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最後の百貨店「高島屋」撤退のあと、柳ケ瀬商店街(岐阜県岐阜市)で今何が起きているのか。新規出店増加の背景を聞く

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百貨店ゼロ県。“日本一のシャッター街”、西柳ケ瀬を有する柳ケ瀬商店街の今

2024年7月に閉店した「高島屋」

JR岐阜駅から徒歩10分ほどの場所にある柳ケ瀬商店街。“日本一のシャッター街”と呼ばれる西柳ケ瀬を有するこの場所で、商店街のシンボル的存在だった「高島屋」が、2024年7月に幕を閉じた。

1977年(昭和52年)に開業し、47年間営業を続けてきた高島屋の閉店で、東海3県で初めて“百貨店ゼロ県”となった街。あれから1年半、報道等では衰退だけがフィーチャーされがちだが、実際のところ今の柳ケ瀬はどうなっているのだろうか―。

柳ケ瀬商店街振興組合連合会の理事長・水野琢朗さん(提供:岐阜柳ケ瀬商店街振興組合連合会)

この1年半で過去最多の40店舗が新規出店

柳ケ瀬商店街振興組合連合会の理事長を務める水野琢朗さんに、現状について話を聞いた。
「実は、この1半年だけで40店舗の新規出店がありました。私が柳ケ瀬に関わって10年になりますが、過去最多の出店数なんじゃないかなと思います」

閉店した高島屋は商店街の中心的な存在ではあったが、その閉店をどう受け止めるかは人によって異なるということだろうか。

「新しい人たちにとっては、高島屋の閉店をネガティブに捉えるというよりも、むしろ『ここから新しく生まれ変わるんじゃないか』という期待感のほうが大きいのだと思います。そもそも商店街のあるべき姿って、お客さんが行きたいと思う店があるからこその形なんですよね。商店街に賑わいがあったから、高島屋のような大型商業施設ができてきた。そう考えると、いま起きているのは“元の形に戻る”ということなのかもしれません」

魅力的な店が集まり、人の流れが生まれ、賑わいがつくられる。その基本に立ち返ろうとする動きが、いま出てきているという。

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なぜ今、柳ケ瀬が選ばれるのか

2014年から続く定期市「サンデービルヂングマーケット」が開催される商店街(提供:柳ヶ瀬を楽しいまちにする株式会社)

柳ケ瀬に出店希望が集まる理由について、水野さんの考察はこうだ。
「昔は、人通りの多い場所に店舗を出すのが正解でした。でも今はSNSやホームページで店を知ってもらえる。そうすると、大通りに面していなくても人は来てくれると考えるオーナーが増えて、立地への条件が広がります。そのときに選ばれるのが、『これからおもしろくなりそうな街』や『家賃が手ごろな場所』なんです」

転換期にある柳ケ瀬は、スモールスタートを切りたい創業希望者や出店者にとってちょうどいい場所、といえるのかもしれない。

さらに、水野さんは消費のあり方の変化にも触れる。
「物を買うという観点で見れば、ショッピングモールのほうが優れていますし、ネットショッピングのほうが手軽で早くて便利です。ただ、人間の購買原理って必ずしも“物”だけを求めているわけではないですよね。店の雰囲気が好きとか店主の人柄とか、そういう“物以外の価値”に目を向ける人が増えています。こうした価値は、商店街という場のほうが生み出しやすい。なぜなら、商店街というのは街の歴史や背景自体を武器にできる場所だからです」

立地や効率だけでは測れない価値が重視されるとするならば、柳ケ瀬は大きな魅力と可能性を秘めた場所といえる。

地方都市はどこへ向かうのか

柳ケ瀬商店街のなかには、イタリアのパサージュ(路地)をイメージした小径が水路に沿って作られている。これも都会化の象徴なのだろうか

大型商業施設の進出や撤退に翻弄されるケースは、柳ケ瀬商店街に限らず、全国の商店街でも起きている。地方都市の在り方自体を見直す動きは各地で見られるが、水野さんの考えはどうなのだろうか。

「方向性ははっきりしています。かつては、地方を都会化することが正解とされてきました。アーケードを整備し、大型店舗を誘致して、都市の姿に近づけていく流れです。しかし、それを一通り進めた結果、“百貨店は大都市でなければ成立しにくい”という現実が見えてきました。では、次に何を目指すのか。私は、その方向はむしろ逆だと考えています。都会化ではなく、地方らしさを取り戻すことです。昭和から平成にかけては、地方をいかに都会に近づけるかが重視されてきました。けれどこれからは、地方が本来持つ風土や個性を見つめ直し、それ自体を価値にしていく時代になると思います」

1968年夏の柳ケ瀬商店街の様子(提供:岐阜柳ケ瀬商店街振興組合連合会)

遊郭から映画の街、ファッションの街へ

その考えは、柳ケ瀬が歩んできた歴史とも重なる。もともと柳ケ瀬は、遊郭や芝居小屋といった、この土地ならではの文化を起点に発展してきた街だからだ。

ここで商店街の歴史を紐解いてみよう。

柳ケ瀬という街は、誕生から137年の歴史を持つ。
1897年(明治30年)ごろから発展し、当初は遊郭を起点として広がっていった。遊郭へ向かう道には芝居小屋や映画館が並び、人が集まる場所としてにぎわいを見せていた。

大正期には博覧会ブームの影響もあり、商業の街として発展。1945年(昭和20年)の岐阜空襲で焼け野原となったものの、バラック小屋や露店によっていち早く復興を遂げる。戦後は映画館が次々と再開し、映画の街としてさらなる発展を遂げた。繊維業の発展を背景に、衣料品やアクセサリーなどを扱うファッションの街としてもにぎわいを見せた。

1960年(昭和35年)、商店街としては県内初のアーケードが完成し、1966年(昭和41年)には美川憲一の「柳ケ瀬ブルース」がヒット。1977年(昭和52年)には高島屋が開業し、昼夜問わず人が行き交う街となった。

こうして振り返ると、柳ケ瀬は時代ごとに姿を変えながら、人を惹きつけてきた場所だったことがわかる。

水野さんはこう話す。「柳ケ瀬は常に大衆文化の中心であり続けてきたということです。その時々で、人の心をくすぐるものを生み出してきました。では今の時代に人が求めているものは何かと考えると、それは“ライフスタイル”ではないかと考えています」

今も商店街に残る「ロイヤル劇場」。「戦後の柳ケ瀬は芝居小屋から発展した映画館ができ、人の流れが生まれました。その結果、柳ケ瀬は“映画の街”としても大きく発展した」と水野さん。昭和を感じさせる看板、劇場内のクラシカルな雰囲気も相まって、レトロ感を味わえる映画館として若い世代にも人気だ

柳ケ瀬が持つ“ちょうどいい暮らし”を提案する

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現在、岐阜市は人口約40万人。都市としての機能を持ちながら、すぐ近くに長良川や金華山といった自然がある、“ちょうどいい都会”、“ちょうどいい田舎”の暮らしができるところが魅力だといえる。こうした都市と自然が近接した環境は、「どんな暮らしをしたいか」を重視する今の時代において、大きな価値になり得る。

こうした状況を見据え、水野さんは商店街の在り方を“ライフスタイル提案型”へとシフトする必要があると考えている。
「これまでは“モノを売る”ことが中心でした。でも今は、“どう生きたいか“、“どんな暮らしがしたいか”に共感して人が集まり、結果としてモノが売れる、という順番に変わってきています。つまり、モノが先ではなくて、ライフスタイルが先なんです。柳ケ瀬も、ただ店があるだけじゃなくて、“この街でどう暮らすか”という提案ができる場所にしていきたい」

アーケードのある風景。今後どのように変わっていくのだろう(提供:柳ヶ瀬を楽しいまちにする株式会社)

アーケード撤去を含めた景観再構築の取り組み

柳ケ瀬らしさを取り戻していくことがこれからの街づくりの軸といえそうだが、具体的なアイデアについて尋ねた。

「重要なのは景観の再構築、つまりランドスケープです。いま北側のエリアでは、アーケードを段階的に撤去していく計画があります。10年くらいかけて進めていく予定です」

一見すると、アーケードの撤去は衰退の象徴のようにも映る。しかし、その意図はまったく逆にある。

「これは廃れたから撤去するんじゃなくて、柳ケ瀬らしさを取り戻すための計画なんです。これまでのように都会っぽくするのではなくて、その土地の風土や歴史が感じられる景観に変えていきたいと考えています。かつてこの場所には水辺があり、柳の木があった。都市化の過程で失われてきたそうした風景を、もう一度街の中に取り戻していくことが必要なのではないかと考えています」

こうした風土や空間の再構築の上に、ようやく店のあり方も意味を持ってくるのかもしれない。

「県内の名店を、柳ケ瀬に集めていきたいという考えもあります。百貨店が閉まったことで、それまで中に入っていた地元の名店が商店街に店を構えるようになりました。その流れを活かしていきたいんです。柳ケ瀬に行けば、県内の店が一通り揃っていれば、住民だけでなく観光客を呼び込む魅力にもつながるはずです」

柳ケ瀬商店街150周年を迎えるのが2039年。
「その節目に、もう一度この街を日本一の商店街と呼ばれるような場所にしたい。商店街の店を増やすだけではなく、街のあり方そのものを見直していく必要があると思っています」という言葉に、水野さんの意気込みがうかがえる。

更新される都市機能と、暮らす場所としての柳ケ瀬

35階建ての高層ビル「柳ケ瀬グラッスル35」。住居や公益的施設、商業施設が入居する街の新しいランドマークだ(提供:岐阜市)

ここで、行政が関わる新しい動きについても目を向けてみたい。

旧岐阜高島屋の南側には、2023年3月に完成した地上35階建て・高さ約132メートルの複合再開発ビル「柳ケ瀬グラッスル35」がある。高層部は総戸数335戸を誇る、岐阜市内最大規模のタワーマンションだ。周囲に高い建物が少ないこともあり、街の中でもひときわ目を引く存在となっている。

低層部には、公益的施設として「ウゴクテ」と「ツナグテ」が入っている。3階の「ウゴクテ」は、運動習慣づくりのきっかけとなる場を提供。4階の「ツナグテ」は子育て支援施設で、月間1万5,000人以上が利用する人気のスポットとなっている。
さらに、目の前にある「セントラルパーク金(こがね)公園」も同時期にリニューアルされ、芝生広場を備えた憩いの場として整備された。

「ツナグテ」内の「ごーごーフィールド」。ボールプールやクライミングウォールなど、室内でも体を動かして遊べるフィールドが用意されている。粘土やブロック、紙などを使って自由に工作できるアトリエもあり親子に人気のスポットとなっている(提供:岐阜市)
工事中の長崎屋の跡地。「柳ケ瀬広場」の完成が待たれる

また、商店街の中心部で長らく手つかずだった旧長崎屋の跡地は、まちづくり活動の拠点となる「柳ケ瀬広場」として再整備が進められている。
さらに、自動運転バス「GIFU HEART BUS」は2023年11月から全国初となる「中心市街地での自動運転バス5年間の継続運行」を開始し、2026年3月末時点で乗車人数は10万2千人を超えた。

こうした都市機能の整備によって、中心市街地でありながら、子育て世代が過ごしやすい環境が整いつつある。「暮らす場所」としての柳ケ瀬という側面も見え始めている。

街中を走る自動運転バス「GIFU HEART BUS」。真っ赤なカラーと独特なフォルムが目をひく(提供:岐阜市)

その土地にしかない価値を見つめ直す

2024年には30年以上前に設置されたオーロラネオンを活かした撮影会イベントも開催。斜陽とされてきたものを新たな価値へと転換する取り組みに、期待が高まっている。

1990年ごろから衰退の兆しが見え始め、繊維業の衰退やバブル崩壊、車社会への移行とともに人の流れは変わっていった。近鉄百貨店や長崎屋の閉店を経て、2024年には高島屋も撤退した。
変化の途中にある柳ケ瀬ではいま、これまでとは異なる方向で街を捉え直そうとしている。

2024年に西柳ケ瀬で開催された廃墟ツアーでは、閉店した店舗や路地裏をあえて巡る企画が話題を呼び、ニッチな層から支持を集めた。
「目立つことって非常に大事だと思うんです。マイナスに感じる人もいれば、おもしろいと感じる人もいる。かつてのバブルの遺産の裏側にある背景をおもしろいと思ってくれる人達と、廃れてしまったものの価値を再定義する事で、新しいまちの形が見えてくるんですよね」(水野さん)

都会に近づくことではなく、“衰退”も含めてその土地にしかない価値を見つめ直すこと。
その試みは、柳ケ瀬という一つの商店街にとどまらず、地方都市のこれからを考えるうえでの一つのヒントになりそうだ。

子どもが遊ぶ平日午後の「セントラルパーク金公園」。後ろには「柳ケ瀬グラッスル35」が見える

まちの変化に合わせて、旧岐阜高島屋の解体も本年度から開始されることになった。解体してから新しい施設がオープンするには数年かかる見込みだが、跡地活用についてまちの中核として、柳ケ瀬のまちと一体となった開発が期待されている。

そうしたなか、2026年3月22日には、地元企業や商店街などの民間主体による「柳ケ瀬エリアプラットフォーム」が設立された。官民が連携しながら、柳ケ瀬全体の価値を高めていくための枠組みであり、今後はこの場を起点に柳ケ瀬の将来像となるエリアビジョンの策定が進められていくという。

構想がどのように具体化されていくのか。
柳ケ瀬が次の時代にどのような姿を描くのか。

これからの展開に注目していきたい。

【取材協力】
岐阜柳ケ瀬商店街振興組合連合会
柳ヶ瀬を楽しいまちにする株式会社
一般財団法人岐阜市未来のまちづくり財団
岐阜市中心市街地みらい戦略課

松尾 麻衣子
住まいと暮らしのライター
古道具や古着、古民家など“お古”に惹かれる愛知県在住ライター。雑誌、Webを中心に建築やリノベーション関連のほか、まちづくり、ものづくり、グルメ、音楽、著名人インタビューなど多ジャンルの取材・執筆を手がける。中古住宅で“お古”の家具をDIYしながら暮らす。

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