ガイド一人で複数のバスをリモート案内。人手不足の救世主?
ここ数年、「バスの運転手不足」というニュースが各地から聞かれますが、富山県で、観光バスと路線バスを手掛ける会社では、ある意外な「助っ人」が運転手として活躍しています。
バスガイドと運転手の二刀流
「加越能(かえつのう)バス」の田島 奈美さんに伺いました。
加越能(かえつのう)バス株式会社 田島 奈美さん
元々は「バスガイド」というので、弊社に入社致しました。兼務というので、「バスの運転手」をいま主にしております。今のところ路線バスで、毎日のようにバスを運転してます。
運転手不足というのもやはり弊社も論外ではなく、どうしようかなと多分会社は考えたんですよね。
「すいません」って集められて、「こういう状況で、ガイドさんの人数これだけおられますが、いろいろ配置転換などして、仕事してもらいます」みたいな感じで言われて、そのうち6名が運転手にみたいな感じで。
第一声は、「え~!?」から始まりましたよね。「まじで!?」みたいな、この歳で大型の免許を取りに行くの?嘘でしょ」みたいな。まずはそこからですよね。
観光バス(イメージ)
田島さんは、「バスガイド」と「路線バスの運転手」を兼務しています。
きっかけは、コロナ禍。観光需要が減ってバスガイドの仕事もほぼゼロになった時、業界を去る運転手も続出。
もともと100人以上必要だった運転手が、30人近く足りないという深刻な状況に陥った際に声がかかったのが、バスガイド。
「大型二種」の免許の取得にかかる費用を会社が負担したり、運転手になった際には手当を支給したりと、様々なサポートを提示したところ、6人のバスガイドさんが、運転手との「二刀流」で働くことになりました。
会社としても運転手を新規採用するよりも、経験のあるガイドさんの方が「即戦力になる」と考え、観光客が戻ってきた今も、「二刀流」は続いているようです。
モニター越しにバスガイド
このように苦肉の策で、何とか人手を確保しようとしている一方で、人手不足は「バスガイド」も例外ではなりません。
そこで、同じく観光バスを手掛ける「奈良交通」は、ある作戦を考えました。奈良交通のバスガイド、櫻井 史子さんのお話。
奈良交通株式会社・バスガイド 櫻井 史子さん
「リモートガイド」をさせていただきました。
普通は車内に乗ってセンターに立って、ご案内をする。このリモートガイドは基地局から各観光バスに向かって案内を同時にするっていうものなんですけど、車内のテレビに私が映るんです。ただ現場にいないっていうこともあって、車内の映像を、私が見られるようになっています。
1台を追っかけるんじゃなくって、今日の担当の、例えば4台だったら、4台をずっと目で追っかけながら。「まもなく左手に二条城が見えてまいります」と。そしたら1号車の画面の横に二条城が見える。そしたら2、3、4とかも、「じゃあそろそろ二条城なんだな」っていうのがわかっていただけるような、4台実況中継みたいな形で。
結構着いたら、想像以上に疲れてる自分がいて…。
従来は、1台につき一人のバスガイドさんが乗って案内してくれますが、奈良交通は「リモートバスガイド」として、テレビ電話でガイドを実施。しかもガイド一人で、4台同時中継!
バスに付いているテレビ画面に、ガイドのが映りますが、ガイドさんがいるのは、奈良の本社。車内と車窓を映したカメラと、バスのGPS(位置情報)を確認しながら、「右手に見えますのは金閣寺です」などと案内していきます。
修学旅行生が対象で、今年春のシーズンには、およそ35校、のべ120台のバスで運用。今の子どもはYoutubeなどで画面を見慣れていることもあり、意外とすんなり受け入れているようです。
拘束時間が減って働きやすくなった
奈良交通では、30年前のピーク時には200人を超えていたバスガイドも、コロナ前には40人。現在は17人と、厳しい状況。そうした中で考案されたリモートバスガイドですうが、人手不足を補うほかに、思わぬメリットもあったようです。奈良交通の貸切バスグループ長、大谷 和也さん。
奈良交通・貸切バスグループ長 大谷 和也さん
通常バスガイドの勤務っていうのは準備もありますので、事前に車庫に行って6時ぐらいの出勤で。お客様が夕方、降車されても、また車庫に帰って掃除して云々やってると、やっぱ8時、9時ってなってましたけれども。
それが、本当にお客様がバスに乗っておられる時間帯だけの勤務になりますので、長くは働けないけど、あるいは旦那さんの扶養内で働きたいけど、ちょっと仕事をしたいっていう方には適してる仕事かなという風に思います。
どうしても子供さんがまだ小さい方については、昼前ぐらいの出勤で、夕方までの勤務っていう、そういう仕事を選ぶこともできますので、ものすごく門戸は開けたかなと思いますね。ものすごい勤務は短くなりました。
拘束時間が短くなって働きやすくなり、ライフスタイルが変化してもバスガイドとして復帰しやすくなったそうです。「地域の足」を維持するために、様々な試行錯誤が行われていました。
(TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」取材:田中ひとみ)