中村屋ゆかりの「猿若祭」花形が顔を揃えて、古典の名作と人気作を上演 『猿若祭二月大歌舞伎』ラインナップ発表
2026年2月、歌舞伎座にて上演される『猿若祭二月大歌舞伎(さるわかさいにがつおおかぶき)』の演目と主な配役が発表された。昼夜にわたり、古典の名作と人気作が並び、充実の競演による豪華ラインナップでおくる。
「猿若祭」は、1976年に十七世中村勘三郎を中心に歌舞伎座で始まった公演。1624年に初代猿若(中村)勘三郎が江戸で初めて幕府公認の芝居小屋「猿若座(のちの中村座)」を建てたことは、江戸歌舞伎の発祥とされ、その座元は、代々勘三郎を名乗り、江戸歌舞伎の繁栄を築いてきた。中村屋ゆかりの「猿若祭」では、これまでにも中村勘太郎(現 勘九郎)・七之助兄弟や、中村勘太郎・長三郎兄弟の初舞台、十七世勘三郎、十八世勘三郎の追善も行われてきた。歌舞伎座で3年連続、7度目となるこの度の「猿若祭」では、十八世勘三郎に見出され、一般家庭から歌舞伎の世界に入り活躍する中村鶴松が初代中村舞鶴を襲名し披露する。
昼の部は、人情喜劇の名作『お江戸みやげ(おえどみやげ)』から。第一回直木賞受賞でも知られる劇作家・川口松太郎が1961年に十七世勘三郎で初演した心温まる作品は、梅の花ほころぶ湯島天神を舞台に性格の対照的な行商人の辻とおゆうのやりとりが楽しい人情物語。純情な女心を見せるお辻を中村鴈治郎、酒好きで大らかなおゆうを中村芝翫、常磐津文字辰を片岡孝太郎、人気役者・阪東栄紫を坂東巳之助の配役でおくる。
続いては、江戸の粋と風情を感じさせる舞踊『鳶奴(とんびやっこ)』。鳶に初鰹をさらわれた奴の姿を描いた明るい作品で、祖父・二世尾上松緑も歌舞伎座で上演した舞踊を尾上松緑が勤める。
続く『弥栄芝居賑(いやさかえしばいのにぎわい)』は、通称「芝居前」と呼ばれる華やかな作品。猿若座の芝居小屋前に、猿若座座元の中村勘九郎、座元女房の中村七之助、猿若座若太夫の鶴松改め中村舞鶴が登場。片岡仁左衛門、中村福助、中村扇雀、中村芝翫、片岡孝太郎をはじめ、花形の面々が顔を揃えるおめでたいひと幕となる。
昼の部の最後には、映画『国宝』で取り上げられ、俄然注目を浴びる『積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)』。雪の降り積もる逢坂山の季節外れの満開の桜の下で繰り広げられる、ドラマティックな舞踊劇だ。天下を狙う関守関兵衛実は大伴黒主を中村勘九郎が、2011年の平成中村座以来、満を持して勤める話題の舞台。小野小町姫と傾城墨染実は小町桜の精を中村七之助、良峯少将宗貞を八代目尾上菊五郎という充実の競演で届ける、見応えのある名作。
夜の部は、時代物の大作『一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)』より「陣門・組打」の名場面で幕開き。源平の合戦を題材とした「平家物語」の中でも特に知られた平敦盛の最期を大胆に脚色した物語で、源氏方の武将・熊谷次郎直実とその息子・熊谷小次郎直家の親子の運命が描かれる。勇猛果敢な熊谷次郎直実を中村勘九郎、熊谷小次郎直家と無官太夫敦盛を中村勘太郎という中村屋の親子競演が話題となるひと幕。
続く、舞踊『雨乞狐(あまごいぎつね)』は「舞鶴六変化」とつき、初代中村舞鶴襲名披露狂言。十八世勘三郎から勘九郎に受け継がれた中村屋ゆかりの作品で、本年開催の自主公演「鶴明会」で挑戦した中村鶴松が初代中村舞鶴襲名披露として六役を勤める。
打ち出しは、深川辰巳芸者の恋模様を描いた『梅ごよみ(うめごよみ)』。芸者の仇吉と米八が、色男の丹次郎を巡り、意気地を張り合うユーモラスで爽快感に溢れる作品。芸者仇吉を中村七之助、芸者米八を中村時蔵、丹次郎を中村隼人が勤める。