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高橋一生×酒井若菜、ふたりの心が重なり合う奇跡の瞬間とは 『坂元裕二 朗読劇2021』観劇レポート

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坂元裕二 朗読劇2021『「忘れえぬ 忘れえぬ」、「初恋」と「不倫」』

坂元裕二 朗読劇2021『「忘れえぬ 忘れえぬ」、「初恋」と「不倫」』は、新作の「忘れえぬ、忘れえぬ」と再演を重ねている「不帰の初恋、海老名SA」と「カラシニコフ不倫海峡」の3作を6組の出演者がそれぞれ朗読する企画である。

2021年4月13日(火)、よみうり大手町ホールで幕が開いた初日は、高橋一生と酒井若菜による「忘れえぬ、忘れえぬ」。毎年夏になると、年に一度、寄宿舎で出会う、ひとりの少年と少女の数年間を約1時間半で描く。

劇場に入ると、薄明かりの下、舞台上には白い革張りの椅子が2脚すこし距離を置いて並んでいる。椅子の右側には各々木製のローテーブルがあり、水のペットボトルが乗っている。上手の椅子にはクッションがふたつ。下手にはクッションはない。

開幕前には諭吉佳作/menによる主題歌がかかってムードを高め、高橋一生と酒井若菜が着席し、朗読がはじまる。高橋は黒い上着に白いシャツ、緑の表紙の台本、酒井は黒いブラウスに白っぽいスカートに赤い表紙の台本。

高橋一生  撮影:熊谷仁男

高橋は最里(もり)役。酒井は木生(きお)役。ふたりはメールのやりとりをしている。最里の言葉遣いはとても独特。しかも木生に対してぶっきらぼうだ。そのせいか、高橋は少し身体を傾けている。一方、木生は姿勢よく座っていて、最里の言葉をなにかとたしなめる。間接照明でシックな雰囲気のなか朗読は粛々と進むので、はじめはこのふたりのやりとりをどう捉えていいものか緊張しながら追いかけていたのだが、あるとき、ふたりが落とした食べ物を拾って食べるか食べないか判断するとき、何を基準にするか語り合うくだりになると、会場にそっと笑いが漏れた。以後はそこここで笑いが起る。そこからはエンジンがかかるように、最里と木生のメールも活気づき、本質的なところでつながっていくような雰囲気になる。

あるとき木生は、時間が止まっている時計台で会わないかと持ちかける。はじめてふたりがそこで出会った後らしき会話(メール)では酒井若菜の声が少しかわいらしくなったような気がした(あくまで個人の感想です)。

最里は話し言葉よりも、人間の心情が伝わる方法を彼は知っている。たとえば、メールの言葉のオリジナリティーこそが、ふたりの本音。でも、さすがに最里の言葉遣いは文法が間違っているので本を読むことをすすめる木生。

本をたくさん読んでいる彼女の好むものは悲しい話ばかり。「愉快で幸せな物語は病んだ人が読む絵空事」だと言うセリフが刺さる人には刺さりそうだ。少なくとも坂元裕二の作品をドラマでも映画でも演劇でも好きな人は、木生のセリフに共感しそう。では、この朗読劇の結末は……と心配になるけれど、まったく予測し得ない終着を見せるとだけ、ここではお伝えしておこう。

酒井若菜  撮影:熊谷仁男

木生の影響で、本を読むようになった最里の言葉遣いは変化していく。だからなのかわからないけれど、最里役の高橋の姿勢は少しずつ傾かなくなっていく。

最里は大人びた言葉遣いで状況を表すようになり、木生は恋について熱く激しく持論を語る。最初の頃は同じように思えたふたりの声の温度は少しずつ離れていくように感じる。それと同時に物理的な距離も離れていく。ここで音楽。暗転――。

後半戦になると、それまでふたりだけだった世界に、関わる人たちが増えてくる。物理的な距離も離れた最里と木生が引き続きメールのやりとりをする中で、最里が経験したある出来事が、ふたりの世界に対する認識を強固なものにする。年齢を経て、成長したかに見えたふたりだが、時の止まった時計台と同じように、世界の動きとは合っていない。

ふたりをふたりだけの世界に身を隠させていた世界の残酷さを、改めて目の当たりにするふたり。遠く離れた場所で生きる最里と木生の、別々に怜悧な理性と熱情あふれる行動は、振動するふたつの波長となり、それは瞬間重なって共鳴を起こす。最里→木生→最里→木生と規則正しく行き来するメールのやりとりが加速し、順番が逆転する瞬間は、最里も木生も離れて椅子に座って台本を朗読しているだけにもかかわらず、閃光が走るような強烈な躍動があった。一度も触れ合うことなく、ふたりの心が重なり合う奇跡の瞬間。高橋一生のピアノの鍵盤のような声と酒井若菜のピアノにかかるビロードのカバーのような柔らかさと声の調和もいい。おそらく、俳優の組み合わせによって印象もだいぶ変わるのではないだろうか。

 撮影:熊谷仁男

さて。坂元裕二は今年1月に公開された映画『花束みたいな恋をした』がロングランでヒットしているところ。たくさんの人が共感した映画の主人公の麦(菅田将暉)と絹(有村架純)の“恋”とはなんだったのかが、「忘れえぬ、忘れえぬ」で木生が恋について語るセリフを聞いたとき、少しわかったような気がした。

文=木俣冬

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