『ダーウィン事変』うめざわしゅん先生&種﨑敦美さん&神戸光歩さんインタビュー|「種﨑さんが話した演技がヒューマンジー」「満場一致でルーシーは神戸さん」
第25回文化庁メディア芸術祭マンガ部門の優秀賞受賞作でもあるうめざわしゅん先生の漫画『ダーウィン事変』がついに、2026年1月6日(火)よりTVアニメとして放送されます。
テロや差別といった、センシティブな題材にも果敢に切り込み、独自の解釈を見せている本作。TVアニメではどれだけのものが映像化されるのか、ファンの間でも話題となっています。
今回はそんな『ダーウィン事変』から、うめざわ先生、チャーリー役の種﨑敦美さん、ルーシー役の神戸光歩さんの3名にインタビューを実施。キャスト陣も気になっていたあれこれをうめざわ先生にぶつけてみました。
【写真】『ダーウィン事変』うめざわしゅん&種﨑敦美&神戸光歩インタビュー
アニメ化するんだ……!
──まずは原作を読んだお二人の感想を教えてください。
神戸光歩さん(以下、神戸):最初は自分がオーディションで受けるキャラクターをチェックする意味で読み始めたんですけど、話がすごく面白くて。オーディション用に読んでいたはずが、そんなのそっちのけで読み進めちゃいました。気付いたら最新刊まで読み終わっているくらいでした。
うめざわしゅん先生(以下、うめざわ):ありがとうございます。
神戸:ヒューマンジー(人間とチンパンジーのハイブリッド)という現実にはいない存在が描かれていますが、それを取り巻く環境はとてもリアルに描かれていて、フィクションと現実的な要素との混ざり合いが魅力的だと思いました。もし自分がこの作品の世界にいて、ヒューマンジーが目の前にいたとしたら、どういうふうに考えるだろうかとか、どう行動するだろうかとか、すごくいろいろ考えたくなるんです。自分のなかの価値観についても同時に考えさせられる作品だなと思いました。
──種﨑さんはいかがでしょうか。
種﨑敦美さん(以下、種﨑):私もオーディションを受けるにあたり読ませていただいたんですけど、受ける前からタイトルが気にはなっていて。「ダーウィンって進化論だよなあ? 事変って大変なことが起こるんだよなあ。それが一緒になってって難しいのかなあ……。表紙、人間じゃないしなあ」みたいな(笑)。
──(笑)。
種﨑:すごく興味はあったんですけど、自分の心と時間に余裕がある時にいつか読んでみようと思っていたんです。オーディションをキッカケにそんな興味があった作品を読み始めることができて、まず嬉しかったです。
確かに簡単な内容ではないかもしれないんですけど、キャラクターの考え方やストーリーが本当に興味深くて、するする読み進められました。この世に本当に存在する問題とか人が見極めなきゃいけないこととかを、この世に存在していないヒューマンジーを通して考えさせられるストーリー、すごいなあって……。すごくデリケートな内容なのかもしれませんが、作品として否定も肯定もされてないのも絶妙で…。
うめざわ:自分自身の意見とは、距離をとって描いているので……。
種﨑:だからなんですね。とにかくストーリーがおもしろくて興味深くて純粋に楽しめる。読みながら原作者の先生は、とても頭がいい方なんだろうなと思いました(笑)
──という感想ですが、先生。
うめざわ:非常に、ありがとうございますという感じですね(笑)。キャラクターを理解してから演じてくださっていて、本当に読み込んでいただいているんだなと思ったので、非常に嬉しいです。
──アニメ化が決まった時の心境と、放送を控えている今のお気持ちは?
うめざわ:アニメ化のオファーがきたと聞いた時は「本当に?」という感じでした(笑)。
──(笑)。
うめざわ:「アニメにするんだ」と。萌え要素も全然ないけどと思って(笑)。それに、結構デリケートな、センシティブなテーマやバイオレンスな描写も出てくるので、本当にできるのかな? と思っていたんです。だんだん時間が経って「本当にやるんだ」と思うようになり、今に至っては「これは、やるだろうな」と確信しておりますけど(笑)。
放送が始まるのをわくわくして楽しみにしております。
──監督たちとは、どういうアニメにしたいかお話されましたか?
うめざわ:監督や制作陣からは、なるべく原作通りにやりたいとお話をしていただいていて。
僕の方からは、アニメは漫画とは違うメディアになるので、変えざるを得ないところや、変えた方がいいところは変えてもらって構わないとお話しています。ストーリーとしても引きの場所が違ったりしたら構成も変えざるを得ないし。それからキャラクターのデザイン。漫画をそのままアニメで動かすと難しいので、アニメで動かしやすいようにとお伝えしました。
そういったところは信頼してお任せして、中心的なモチーフや作品のエッセンスみたいなものはそのままやっていただけるようにしています。そんな細かいところまで口を出したわけではありません。もうシナリオ読んで、おもしろい話だなと自分で思いました(笑)。
──(笑)。視聴者にはどのように見て欲しいですか?
うめざわ:そんなに構えないで見て欲しいのはありますね。ちょっと難しいような社会派っぽい雰囲気を纏ってしまっている感はあるんですけど、エンターテイメントとしての要素もたくさんあるんです。アクション、サスペンス、それこそキャラクターの人間関係、チャーリーとルーシーのボーイ・ミーツ・ガールというシンプルな話でもありますし、エンターテイメントとしてしっかり作っていただいていると思うので、本当に構えずに楽しんで見ていただけると。スクールライフコメディぐらいの感じで見ていただけるといいかなと思います(笑)。
一同:(笑)。
──演じているお二人はどうでしょうか?
神戸:「こう見るべき!」みたいな観点は持っていないので、それぞれ感じたものをそのまま感じていただけたらいいのかなというふうには思います。でも、やっぱりアニメーションということなので、漫画とは違って動きがあるという部分は、漫画と比較して楽しい部分なのかなと。アニメーションだとか音楽だとか、私たちの声もそうですけど、そういうところも注目してもらいたいです。
特にチャーリーは、マンガを読んでいた人それぞれで違った声色のイメージがあるキャラクターだと思いますが、アニメで種﨑さん演じるチャーリーの声を聴いたら、きっとチャーリーのことをあらためてどんどん好きになっていくはずです。自分としては、声も含めたキャラクターの魅力に注目してほしいなと思います。
種﨑:私も、右に同じ(笑)。
一同:(笑)。
種﨑:特に、こう見て欲しいというのは無くて、見てくださる方が見たいように楽しんでいただけたらいいなと思っているのと、人の女の子とヒューマンジーの男の子のボーイ・ミーツ・ガールなんて、この作品でしか見られないので!
──たしかに。
種﨑:はい。この作品ならではです。関係性は変わらないのに心の距離はどんどん変化していく唯一無二の二人の関係は楽しみにしていただけたらと思います。あと、ヒューマンジーの圧倒的身体能力と賢さ溢れるアクションシーンもこの作品でしか見られませんので! ご注目いただけたらと思います。
──本作はどのように生まれたのでしょうか?
うめざわ:元々『ダーウィン事変』以前も、基本的にセンシティブなものばっかり描いてたんです(笑)。『もう人間』という短編を描いていて、それが『ダーウィン事変』に繋がるような生命倫理だったり、保護されるべき人間の権利についてなど、そうしたセンシティブなテーマを取り扱っていたんです。それを延長させて描きたいなと考えて、いろいろ資料とか見ていた時に、おそらくネットだったと思うんですけど、ヒューマンジーという存在を知りました。現実には存在しないけど、これを使えばこれまで描いてきたものをより発展して描けるかなと思ったのがきっかけです。
──センシティブでありながら、どっちも否定しないというバランス感覚は、どのように気を付けていらっしゃるんですか?
うめざわ:そうですね……なんて言うんだろう。扱われていることに対して、僕自身の意見というのはもちろんあるんですよね。でも、それを主張するために作品を作っているわけではなくて、あくまで自分が思うことも面白い物語を作る為のひとつのツールとして使っているという距離感の取り方なんです。それによってバランスを取ろうとしているというのはあると思います。
特定の人、団体、考えをする人に対する差別や偏見に繋がらないように描写しなければいけないなというのは、もちろん気を付けています。
普通のアフレコではしないことをする
──演技に関してお伺いさせてください。先ほど、オーディションでチャーリーを受けられたとおっしゃっていましたが、公式サイトでは指名だったと書かれていました。
種﨑:私は、オーディションだと思っていたんです。
うめざわ:そうなんですね(笑)。いやあ、違うんですよ(笑)。
一同:(笑)。
うめざわ:チャーリーがオーディションで決まらなかったんです。で、監督が一本釣りしたんです。
種﨑:あとから知りました。
──決まった時のお気持ちはいかがでしたか。
種﨑:そのことは後から聞いたんですけど、もう一通りオーディションは終わったけど、決まらなかった。だから、さらにオーディションだと思って。そう聞いた、はず。なので、普段のオーディションの時の「やったー受かったー!」みたいな感じというよりは、厳かな気持ちで「承りました」という感じでした。
──(笑)。
種﨑:決まって嬉しかったですけど、オーディションテープを録った時はなぜかわからないんですけど、考えずにやれて。本当になぜか「あ、どうやればいいかわかる気がする」と。でもいざ決まって作品やキャラクターと改めて向き合うと「私はこの世に存在しないものを演じるのか…あれ、ヒューマンジーとは…」みたいな(笑)。月に1回の収録というのも聞いていたので、きっと大変な1年以上が始まるぞ……っていうのと同時に全力で役を全うしなきゃなと思いました。
──そんな長期スパンだったんですね。
種﨑:月1の収録ってあんまりないですけど。私は初めてでした。
神戸:私もです。
──先生の「これがチャーリーの声だったのかと納得できる」というお話が公式サイトに掲載されていました。具体的に納得できる説得力というのは、どういうところに感じましたか?
うめざわ:オーディションは僕も最初から参加させていただきました。チャーリーはどういう声なんだろうと監督とも話し合ったんです。僕もわからないし(笑)。誰もわからないなかでも、いろいろな注文をたくさんして。「チャーリーは感情は出ないけど無いわけではないんです」という微妙な感じの注文ですね。そういったこともあって基本的に、感情のチューニングをしていただいていたオーディションだったと思います。
その中で種﨑さんのチャーリーは、感情のアプローチ以前にすーっと最初から元々そこに存在していたような感じでした。人間社会に異物として扱われている、そういう立ち位置故にトラブルに巻き込まれているキャラクターではあるんですけど、チャーリー本人からしたら、自分が存在すること自体は非常にフラットなこと。それを粒立てて表さないといけないようなことではないんだなというのを、種﨑さんの演技でハッとさせられたのはありますね。感情のアプローチと同時に存在論アプローチというか(笑)。そうしたものを感じて、チャーリーからしたらそうだよなと思いましたね。
種﨑:オーディションの時、良い意味であんまり考えずにやれたんですが、その時に自分の中にあった感覚を今先生に言語化していただいた気がします。
うめざわ:(笑)。自分の存在自体に別に疑いはない、みたいな。
種﨑:はい。感情はあるけど、出てくる時にわかりやすくポーンじゃなくて、心の中でちょっと変わる、動くみたいなやつが、ちょっと音にのるくらいの感じで、オーディションの時はやってた……!
一同:(笑)。
種﨑:と思ったんですけど(笑)。さっきも言ったとおり、いざ13話分チャーリーを演じるんだと思った時に「しっかり考えなきゃ!」と思ってしまって。改めて「ヒューマンジーとは?」みたいなところから考え始めてしまったが故に、月に1回収録なのもあり、話数が進んでもだいぶ悩みながらではあったんです。
序盤の頃から先生や監督に「ヒューマンジーは、この世に存在しないから、種﨑さんがやったチャーリーが正解。それがヒューマンジー、チャーリーです」と言っていただいてからは、自分を信じようじゃないですけど(笑)。それを持つことと、人のお芝居を受けない時に生じる空気の違和感を恐れないこと。できあがったものを聞いていると、あまりわからないかもしれないんですけど、アフレコブース内だとわかるんですよ。「うわー嚙み合ってない!」みたいなのが(笑)。
──(笑)。
種﨑:人間を演じている時は相手役の方のお芝居を受けて返すので、この当たり前のことをやっている時には違和感は生まれないんですけど、それが当たり前に生まれることを「生まれてる! 怖い! 怖いけど、これでいいんだ……!」と思いながら演じていました。気持ちを強く持ってやり続けるという、普段、普通ではやらないことをやっていたなと思います。
── 一方で神戸さんのルーシーは、満場一致で決まったとのことでしたが、ご存知でしたか?
神戸:はい、あとでお聞きしました。
──それを知った時のお気持ちは?
神戸:嬉しかったです。アニメーションはすごくたくさんの方が関わっていて、そんななかで満場一致というのは、やっぱり特別に感じます。
──先生も意見があったと思うんですけど、実際に声を聞いてみていかがでしたか。
うめざわ:本当に満場一致。「わあ、ルーシーだ」という感じでしたね。オーディションのテープから聞かせていただいた時、物凄い数の声優さんのテープがあって、その中で良さそうな人に丸をしてくださいと、神戸さんにちゃんと丸をつけてたなと(笑)。
──(笑)。「ルーシーだ」と思える理由というか、どんなところに感じましたか。
うめざわ:シナリオを見た時に、ルーシーの台詞をテキストだけで取り出すと、結構皮肉屋だったり、わりとロジカルすぎて冷たく感じるというところがあるんです(笑)。ちょっと怖いなこの子、というのが少しあったんですね。漫画では、そういう部分はコマを小さくするとかちょっとコミカルな顔にするとか、なにかアジャストをしていたりするんです。
一方アニメで神戸さんが演じてくださるルーシーは、感情の機微をもう少しフォローしてくれる感じがあります。表面上、皮肉なことを言っているんだけど、奥には誠実さがあるというのを、演技だけではない、神戸さんの人柄とかもあるかもしれないですけど(笑)、そういうものがにじみ出て。そういうのが、みんなルーシーだと思ったんじゃないかなと思います。
神戸:ありがとうございます。漫画を読んでルーシーを知った時から、思考回路とか言動とか、すごく共感できる部分が多かったんです。「どうやろう?」「こういうふうにしよう」「どうしようかな」というのを、あれこれ考えたというよりは、自分がやりやすいようにやったものが、すごく合っていると言ってくださったので、そういう意味では悩むことはあまりなかったかなと思います。
だけど、例えばチャーリーとの会話のシーンは悩みました。チャーリーってすごく無口で、聞き上手で話を聞きだすタイプでもないので、ルーシーがバーッと喋って、チャーリーはほぼ無反応だけど、ルーシーは「うんうん、そうなんだよ」みたいな感じで勝手に解釈して進んでいくことが多いんです。
私は人と話す時に相手の反応を見てしまうし、どういうふうに伝わっているかを確認するタイプだったので、そうやって自分がバーッと喋っていくようなところは、難しい部分ではありました。
──しかし、一方的に喋っているという感じがなぜかあまりしません。
神戸:ルーシーは、チャーリーをよく見て、その視線や動きから思っていることを受け取って返答しているはずで、実際には自分勝手にしゃべっているわけではないと思うんです。
実際のアフレコでは画が完成しているわけではないので、そこは脳内でチャーリーの姿を想像しながら挑んでいました。
キャストの声がネームからも!?
──お二人から先生に伺ってみたいことはありますか?
うめざわ:好きな食べ物とか(笑)?
二人:(笑)。
神戸:作風的にも、最新まで含めてすごくいろいろな情報をインプットして形にしていると思うんですけど、先生的にどこから一番インプットすることが多いですか?
うめざわ:『ダーウィン事変』を描く前に結構な量の本を読んだんですけど、そういうのは書籍からインプットするのが多いかなと思います。テーマ的な部分を深く探るという意味では本なんですけど、それがどのように今の社会で受け取られているかというのは、わりとSNSとかで、別物として参考にしてみたりすることはありますね。
種﨑:アニメーションになったことにより、それプラス私たちの声とかお芝居を聞いたことにより、アニメになる前の部分で「あ! こうしておいた方が良かったかもな」みたいに思ったところありすか?
逆に、アニメ以降のお話で、アニメを経たからこうしたみたいな部分あったりしますか?
うめざわ:ネームを描く時に、自分の中で出るキャラクターの声がキャストの皆さん声になって再生されるんです(笑)。既にアニメがインストールされてしまったというか、脳が浸食された後みたいな(笑)。
一同:(笑)。
うめざわ:あとは確実に、描いているネームに影響は出ていると思いますね。
こうしておけば良かったというのは、チャーリーはあんまりないかもしれません。
僕も「この人ってどんな人なのかな?」って探りながら描いていることが結構あるんです。ルーシーは最初の方は「自分がナード、陰キャ」ってちょっと自嘲的に言っていましたよね。特に最初3話目ぐらいで、チャーリーの養父母の家に行って「私もヴィーガンになった方がいいと思っている?」みたいなことを尋ねるシーンがありましたが、読み返したらルーシーは論破するつもりはないと思うんだけど、「すごくズケズケ聞くなこの人」と思ったんですよね(笑)。
自分の知的好奇心だけで、結構なんでも聞いちゃう人だろうと思って描いたんですけど、アニメで演じてくださった神戸さんは、単にロジカルに詰めようとしているわけではなく、人に対する畏れのような感情も表現されていると感じました。
今言ったシーンって、アニメの序盤の中ではサスペンスフルなシーンだと思っていて。テロとかも怖いけど、そういうのを人に聞くって怖いことだと思うんですよね。ヴィーガンになった方がいいと思う?とか、なんでヴィーガンなのかって人の家の食卓で聞くって。そういう時の、人の心の踏んじゃいけないところを踏んじゃうんじゃないかっていうような感情の機微まで演じていただいていたなと思って。もうちょっとそういうふうに描くべきだったんじゃないかとか思うことはあります。
神戸:それは、なんか、私が出ちゃったかもしれないですね。
うめざわ:それが良かったので、そっちに合わせて描きます(笑)。
神戸:私も、読んだ時はルーシー自身が気をつかうタイプではないというか。
うめざわ:そうですね。
神戸:本当に自分が知りたいと思ったことに対して貪欲に突っ込んでいくという印象は、私も持っていたはずなのですが…。
うめざわ:でも、人を傷つけない気づかいや配慮もできるのがルーシーだと思うので。僕の描き方だと、ちょっとクール過ぎない? と今見ると思うみたいな(笑)。そういうことがちょっとありますね。