市街化調整区域でなぜ大規模開発が可能だったのか。「みんなで大家さん ゲートウェイ成田」から考えるまちづくりの課題
事案の概要と見落とされている論点
不動産投資の案内チラシや説明資料に、「都市計画決定済」という文言が記載されていたとしたら、あなたはどう受け取るだろうか。多くの人は、「役所が認めた計画なら実現するはずだ」と感じるのではないだろうか。
その判断が、大きな落とし穴になる可能性がある。
近年、千葉県成田市の成田空港近くで計画された不動産投資商品「みんなで大家さん成田」をめぐり、一般の消費者を巻き込んだ問題が注目を集めている。報道等によれば、同事業では成田空港周辺の約46ヘクタール(東京ドーム約10個分)の土地に、複合商業施設やホテルなどを含む大規模開発が計画され、数万人の出資者から合計約1,500億円超の資金を集めたとされる。一方で、工事は当初計画どおりには進んでおらず、事業実現の見通しについて厳しい見方が示されている。
報道の多くは、投資商品としての説明責任や、開発許可審査の適否に焦点を当てている。それらはもちろん重要な論点であるが、まちづくり、とりわけ都市計画の側からみると、前段に問うべき論点がある。それは、そもそも「市街化を抑制する区域」で、なぜこれほど大規模な開発が可能になったのかという点である。
市街化調整区域について、報道では、「原則として建築することができない区域」と説明されることが多い。では、なぜ当該区域で約46ヘクタールにも及ぶ大規模開発が可能になったのか。その理由を理解するには、「地区計画」という都市計画の仕組みを知る必要がある。そして、その仕組みの運用のあり方こそが、この事案の本質的な問題につながっている可能性がある。
市街化調整区域でなぜ大規模開発が可能になるのか
まず前提を整理する。日本の都市計画では、都市の成長をコントロールする手法として都市計画区域を「市街化区域」と「市街化調整区域」に分ける「線引き」制度がある。国によると2025年3月末時点において、616市町村(全国市町村数は1,719)、約522万ヘクタール、このうち市街化区域には 全人口の約7割に相当する約8,881万人が居住している。1968年の新都市計画法制定により導入されたこの制度は、市街化を積極的に進める区域と、市街化を抑制する区域を明確に分けるものである。これを区域区分という。
この区域区分制度が生まれた背景には、高度経済成長期の急激な都市化がある。都市周辺部では、インフラが不十分なまま住宅や商業施設が無秩序に広がるスプロールが深刻な問題となった。そこで、どこを市街化するかを計画的に定め、それ以外の区域では開発を制限することで、道路・上下水道・公共交通・学校・医療などの行政コストを抑えながら、農林や自然と調和させ、秩序ある都市形成を目指す仕組みがつくられた。
市街化調整区域では、農林漁業従事者の住宅、農林漁業用施設、既存集落維持、公益上必要な施設など、一定の例外を除いて建築は厳しく制限される。近年では、物流施設やデータセンター、一部の工場など郊外立地が合理的な施設については個別に認められる場合もあるが、商業施設やホテルなどの大規模な都市的土地利用は、本来、積極的に認められるものではない。この制限は、単に歴史ある規制が残っているからではない。人口減少・超高齢社会においては、都市が拡散するほど、インフラの維持管理コストが増大、生活利便が低下し、公共サービスの効率が落ちることが知られている。このため、基本的にはコンパクトな都市構造を維持することは、現代においてむしろ重要性が増している政策的方向性である。
では、なぜ市街化調整区域で今回のような大規模開発が可能になったのか。その入口となったのが「地区計画」という都市計画のツールである。地区計画とは、街区や地区の単位で、土地の使い方、建物の用途・規模・配置、道路・公園などを細かく定める都市計画の一つであり、1980年に導入された。住宅地の環境を守る、駅前の歩行者空間を確保するなど、広域的な用途地域だけでは対応しにくい、地区レベルのきめ細かなまちづくりに使われる制度であり、主に市街地において用いられる。
一方で、市街化調整区域において地区計画を定めることは、本来建築が厳しく制限されている区域において、例外的に都市的土地利用を可能にする。法令上は、地区計画を定め、当該地区計画に適合する開発であれば、市街化調整区域でも開発許可を受けることができる。
ここで重要なのは、地区計画が民間事業者の開発構想ではなく、市区町村が都市計画手続を経て決定する公共性を持った計画の側面を持つという点である。成田市の事案でも、成田市が都市計画として2019年に地区計画を定めており、その後、開発許可を受けて工事を進めている。当時の都市計画決定理由は「空港周辺のポテンシャルを生かしたにぎわいの創出と新たな産業の振興を図るため、地区計画により良好な観光・商業・医療拠点の形成を目指す」としている。
また、2006年(平成18年)の都市計画法改正により、市街化調整区域における大規模開発については、地区計画等の都市計画に適合する場合に許可できる方向へと制度が整理された経緯がある。この改正により、郊外の大規模住宅団地の開発基準は廃止され、自治体のまちづくりとして必要かどうかを都市計画手続の中で判断する仕組みへの転換を意図したものだった。
したがって、市街化調整区域内の地区計画は、開発を可能にする便利な抜け道ではなく、本来市街化を抑制すべき区域で例外的な都市的土地利用を認めるにあたって、都市計画としての公共性・上位計画との整合性・広域的影響を十分に検討することを前提とした制度である。そのため、市街化調整区域内の地区計画が都市の将来像を実現するためのルールなのか、慎重に見極める必要がある。
なぜ、調整区域でなければならないのかが問われる理由
市街化調整区域で大規模な商業施設やホテルなどの集客機能を含む開発を認めるには、なぜ既成市街地ではなく、その場所でなければならないのかという合理性が問われる。
実務的には、既成市街地で大規模な土地をまとめて開発することは容易ではない。多数の地権者、既存建物、権利関係の複雑さなど、多くの調整課題があり、とりわけ地方では東京都心と異なり再開発コストに対する収益性に大きな違いがある。一方、郊外の農地や低未利用地のうち、農振農用地区外などの土地利用転換の調整が比較的進めやすいエリアは、事業者にとってコストが低く、実現しやすい。この非対称性が、市街化調整区域での開発を引き寄せる現実的な背景の一つにある。加えて、人口減少下の中、他自治体から人口を誘導する産業・商業等の施設誘致は多くの自治体が掲げる目的と整合する。
制度上の正攻法は「市街化区域での事業実施」または「市街化区域への編入」である。前者については、2021年都市計画基礎調査(千葉県)によれば、成田都市計画区域の市街化区域内(成田市内に限る)には、農地・山林・その他自然地など、水面を除く自然的土地利用が約280ヘクタール残っている。ただし、これは市街化区域内に点在する土地の合計であり、今回のような大規模開発に利用可能な一団の土地が存在することを直ちに意味するものではないが、数字上は市街化区域内に未利用地が残っていることを明らかにしている。
後者については、継続的・面的に都市的土地利用を受け止めるのであれば、区域区分を変更して市街化区域に組み入れることが本来の望ましいルートである。しかし、この市街化区域編入の手続には、決定権者である都道府県への働きがけ、国土交通大臣協議・同意や、農用地等を所管する農政部局との調整、商業フレーム(商業販売額等に対する商業系用途の面積など)やインフラ整備見通しとの整合など、現代の人口減少下では、高いハードルなどがある。こうした制度運用は、結果として、市街化区域編入という重い手続を経ずに例外的な都市的土地利用を可能にするルートとして機能し得る可能性がある。
問題の本質は、地区計画を使うこと自体にあるのではない。開発の規模や目的が、本来であれば区域区分の見直しとして議論すべきものではなかったのか、市街化調整区域のまま例外的に認めるだけの公共性と広域的な見地(都市圏)から妥当性があったのか、あるいは、市街化区域内の低未利用地では実現できなかった理由が十分に説明されていたのかという点である。
成田市の事案については、成田空港に近接するという特殊な立地を踏まえれば、訪日客・空港関連需要・国際交流といった既存市街地とは異なる広域的需要を想定した拠点形成として位置づける余地があり、市街化調整区域だから一律に不適切と判断するのは適切ではない。しかしそうであるならなおさら、なぜ調整区域でなければならないのかを、成田市域を超えた、東京圏北東部に位置する印旛圏域として、広域的な視点から役割等を検証する必要があったともいえる。ただし、都市圏単位で自治体間の利害を調整する制度的枠組みが十分に整っていないことも、日本の都市計画制度の課題であり、単一自治体や県のみに責任を帰結することは正しくない。
地方分権改革がもたらした判断する主体の変化
この問題には、地方分権改革との関係も絡んでいる。2006年当時、市が地区計画を定める場合、都道府県知事の同意を要する仕組みがあり、大小はあれど、都道府県が広域的な見地から一定の垂直的な調整を行っていた。しかし、2012年の地方分権改革により、この同意は「協議」へと変更された。市の主体性を高め、地域の実情に応じた都市計画を可能にするという、地方分権の理念に沿う改革である。
一方で、成田空港近接地の大規模開発のように、交通・商圏・雇用・インフラ負担が行政区域を超えて広域に波及する案件では、人口規模によるが市単独の判断だけでは限界もある。同意から協議への変更により、都道府県の関与は、少なくとも拒否権的な統制から、助言・調整に近い性格へと変化している。
さらに、開発許可権限の移譲も同じ構造を持つ。開発許可は法制度上、都道府県知事、指定都市長、中核市長が担うが、成田市は中核市ではないものの県からの権限移譲により開発許可権者となっている。権限を持つことと、その権限を適切に行使できる専門的・技術的体制を継続して確保できることは別物である。市街化調整区域の大規模開発では、立地基準以前に、都市計画として、道路・排水・防災・農地・環境・広域交通など、単一自治体単独では判断が難しい論点が重なる。これは特定の自治体の判断能力を責めるというより、基礎自治体に広域的影響を伴う大規模開発の判断が集中しやすい制度構造の問題として捉えるべきといえる。
事業が止まった後に残るリスク
出資者の立場から見れば、事業が止まることは資金回収の見通しが立たないことを意味するが、問題はそれだけではない。もう一つ見落とされがちな論点がある。それは、事業が実現しなかった場合の市民への影響である。
市街化調整区域内の地区計画は、特定の事業を前提に例外的な都市的土地利用を認めるものである。仮に事業が頓挫した場合、当初想定した公共性等が失われたまま、開発可能な状態だけが残る。つまり、本来は市街化を抑制すべき区域に、根拠となった事業のない地区計画が存続し続ける状況になる。さらに、工事が途中で停滞した場合には、造成地の維持管理・雨水排水・防災・周辺環境への影響といった問題も生じる可能性がある。これは民間事業の進捗管理にとどまらず、例外的な土地利用を都市計画として認めた後の管理責任や維持費用をどう考えるかという問題でもある。
この事案が示す三3の問い
今回の事案は、投資商品としての問題に焦点を当てるだけでなく、まちづくりの観点からは、以下の3つの問いを現代の社会に残している。
第1に、地区計画の判断プロセスは妥当だったのか。
本来市街化を抑制すべき区域において、この規模・性格の開発を例外として認めることが、都市計画マスタープランや立地適正化計画などの上位計画と政策面での構造的矛盾はなかったのか。市民への説明や合意形成、都市計画審議会での議論は十分だったのか。そして、計画の現実的な実現可能性がどの程度検証されたうえで都市計画として位置づけられたのかは重要な論点といえる。行政が民間事業の成功を保証するものではないとしても、本来、建築できないエリアに都市計画として位置づける以上、その判断の根拠は問われる。
第2に、広域調整は実効的に機能していたのか。
交通・商圏・インフラ負担が行政区域を超えて波及する超大規模開発について、千葉県との協議を経ているとはいえ、最終的に基礎自治体の都市計画判断として処理される現在の制度運用で十分だったのか。成田市の都市計画判断プロセスは検証されるべきだが、同時に、基礎自治体に広域的な都市圏に影響を及ぼす土地利用判断を背負わせる土地利用法制度構造そのものが問われているともいえる。
第3に、都市計画決定が事業のお墨付きとして機能してしまっていなかったか。
これが、この事案で最も見落とされがちな問題である。
本来、建築が厳しく制限される市街化調整区域内において、大規模開発を可能にする地区計画の決定は、結果として投資商品の信頼性の根拠として機能してしまった可能性がある。
市街化調整区域で大規模開発が計画された場合、多くの出資者は、行政が都市計画として認めているなら、一定の実現見通しがあるはずだと受け取りやすい可能性がある。だからこそ地区計画の存在は、事業の正当性を裏づける材料として使われやすい。
しかし、都市計画の決定と事業の実現可能性は別の問題である。地区計画は、一定の開発を行うことが都市計画上可能な状態にあることを意味するに過ぎない。事業が成立するか、資金調達が適切か、工事が完了するかについては、開発許可において、資力・信用なども一定程度審査されるが、それは投資商品としての採算性や資金調達スキームの適正性、事業全体の成立を確実に保証するものではない。すなわち、都市計画や開発許可が持つ公共的な権威と、事業実現性を保証する制度ではないという限界が、出資者の判断を誤らせる構造的な落とし穴になる。行政の都市計画決定が意図せず、民間投資商品の信用補完として機能してしまうリスクがあったのかもしれない。
これは成田市固有の問題ではない。地区計画に限らず、市街地再開発事業など、都市計画上の決定は不動産投資・開発事業の根拠として喧伝されやすい。その度に出資者・購入者は公が認めた計画という認識を持ちやすい。しかし、都市計画は投資判断の根拠としては本質的に不完全である。もっとも地区計画を定めなければ開発許可をおろすことができない市街化調整区域については、より厳格に都市計画決定時の議論が必要といえる。
都市計画と投資判断、どう向き合うか
市街化調整区域内地区計画の課題は、個別自治体の判断だけに帰結するものではない。同様の状況は、郊外での広域的影響を伴う大規模開発の判断が基礎自治体に集中しやすい現在の制度のもとでは、他の自治体でも起きる可能性が高い。
今回の事案から重要な教訓として読み取れるのは、都市計画上可能であることと、事業として成立すること、投資対象として適切であることを分けて考える必要があるという点である。今回の事案は、その違いを一般消費者にも分かる形で示した事例といえる。
現時点において、不動産投資商品としての説明義務を定める制度(不動産特定共同事業法等)は存在するが、その前提となる都市計画の妥当性や事業実現性を消費者が確認することを補完する制度が存在しない。不動産投資や土地取引を検討する際に、対象事業の前提となる都市計画の妥当性を確認したい場合は、都市計画に関して実務経験を持つ建築士や技術士に、投資商品としての適正性を判断したい場合は不動産鑑定士やファイナンシャルプランナーに相談することが1つの手がかりとなる。それぞれの専門家が見ている角度は異なるが、「都市計画・建築法制度上可能」と「投資として適切」は別の問いであるという認識を持つことが、まず第1歩である。
さらに、地区計画や開発許可の有無だけでなく、その都市計画がどのような経緯で決定され、上位計画である都市計画マスタープランや周辺自治体との関係でどのように位置づけられているのかまで確認する姿勢が求められる。
満山 堅太郎
建築士・ライター
地方から新たなまちづくりに挑戦中。国土交通省、いわき市役所勤務を経て2022年に起業。
前職では、港湾・空港整備、都市計画・まちづくり、公共交通行政の他、建築審査・指導等を経験。
株式会社UrbanPoleShift(https://iwaki-poleshift.jp)代表取締役。
一級建築士・建築基準適合判定資格者など