグジュアリーホテルへと再生させた。総事業費は約124億円と言われている。宿泊料金は1泊約16万円からで、最上位の「インペリアルスイート」は1泊約300万円〜となっている。
2026年3月22日に開業した「カペラ京都」は、京都最古の禅寺である建仁寺や花街文化を受け継ぐ宮川町歌舞練場に隣接する、元新道小学校の跡地に開業した。新道小学校は明治2年に地域住民の手で創設された「番組小学校」のひとつで、140年以上にわたり地域に愛されてきた学校である。
カペラ京都の建築デザイン監修は隈研吾建築都市設計事務所が担当し、全89室を擁する低層のホテルとして完成した。また、今回の開発はホテルだけでなく、隣接する宮川町歌舞練場の建て替えや、自治会活動スペース・児童館を含む地域施設の整備を一体で進める「元新道小学校跡地活用計画」として行われたのも特徴だ。
両ホテルに共通するのは、「壊して新しく建てる」のではなく、歴史的建造物や跡地を継承する形で開発が進められた点である。祇園の景観を守ってきた劇場建築、そして地域の学び舎だった小学校跡地。それぞれ異なる歴史を歩んできた2つの場所が、相次いで超高級ホテルへと姿を変えたことは、東山区のまちづくりを考えるうえで象徴的な出来事と言えるだろう。
東山区にラグジュアリーホテルが集中する3つの理由
超高級ホテルが東山区に相次いで開業した背景には、京都市の政策と地域が抱える課題が重なっている。ここで東山区に超高級ホテルが集中する理由を整理したい。
1つ目は、京都市が進めてきた「上質宿泊施設誘致制度」である。2017年に創設されたこの制度は、客室数ではなく体験価値や宿泊単価を重視し、高付加価値なラグジュアリーホテルの誘致を想定したものだ。住居専用地域など、通常は宿泊施設の立地が制限されている区域であっても、地域の魅力を活かした上質な施設であれば特例的に開業を認める制度である。京都市による「数を抑え、質で稼ぐ」という方針が、ホテル開発の方向性を変えたのだ。
2つ目は、2026年3月1日に施行された宿泊税の改定である。これまで最高1,000円だった宿泊税が、1泊10万円以上の宿泊に対して1万円と大幅に引き上げられた。定額制では全国最高額にあたる。ただし、1泊数十万円のラグジュアリーホテルにとって、税額1万円は価格全体に占める割合が小さいため、客足への影響は限定的との見方が多い。高単価ホテルほど、この税制改定の影響を受けにくい構造となっている。
3つ目は、東山区の人口減少とそれに伴う小学校の統廃合だ。東山区はかつて区内に11校あった小学校が、統合を経て2校にまで減っている。使われなくなった学校の跡地をどう活用するかは、市と地域にとって重要な課題となっている。カペラ京都が開業した元新道小学校跡地も、こうした流れの中で生まれた開発用地の1つだ。これまでにも、東山区の元清水小学校跡地にザ・ホテル青龍 京都清水、下京区の元植柳小学校跡地にデュシタニ京都が開業するなど、跡地をラグジュアリーホテルに転用する動きが続いている。
政策による誘致、高価格帯に有利な税制の設計、そして人口減少による土地の受け皿の必要性。これらが重なり合った結果として、東山区に超高級ホテルが集まる現在の状況が生まれているのだ。
「学校跡地=ホテル」という流れをどう捉えるか
ここで一度立ち止まって考えたいのが、そもそも「小学校の跡地をホテルに変える」という流れをどう捉えるかという問題だ。先に述べたように、元清水小学校や元新道小学校の跡地と、使われなくなった学校をラグジュアリーホテルに転用する動きが続いている。同様の動きは京都市内全体、そして全国でも広がっている。
学校跡地は、住宅や公共施設、商業施設やホテルなどさまざまな活用方法がある。その中で、なぜホテルが選ばれやすいのだろうか。理由として、主に以下が挙げられる。
・まとまった広さの土地から安定した収益が見込める
・自治体にとって観光振興と税収アップの両方につながる
・老朽化した校舎の建て替え(またはリノベーション)費用を事業者に負担してもらえる
このように、財政が厳しい自治体にとって、ホテルへの転用は現実的でわかりやすい選択肢になっているのだ。
そんな中、カペラ京都の開発は、こうしたホテル転用の課題に対して「地域と共存する設計」という1つの解決策を示している。敷地内にホテルだけでなく、自治会の活動スペースや児童館などの地域施設を併設し、宮川町歌舞練場の建て替えも一体で進めた。「ホテルとしてだけ機能する敷地」ではなく、「地域と共に使える敷地」として設計されている点は、今後同様の跡地開発を進める際の参考になる可能性がある。
ただし、この解決策には根本的な問いが残る。長年地域の子どもたちが通ってきた学校が、1泊数十万円のホテルに姿を変えることは「いったい誰のための街か」という問題を突きつけているのではないだろうか。地域住民が使える施設が併設されたとしても、土地の主たる用途が富裕層向けの宿泊施設であることは変わらない。この問いにどう向き合うかは、今後の跡地活用のあり方を考える上で避けては通れない論点になるはずだ。
暮らしと不動産市場、それぞれへの影響
超高級ホテルの集積は、東山区の暮らしにプラスとマイナスの両面で影響を与えている。住まい選びの判断材料として役立つよう、両面をフラットに見てみよう。
プラス面として挙げられるのは、老朽化していた歴史的な建物が保存・再生されることだ。帝国ホテルが活用した弥栄会館は、耐震性や老朽化の課題から近年は使われていなかった建物である。ホテルという形で再利用されたことで、取り壊されることなく、東山区の街並みや景観の一部として残されることになった。
他にも、地元の企業だけでは支えきれない地域文化が、大手資本の参入によって守られるという側面もある。花街文化を支えてきた宮川町歌舞練場は、カペラ京都の開発と一体となって建て替えられた。花街の維持には継続的に資本を投下する必要がある。結果的に、地元だけではまかないきれない維持にかかる部分を、ラグジュアリーホテル開発が支える形になったのだ。
さらに、カペラ京都の敷地内には、自治会が使えるスペースや児童館などの地域施設も整備された。ホテル開発を機に、地域住民が使える施設が新しくなることは、住環境にとってプラスの要素といえる。
一方、懸念すべき点として、地価と賃料の上昇が挙げられる。2026年地価公示の結果によると、東山区の商業地は前年より14.4%上昇し、住宅地では高台寺南門通下河原東入桝屋町で13.7%の上昇を記録している。地価と賃料の上昇は所有者にとってはプラスだが、賃貸居住者や新規購入者にとっては生活費が重くなる。
参考:京都府不動産鑑定士協会「令和8年地価公示の結果による京都府の地価の特徴」
次に、大型の土地がホテル用地に転用されることで、居住用物件の供給が減少するリスクがある。東山区ではすでに元清水小学校もホテルに転用されるなど、まとまった土地が住宅ではなくホテルに振り向けられる流れが続いている。このまま居住用物件の供給が減り続ければ、新しく住みたい人がエリアに入りづらくなり、住民の高齢化や人口減少にさらに拍車がかかるかもしれない。
そしてもう1つが、オーバーツーリズムによる生活環境の悪化だ。京都市は年間約5,000万人の観光客が訪れるなかで、バスの混雑や騒音、マナー問題などが課題となっている。超高級ホテルの利用者は比較的静かな層だとしても、東山区にホテルが集積すれば観光客全体の動線に影響を及ぼすことは避けられない。
プラスとマイナスのどちらを重く取るかは、住む人の立場によって変わる。資産価値を重視するのか、日々の暮らしやすさを重視するのか。この両面を踏まえて、自分にとってどちらが大事なのかを考えることが必要である。
東山区で住まいを選ぶ際の視点
ここまで見てきた東山区の変化を踏まえて、最後に、住まいを検討する人向けの視点を整理しておきたい。
1つ目は、資産性を考えた視点だ。ラグジュアリーホテルが集積するエリアは、地価が底堅く推移する傾向がある。実際、東山区の住宅地は2026年の地価公示で京都市内トップクラスの上昇率を示した。将来の売却や賃貸を考えた際に、資産価値が下がりにくいエリアであることは大きな安心材料になるだろう。
2つ目は、生活環境の視点である。超高級ホテルが集積することでエリア全体の価値は向上するものの、観光客の動線とどう距離を取るかが日々の暮らしやすさを左右する。そのため、物件を選ぶ際は、最寄りの観光スポットや主要動線からの位置関係を必ず確認したい。同じ東山区内でも、通りが1本違えば人通りや騒音が大きく変わることもあるだろう。
3つ目は、長期的な視点だ。東山区ではこれからも既存の建物を活用した再開発が続く可能性が高い。今の街並みが5年後、10年後にどう変わっていくか。その変化を織り込んだうえで「ここに住むかどうか」を判断することが、納得のいく住まい選びにつながるだろう。
杉山 明熙
不動産特化ライター
元不動産営業のWEBライター。宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、賃貸不動産経営管理士。12年間の不動産営業を経験後、不動産特化ライターとして大手メディアや不動産会社のオウンドメディアで、住まいや不動産投資に関する記事を多く提供している。不動産業界経験者にしかわからないことを発信することで「実情がわかりにくい不動産業界をもっと身近に感じてもらいたい」をモットーに執筆活動を展開中。