「年の差不倫で逮捕→獄中出産」の驚愕実話を基にした心理サスペンス『メイ・ディセンバー ゆれる真実』監督が明かす!『仮面/ペルソナ』『卒業』ほか“影響”6作品
トッド・ヘインズ監督が明かす!“影響”6作品
カンヌ受賞作『キャロル』(2015年)のトッド・ヘインズ監督最新作にして、ナタリー・ポートマン&ジュリアン・ムーア豪華共演で話題の『メイ・ディセンバー ゆれる真実』が、2024年7月12日(金)より全国公開となる。
90年代に実際に起きた「12歳少年と34歳女性のスキャンダル(※メイ・ディセンバー事件)」が物語りのベースになっている本作。“事件の23年後に事件の映画化が決定した”というメタ的な設定で、夫婦を訪ねた女優のエリザベスが事件を様々な角度から見つめていく……という心理ドラマだ。
メガホンを執るのは、『エデンより彼方に』『キャロル』などで映画ファンから支持を得るトッド・ヘインズ監督。ナタリー・ポートマンとジュリアン・ムーアという豪華オスカー女優を迎え、過去と現在、真実と憶測が混ざり合う心理戦を描き出し、本年度アカデミー賞で脚本賞にノミネートされている。
このたびヘインズ監督が、初めて本作の脚本を読んだ時に「直感的に思い起こし影響を受けた」という映画6作品を明かしてくれた。
巨匠ベルイマン『仮面/ペルソナ』が重要シーンのヒントに?
「最初に脚本を読んだ時、頭にパッと浮かんだ」「ふたりの女性の実体が融合する際の描き方について考えた」と監督が話すのは、巨匠イングマール・ベルイマン監督による心理ドラマ、『仮面/ペルソナ』(1966年)だ。
『仮面/ペルソナ』は、失語症に陥ってしまった舞台女優と献身的に世話をする看護師が海辺の別荘で療養生活を続けるうちに、ふたりの女性の人格が徐々に交錯していく物語であり、キャラクターのひとりが“女優”という点が本作とも共通している。また同作の劇中、ふたりの女性が鏡の前に並んでお互いを見つめ合うという印象的なシーンがあるが、本作でもグレイシー(ジュリアン・ムーア)が女優のエリザベス(ナタリー・ポートマン)に鏡の前でメイクの仕方を教えながら、ふたりで鏡を見つめるシーンがある。
鏡を見つめているようで、実はカメラレンズに向いている視線――ふたりの距離を縮めると同時に、双方の心境に新たに“歪み”と“ゆらぎ”が生まれ、観客の予想と考察を打ち砕く結末に向かって物語が大きく突き進んでいく、物語のターニングポイントにもなる重要なシーンだ。
ベルイマン&アルトマンが描いた“女性同士”の妙
ヘインズ監督は、同じくベルイマン監督の『秋のソナタ』(1978年)や、ロバート・アルトマン監督の『三人の女』(1977年)のタイトルも挙げている。いずれも女性同士の関係を描く作品だが、『秋のソナタ』では奔放に生きる母と彼女に不満を抱える娘の心の葛藤を、そして『三人の女』では看護師と見習い、その二人の住むアパートを管理する老婦人という三人の女性の関係性をミステリアスに描いている。
さらに本作の劇中、エリザベスから疑惑の目を向けられるグレイシーと超年下夫のジョー(チャールズ・メルトン)の関係のように、“年上女性と若い青年の関係を描いた作品”として挙がったのは、往年の大女優と若手脚本家の関係を描いた『サンセット大通り』(1950年)と、ダスティン・ホフマン演じる主人公の青年が花嫁を奪い去るラストシーンが有名な『卒業』(1967年)だ。
『卒業』の“年の差”沼シチュエーションと『日曜日は別れの時』の印象的ラスト
『卒業』は主人公と人妻との関係という設定以外にも、カット割りでサスペンスやコメディの要素を演出しているところも参考にしたという。また、年増の男女と青年との三角関係を描いた『日曜日は別れの時』(1971年)のラスト、熱情と平静がないまぜになった印象的な対面シーンも、本作のラストに影響を与えていると明かしている。
時にシンクロし、時に対峙するふたりの女性、年齢の離れた女性と男性の恋、隠された感情、考察と妄想が肥大化していく過程……。複雑に絡み合う要素を漏らすことなく語ることを望んでいたヘインズ監督が、これらの作品からの影響を自身の映画に落とし込み、観客に向けていくつもの疑問を投げかける。
実際のスキャンダルを基に映画化した『メイ・ディセンバー ゆれる真実』は、映画好きならばピンとくるであろうシーンも盛りだくさん。事件の顛末や各キャラクターへの考察を粉々に砕いてみせる衝撃の結末を、ぜひ劇場で確かめよう。
『メイ・ディセンバー ゆれる真実』は2024年7月12日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開