【二宮】日用品の店「日用美」。あったら楽しいもの、心が動くものとの暮らし ― 浅川あや | 湘南アーティストファイルvol.2
湘南地域で活動するアーティストを紹介する「湘南アーティストファイル」。
第2回に登場いただいたのは、海と山に囲まれた小さな町・二宮町で、日用品のセレクトショップ「日用美」を営む、浅川あやさんです。
「日用美」は二宮駅から歩いて9分ほどの、吾妻山の麓にあります。もともと古い洋館だった建物をリノベーションした店内は、天井が高く、どこか蔵のようなしっとりとした雰囲気です。
「日用美」はオープン当初、鎌倉市材木座にお店を構えていました。その後の2020年、店舗は二宮町へと移転。同じ湘南エリアでありながら、鎌倉と二宮はまったく異なる土地です。ここに移転するまでにどんな背景があったのでしょうか。
【二宮 ショップレポ】日用美-素敵な日用品が揃う緑の中のセレクトショップ二宮駅北口から5分程歩いた場所にある古い洋館をリノベーションした素敵なセレクトショップ「日用美」を紹介します。緑溢れるアプローチ 画像出典:湘南人緑に囲まれたこちらの坂をのぼった場所にお店があります。 画像出典:湘南人おとぎ話の世界に迷い込んだような外観がとても素敵です。窓から溢れる緑が望める素敵な店内に並ぶ日々の生活を穏やかに彩る品ステンドグラスの窓がお店の雰囲気ととても合っています。 画像出典:湘南人ゆっくり店内の品をみていきました。 画像出典:湘南人キッチンにずっと出していてもオシャレなこ...
湘南人
湘南人でも以前「日用美」を取り上げたことがありましたが、今回は2つの湘南地域で暮らしてきたご店主の浅川あやさんに、これまでの歩みと、模索してきた暮らしについてお話を伺いました。
自分の生活がままならない
浅川さんは、鎌倉でお店を始める前、東京のインテリアショップに勤めていたといいます。
「当時は毎日終電で帰るような生活をしていました。忙しくてごはんもまともに作れなかったですね。生活に関わる仕事をしているのに、自分自身の暮らしがまったく丁寧じゃないことに違和感を持つようになりました。」
仕事に追われる日々のなかで、もう少しゆっくり暮らしたいという思いが強くなった浅川さん。ご親戚が鎌倉近辺に住んでいたこともあり、鎌倉・材木座への移住を決めました。
鎌倉に移り住んでから、暮らしは落ち着いたのでしょうか。そう尋ねると、浅川さんは少し笑ってこう振り返ります。
「鎌倉でも、結局忙しかったですね。ただ、忙しさの質が変わりました。鎌倉はお店も多いし、人に会う機会も多い。もともと働くことが好きな性分というのもあって、よく外に出かけていましたね。」
鎌倉で始まった日用美
鎌倉への移住と同時に、お店を開くことも視野に入れていた浅川さん。1階を店舗に、2、3階を住居にした家を建て「日用美」をオープンする計画を立てます。しかし、すぐに店を始めることはできませんでした。息子さんが生まれ、1階はしばらくそのままの状態だったといいます。
「母親たちが交代で子供を見守る自主保育に息子を預けていました。自主保育はお昼に終わってしまうところが多いのですが、幸い、そこには夕方まで預かってくれる保育士さんがいたのです。もし夕方まで見てもらえなかったら、お店はできなかったと思います。」
はじめての育児と、そのままになっている1階の店舗の間で足踏みをしていた浅川さん。その背中を最後に押したのは、大学時代の同級生でガラス作家のアキノヨーコさんでした。
「お金は後でいいから、まずは始めてみて。」
そんな言葉と共に、段ボールいっぱいに詰められた作品がお店に届いたといいます。
こうして2013年、鎌倉・材木座で「日用美」が始まったのです。
二宮への移住。決め手は「土」
5年間の鎌倉生活を経て、2018年、浅川さんはお店と共に二宮町へと拠点を移します。移住を決めた理由を尋ねると、浅川さんは迷わずこう答えました。
「やっぱり、この洋館に出会えたことですね。それから、土があることも条件でした。」
土、という言葉に驚いて聞き返すと、浅川さんは保育園「ごかんのもり」との出会いを教えてくれました。
「自主保育のあと、息子を逗子の『ごかんのもり』という保育園に預けていました。そこで『パーマカルチャー』という取り組みを知ったのです。パーマカルチャーとは、自然環境と調和した生活を目指す取り組みのこと。山の中にある『ごかんのもり』はまさにパーマカルチャーを実践しているところで、子どもたちは畑の野菜を抜いてパクッと食べたり、雨水を集めて再利用したり、集めた落ち葉をコンポストに入れてまた土に返したりしていました。」
そんな自然と生活の循環の中に身を置く息子さんの姿を見るうち、浅川さんの心に再び違和感が芽生えます。
「園では落ち葉を大切な資源として扱っているのに、家に帰ると、自宅の前の道路の落ち葉はただのゴミとして掃き捨てられてしまう。矛盾を感じるようになりました。それから、ある人に『家庭って家に庭って書くでしょ。庭があることで家は循環するのよ』と言われたことも印象に残っていて。だから土があることは移住の大事な条件でした。」
ガラス窓の向こうに目を移すと、二宮の豊かな木々と、隣接する浅川さん宅の庭が見えました。仕事と生活、自然環境が、ここでは文字通り地続きになっています。
心地よいと思う暮らしと実際の生活のあいだには、誰しも少なからずギャップがあります。その違和感を見過ごさずに拾い上げ、行動に移してきた浅川さんだからこそ、ここにお店があるのだなと感じられました。
美味しいパン屋さんにはいい人が集まる
二宮を選んだのには、もう1つユニークな理由がありました。それは「美味しいパン屋さんがあること」。
「美味しいパン屋さんには自然といい人が集まってくる。そう思っているんです。二宮にはすでに『ブーランジェリーヤマシタ』という素敵なパン屋さんがあって、それがこの町に来る決め手になりました。」
ブーランジェリー ヤマシタ噛み締めるほどに美味しい!ハード系パンが多く揃うパン好きさんにオススメしたい、二宮で人気のパン屋さんををご紹介いたします。お店の名前は【Boulangerie Yamashita (ブーランジェリーヤマシタ)】。なんだか名前からしてオシャレな雰囲気が伺えます。場所は二宮駅から北に10分ほどの歩いたところにあります。お店の横に駐車場7台完備とのことで、車で来られる方にも嬉しい配慮ですね。歩いてお店の側までくると急に森のような空間が出現します。絵本に出てきそうな森の中のパン屋さんのような店構えが印象的です。コンパクトな店内...
湘南人
浅川さんの予感通り、その後二宮には鎌倉や葉山から移住してくる人が後を絶ちません。最近では「パナデリーヤ ティグレ」や「TATA BAKERY」など、新しいパン屋さんも増えました。また新たな人がこの町に引き寄せられていくのではないでしょうか。
(▲「ブーランジェリーヤマシタ」で使われている、マエノタツロウさんのお皿も実は「日用美」で取り扱っているもの。)
おおらかに育まれる日用美のこれから
二宮に移転してから、お店のセレクトに変化はあったのでしょうか。
「以前は日用品であることに強くこだわっていましたが、今は、生活に直接役立たないかもしれないけれど、あったら楽しいもの、心が動くものも置くようになりました。選び方がおおらかになったと思います。それから、作家を紹介したいという気持ちがより大きくなりました。」
「商品」と呼ぶより「作品」と呼んだ方がしっくりくるものばかりが並んだ「日用美」。わざわざこの場所を目指して来てくれた人が、ひとつひとつ作品を手にとる静かな時間は、浅川さんが二宮でつくりたかったお店の風景なのだと感じました。
最後に、二宮に移り住んで感じていることを伺いました。
「二宮は静かで、天気もよくて、本当にいいところです。小さな町だけど移住者にあたたかくて、いろんな人が生活を気にかけてくれるんです。お店にとっても、二宮に移転してよかったと思っています。鎌倉の方が観光客は多いけれど、二宮ではお客さんとゆっくり話ができるし、わざわざ来てくださる分、作品をじっくり見てもらえています。」
暮らしとお店が切り離されることなく、土や人とのつながりのなかで息づいている「日用美」。
浅川あやさんの言葉、そしてうららかなお人柄に触れるなかで、この場所がたくさんの人を惹きつける理由が伝わってきました。
浅川あやさん
内装設計施工会社、インテリアショップなどを経て独立。神奈川県二宮町にて、全国各地からセレクトした日用品の店「日用美」を営む。
Instagram@nichiyobi_asakawa