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亀田誠治(東京事変)母から教わった「価値観を貫く姿勢」#2

ほぼ日

東京事変のベーシストであり、椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAY、いきものがかり、JUJU、石川さゆり、ミッキー吉野、山本彩、Creepy Nuts、アイナ・ジ・エンド、yonawoなど、幅広いアーティストのプロデュースやアレンジを手がけてきた亀田誠治さん。
実は、音楽活動のおおもとには、個性的な少年時代の経験があるのだとか。
「ほぼ日刊イトイ新聞」の連載を全10回でおとどけします。
第2回は、亀田さんの価値観の基準になった、お母さんのエピソードをお伺いします。


亀田
母は大学が食物科だったんですが、「無添加」とか「自分で作ること」にすごくこだわる人だったんです。
だから我が家ではマヨネーズも母の自作で、僕も3、4歳ぐらいから、卵とお酢を混ぜたりとか、作るのを手伝わされました。
西洋式に「プディング」と呼んでいたプリンも自家製で、カラメルとか、卵とか牛乳とか砂糖で作ったものを、四角いトレーに流し込んで、焼きあげるという。
よく「親父の背中を見て育つ」とか言うけど、僕の場合は、母が料理ひとつとっても材料から作る現場を見て、しかも手伝わせてくれたおかげで、「自分で正しいと思うものを作っていく」という姿勢を吸収していった気がするんですね。


亀田
あと母が面白かったことはね。
僕がまだ4、5歳の頃に、『魔法使いサリー』という番組があったんです。魔法使いのサリーちゃんが主人公の昭和のアニメです。この番組が大好きで、家族みんなで観てたんです。
で、あるとき『魔法使いサリー』が最終回で終わってしまって、新しいアニメがはじまったんです。
でも少女漫画って、たとえばサリーちゃんに対して何々ちゃんとか、『アタックNo.1』でも相原こずえに対して早川みどりとか‥‥例がめっちゃ昭和だな(笑)、ライバルとか、敵対する何かがいるんですよ。
だから新しいアニメでも、主人公に意地悪するクラスの女の子がいるんです。
で、初回です。『サリーちゃん』を、いままで1年間見てきました。同じ時間帯にはじまるアニメです。「きっとこれは楽しいアニメだぞ」って、家族で期待して見る。僕もまだ4、5歳でワクワクしてます。
そして見はじめたら、そのクラスメートの女の子がこう言ったんです。「わたくしナントカをされたから、こんどは復讐してやるわ!」って。
そしたら母がテレビを、パチンッ!って消したんです。
「‥‥え、どういうこと?」と思って。これから1回目がはじまるのに、お母さん消しちゃった‥‥。
そしたら母が、僕に向かってこう言ったんです。「『復讐』という言葉は、これから生きていく人生に必要のない言葉です。ママはこのアニメに賛成できません」
以上。で‥‥打ち切りです。第1回の頭の5分で打ち切り。
でも、母はブレてないんです。なにか自分の哲学があって「おかしい」「嫌だ」と思ったことに関しては徹底的に貫く。そういう姿勢がありました。

亀田
でもね、「復讐」という言葉でテレビをオフにした感覚は、僕も受け継いでいるところがあって。
たとえば家族で何かの作品を見ていて「あ、ちょっとよろしくないな‥‥」と思うときには、「これ、どうだろうね?」と提案したりとか。
もちろん今はいろんな情報を入手するソースやメディアがあって、子供はどんどん吸収していきます。それはそれで構わないし、育つなかで「清濁併せ呑む」ことも、やっぱり必要だと思うんです。
だからそこまで子供に僕の考えを押し付ける感じではないんだけれど、少なくとも自分は意識的に触れないようにしたりとか。
そんなふうに、4、5歳で経験した「復讐という言葉は必要ない」という母のメッセージは、いまもやっぱり僕の中ですごく響いているんです。
‥‥とはいえ、そんな母だけど『8時だョ!全員集合』の「ちょっとだけょ~あんたも好きねぇ~」とかは大オッケーなの。そういうのはマルなわけですよ。
なので、ヤンチャな価値観はOKだけど、母としては「復讐」という、人を直接傷つけたり、攻撃したりみたいな世界を、子どもたちに見せたくなかったんだな、なんて感じますね。


亀田
まぁ、やがてはね、そういうことも実社会で経験していっちゃうんだけど。
僕自身も、大人になって「東京事変」というバンドで「復讐」という曲を演奏したりするわけで(笑)。
でもほんとに人生の真実って、こういうところにあって。自分の価値観がある。でもそれを分かち合っていく世界線みたいな部分の広がりは、やっぱり自由であるべきだと思うし。
とはいえ、あのとき「復讐」という言葉を拒絶した母の言葉や態度は、いまでも自分の頭のなかに残っていて、僕が音楽をやっているなかで、必ず何かしらの選択の基準になっているとは思うんですよね。

[亀田誠治5才]

(出典:ほぼ日刊イトイ新聞「 僕と音楽。亀田誠治|(2)価値観を貫くこと。」 )

亀田誠治(かめだ・せいじ)
1964年生まれ。
これまでに椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAY、いきものがかり、JUJU、石川さゆり、ミッキー吉野、山本彩、Creepy Nuts、アイナ・ジ・エンド、yonawoなど、数多くのアーティストのプロデュース、アレンジを手がける。
2004年に椎名林檎らと東京事変を結成。
2007年と2015年の日本レコード大賞にて編曲賞を受賞。
2021年には映画「糸」にて日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞。同年、森雪之丞氏が手がけたロック・オペラ「ザ・パンデモニアム・ロック・ショー」では舞台音楽を担当。
近年では、J-POPの魅力を解説する音楽教養番組「亀田音楽専門学校(Eテレ)」シリーズが大きな話題を呼んだ。
2019年より開催している、親子孫3世代がジャンルを超えて音楽体験ができるフリーイベント「日比谷音楽祭」の実行委員長を務めるなど、様々な形で音楽の素晴らしさを伝えている。

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