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現代スペイン料理を新たな地平へと導く天才女性シェフの「Legado」

料理王国

現代スペイン料理を新たな地平へと導く天才女性シェフの「Legado」

ロンドンに、シェフ・ニエベスあり。スペイン料理業界を牽引してきた天才肌の職人、ニエベス・バラガン・モハチョさんの最新レストランが、早くも一つ星を獲得した。そのレストラン「レガド」の驚くべきメニューとは?

メニューは流麗にシェフを語る。それは間違いない。

先日その一端を試して本当に驚いてしまったのが、昨年夏、東ロンドンにオープンした「Legado レガド」のメニューだ。これまでのスペイン料理体験を塗り替えるような新鮮な顔をした料理たちは、まさにシェフの集大成のような印象さえ受けた。

レガドを率いるのは、ロンドンにおけるスペイン料理のあり方を根幹から変えてしまったバスク出身の女性シェフ、Nieves Barragán Mohacho ニエベス・バラガン・モハチョさん(冒頭写真© Sam Cornish)。すでに英国のトップ・シェフとして確立されている彼女の最新レストラン「レガド」は、オープンから半年でミシュラン一つ星を獲得した。

驚くべきは、これまで彼女が関わってきたレストラン全てがミシュランの星を獲得していることだ。それらは決してファイン・キュイジーヌとは呼べない、リラックスした作法のバスクやスペインの料理も含まれていたが、彼女の料理は常に星に値すると評価されてきた。なぜそれほどまでに、好事家たちの心を掴むのだろうか。

鉄道高架下のスペースを利用した東ロンドンの再開発エリアに、昨年夏登場。

賑やかなスペインのバルを思わせる入り口付近。ハイテーブル席やバーカウンター席は早い時間から埋まってしまう。

少しロンドンのスペイン料理界の話をしよう。ロンドンにおけるスペイン料理は、2000年代から2010年代にかけて見事に花開いた。

もちろん伝統的なタパス料理店なら20世紀でも市内にいくらでもあったのだが、ゲーム・チェンジャーとなったのが、「Fino フィノ」「Salt Yard ソルト・ヤード」「Jose ホセ」と言ったモダン・スタイルのレストランだった。いずれのブランドもその後、グループ企業として新たな姉妹店を次々と立ち上げて大成功。現在のロンドンにおける上質スパニッシュの礎を築いた功労者たちだ。

バスクから出てきたばかりのニエベスさんは、上記「フィノ」のヘッド・シェフとして頭角を現し、同じ創業者が2008年に打ち立てた 「Barafina バラフィーナ」という新たなブランドのエグゼクティブ・シェフに就任。カウンターのみ、予約不可のカジュアルなタパス店にもかかわらず、2014年にミシュランの星を獲得し、一躍話題になった。

彼女の名を不動のものとしたのが、 2018年に自身が別のパートナーと共に創業した「Sobor サボール」だ。古典を重視したバラフィーナとは異なり、遊び心あふれるスタイルでオープンと同時にセンセーションを巻き起こし、すぐさまミシュランの星を獲得。「ロンドンにこのスペイン料理店あり」と謳われる名店として、現在も変わらず光り輝いている。

ニエベスさんがさらにスペイン料理の枠を外して自由に想像力を飛翔させているのが、今回の「レガド」。バスクでの子ども時代や、スペインの地方色豊かな伝統料理を深く掘り下げ、新たなメニューを創り上げている。

右は「ブルーベリー・プロウン」とも呼ばれるスペインのエビ、キスキージャを美味しくいただく一品。バルの奥には、広々としたレストラン・スペースがある。

手の込んだアーティチョークの料理は、レガド名物。

たっぷり食べたいカニのリゾット。左は統括シェフの一人。

まず驚くのは、メニューの多さ。数を絞りがちな高級レストランの真逆をいく手法で、スペイン各地の美食ショーケースを創り上げる算段なのだろうか。

店名が「レガド(遺産の意)」というのだからスペイン料理の遺産を継承しているのかと思いきや、実際はニエベスさん自らが「これから遺産を築き上げようとしている」ようにも思える。そんな独創的な料理なのである。

例えばだ。南スペインはカディス産の美しいエビ。頭と尻尾だけを丁寧に揚げてサクサクに仕上げ、身体は生のまま。若々しい浅緑が映えるスペイン産オリーブ・オイルと醤油やライムゼストなどで香りづけしたソースの中で泳がせる趣向。対照的な歯ごたえの妙を味わった後は、ソースがもったいなくてパンを一皿追加注文してしまった。

アーティチョーク・ハートを使った野菜料理も美味。コンフィ状態にした後で炭火焼きにしたアーティチョークはキャラメライズ効果で自然の甘さが引き立ち、炭火の香りとともに芯の滑らかさを楽しむ。アーモンド・ソース、ブラック・ガーリック・アイオリが重層的なフレーバーを添えている。

ソフトシェル・クラブのフライをトッピングしたカニの米料理は最高だった。米はうま味を十分に吸い上げ、ほのかな甘さがある。ジューシーなカニのフライと合わせると……口の中で祝福のラッパが鳴り響くような感覚だろうか。

アーモンドを散らしたオックステールの煮込み。

ホワイト・チョコレート・ムースとオリーブ・オイルを添えたサフランのアイスクリーム。ニエベスさんは、フレーバーにおいて決して失敗しない。

南スペインの素朴な郷土料理でもあるオックステールの煮込みは、旨味を閉じ込めホロホロに煮込まれた肉の上に香ばしいロースト・アーモンドを散らし、エレガントな上質タパスへと昇華している。

この他にも90日かけてゆっくり育てたアルチザン・チキンの柔らかステーキや、ディルの香りが忘れられないアンチョビ・ドレッシング&マンチェゴ・チーズのチコリ・サラダなど、フレーバーも歯ごたえも完璧なメニューに心を打たれた。一方で「あれを注文すべきだったのでは?」という密かな後悔もある。

筆者の次回訪問リストには、エイヒレを入れた珍しいトルティーヤ、エビとジロール茸を詰めたイカ、山羊チーズの天ぷら、ハモン出汁で煮込んだサバ団子、スイスチャードにパン粉をまぶして揚げ、スペイン産セシーナとスモーク・チーズを挟んだ「レガド・サンドイッチ」、そしてセゴビア産仔豚の丸焼きを含むイベリコ豚料理の数々、それから……いったい何度通えば、「これで良し!」という心持ちになるのだろう?

残念ながらこの日ニエベスさんは不在だったが、チームのトレーニングが完璧なせいか、感動するような星付きスパニッシュを堪能できた。シェフの教育やルールの周知は、ことロンドンのような多文化都市では難しくなりがちだが、その課題を乗り越えているのも素晴らしい。

レガドでは、太陽も海も含め最上のスペインが待っている。ニエベスさんの体験してきた全てが、この豊富なメニューに閉じ込められているのだ。「レガド(遺産)」は、そこから生まれていく。

Legado
https://www.legadorestaurants.com

text・photo:江國まゆ Mayu Ekuni

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