【静岡市美術館の「スウェーデンのうつわ グスタフスベリのある暮らし」展】「製作と制作」「デザインとアート」のすみ分け、重なりについて深く考えさせられる
静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市葵区の静岡市美術館で9月6日まで開かれている企画展「スウェーデンのうつわ グスタフスベリのある暮らし」を題材に。
(文と写真=高度専門記者兼論説委員・橋爪充)
「制作」と「製作」。新聞の紙面上では書き分けが決まっている。いわゆる「統一表記」である。芸術作品のように「1点もの」を作る場合は「制作」、機械や設備を使って大量生産する場合は「製作」。創作する場合は「制作」、商品づくりは「製作」。おおむねこのような書き分けだが、例えば映画は「製作」であったりして、二つの言葉は重なり合う部分もある。
静岡市美術館の「スウェーデンのうつわ グスタフスベリのある暮らし」展を見て、これは書き分けが難しいぞ、と直感した。並んでいる器の中には「制作」したものもあれば「製作」したものもある。どちらとも言えないものもある。
スウェーデンの首都ストックホルムの東20キロに位置するグスタフスベリ製陶所は1825年設立。皿やカップなど家庭用のテーブルウェアで知られるが、同社に所属した個性豊かなデザイナーたちの仕事は北欧デザインの中心的な位置を占めるとも言われる。
「スウェーデンのうつわ」展はスウェーデン国立美術館が所蔵するコレクションから同製陶所の約300点を展示する。中心的な役割を果たした4人のデザイナー、ヴィルヘルム・コーゲ(1889~1960年)、スティグ・リンドベリ(1916~1982年)、リサ・ラーソン(1931~2024年)、カーリン・ビョルクヴィスト(1927~2018年)に焦点をあて、彼らのつくりだした「作品」「製品」を並置する。
個人的にはいろいろ原稿を書く上で、「制作」するのはアーティスト、「製作」するのはアルティザン(職人)という使い分けの軸もある。それから「創る」のは作品で、「作る」「造る」は必ずしも作品でない場合を含む、という感覚もある。
「スウェーデンのうつわ」展は、このあたりの概念がとても曖昧だ。そこが見どころと言ってもいい。デザイナーの創造性がダイレクトに反映されたいかにも「作品」的な器もあるが、「作品」に見える「製品」も多い。例えばリンドベリのカラフルな花器や、ユーモアたっぷりの魚のイラストをあしらった皿はその境目に存在している。
コーゲのパートでは、スタイリッシュな家庭用テーブルウェアシリーズの「ウィークエンド」や「グローレンデル(グレーライン)」が紹介されている。同じエリアには彼が手がけた1点ものの芸術作品シリーズ「ファシュタ」が並ぶ。ここを見比べると、「ああそうか」とふに落ちる。
機能性と同一性が要求されるテーブルウェアシリーズの製品に対して、「ファシュタ」は恐らく、偶然性に委ねられる領域が大きい。特に釉薬の色の出方や風合いは、コーゲ自身が完璧にコントロールしたものではないだろう。仕上がりが当初のイメージと違っていればいるほど、コーゲの喜びは増したのではないだろうか。
プロダクト(製品)がアート(作品)に昇華する瞬間を見た思いだった。そんな作品がいくつもある。デザインとアートのすみ分け、重なりについて深く考えさせられる展覧会である。
<DATA>
■静岡市美術館「スウェーデンのうつわ グスタフスベリのある暮らし」
住所:静岡市葵区紺屋町17-1葵タワー3階
開館:午前10時~午後7時(月曜休館、8月10日は開館)
観覧料(当日):一般1600円、大学生・高校生・70歳以上1200円、中学生以下無料
会期:9月6日(日)まで