愛犬と登山のススメ【穴澤賢の犬のはなし】
先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで感じた何気ないことを語ります。
ゴールデンウイークに、日向山に登った。現在暮らす山の家(長野県原村)からは車で1時間ほどの距離なので、渋滞にハマることなく行ける。この、休日に渋滞を心配せず出かけられるというのも、山に完全移住して良かったと思える要素の1つだ。
登山は犬も喜ぶ
また、山が多いというのも良い。以前は運転しながら山々を見て「いい景色だな」と思っていたが、登ってみると実に楽しい。何が楽しいのかというと、犬がめちゃくちゃ喜ぶからだ。
大吉はもちろん、特に福助のテンションが高くなる。普段の散歩では人の後ろを歩く福助が、ずんずん前に行き、いつもグループの先頭を歩きたがる。そのおしりを見ながら付いていくのだが、しっぽフリフリで嬉しくて仕方ないのがおしりから伝わってくる。10才でもそんな感じである。そんなに山が好きなら、もっと早く登山をしていれば良かったとちょっと悔やんだほどだ。
犬と暮らす人なら分かると思うが、犬が喜んでいるとこちらまで嬉しくなる。そういう意味で、犬と山に登ってみるのはいいと思う。もう1つは、犬も人もいい運動になる。
犬も飼い主も健康にいい登山
特に人間は、40才を過ぎると基礎代謝が落ちて、気を抜くと少しずつ体重が増える。私もそうで、日々の犬の散歩では運動量が足りず、50才をすぎて「このままではマズい」と思いジム通いを始めたりしていた。
そういう面でも登山はいい。さらに私の場合、登山でバテないように普段から毎日クロストレーナーで30分走ったり、筋トレをするようになった。それは登山のためだけではなく、体型を維持したまま酒を飲み続けるという不健康な動機からでもあるのだが。
他にもいいことがある。それはこれからの季節、平地ではぐんぐん気温が上がり、早朝と夜の散歩以外、犬はエアコンのきいた部屋にいてもらうことになる。外にお出かけするなんてできなくなる。そうすると犬のストレスはどんどん溜まり、露骨につまんねーオーラを出すようになる。
そんな顔をされてもこの気温じゃどこへも行けないんだよ、と言ったところで犬は理解してくれないので、なだめすかしながら飼い主もストレスが溜まっていく。けれど、山は涼しい。標高にもよるが、1500メートルくらいの山なら気温も低いし日陰も多いから歩ける。真夏だとちょっと厳しいかもしれないが、それでも都心に比べたら犬にとっては快適なのは間違いない。
さらに、山頂まで登った後に食べる弁当はめちゃくちゃおいしい。今回もおにぎり担当(私)と、おかず担当(友人・ヤマト家)で持ち寄りお昼を食べたが、お湯を沸かしてフリーズドライの味噌汁をすすったとき、「あ〜おいしいわぁ」と心の底から言った自分に驚いてしまった。もちろん犬たち用の弁当も作って行って、みんなで食べた。
以上のように、犬と登山するのは、良いことしかない。犬と山に登ったことがないなんてもったいない。ぜひ犬と山に登ってみて欲しい。
こんなことを書いている私は、昨年まで登山なんてする気はなかったし、最初は誘われても「お金もらっても嫌」と断っていた。それが、「長野県に移住したんだし嫌なら辞めればいいか」と試しに登ってみて、この変わりようである。だからだまされたと思って登ってみてほしい。
前回暑くなったら八ケ岳に避難しようと書いたが、何泊かしてどこかで登山に挑戦してみるのもオススメだ。昨年私が最初に登った入笠山だったら途中までゴンドラで行けるし、ハイキングレベルなので初心者でもそんなにしんどくないはず。そのときの愛犬の反応をお楽しみに。
プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。
大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。
福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。