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北条義時が支配した地。源頼朝の偉業を支えた右腕の足跡をたどる~伊豆の国市韮山~

さんたつ

日本の政治システムを大きく変えた源頼朝の物語は、伊豆の地から始まった。ということで、前回に引き続き頼朝が流された地であり、北条氏の根拠地だった伊豆の国市内を散策してみよう。今回は頼朝の偉業を助けた右腕・北条義時の足跡が多く残されているエリアに行ってみた。 山が多い伊豆半島の中でも、伊豆の国市は中央部に広大な平地を有し、西側には狩野川が流れている。伊豆国の一ノ宮である三嶋大社までは、比較的平坦な道が続く。 現在、市域となっている地の北西部あたりが、かつて北条氏が支配していた地域であった。そして伊豆箱根鉄道韮山駅の西側にある守山という小さな山の麓が、北条氏の館が置かれていた場所。そこから狩野川を挟んだ西側に二代執権北条義時関連の史跡が点在しているのだ。

義時が支配した地、北条氏館跡から狩野川西岸へ

起点は前回と同様に韮山駅。駅前の道を北に進むとすぐにT字路となる。ここを左に向かう。すると国道136号線とぶつかるのだが、その交差点の脇に建つ「八坂神社」に、北条義時の逸話が伝わっている。

それは創建にかかわる一説として、狩野川の西に聳(そび)える大男山から、義時が八幡神をここに遷座(せんざ)したという話だ。本格的な散策に向かう前に、まずは参詣を済ませよう。

国道136号線沿いにある八坂神社。

鳥居の前から国道を横断。さらに西へ進むと、道は狩野川の畔に沿って北上。前方に歩行者専用橋もある松原橋が見えてくるので、ここで狩野川を渡って義時のホームグラウンド、狩野川西岸に向かおう。

ちなみに太平洋側の一級河川のうち、南から北に向かって川の大半が流れているのは、この狩野川だけ。天城山を水源とし、田方平野を流れ駿河湾に注ぐ。川を下りながら富士山を正面に見ることができる、唯一の河川なのだ。そんなレアな風景も、しっかりと味わい尽くそう。

狩野川の畔には桜の木も多い。富士山に向かって水が流れている。

橋を渡ってさらに進むと江間公園という、比較的大きな公園が見えた。普段は見落としてしまいそうだが、公園の東北角に「北条義時館跡」の碑がある。今は幟旗(のぼりばた)が立っているので、うっかり者でも大丈夫だろう。

明治時代に加筆された伊豆の地誌『増訂豆州志稿』によれば、義時の館跡には尋常小学校の敷地となった。その後、小学校もなくなり公園として整備されたのだ。

かつては小学校だった江間公園。
公園の一画に北条義時館跡の碑がある。

派手さはないが質実剛健。鎌倉時代の武士の体温を感じる

公園の近くには、小さな「豆塚神社」という社もある。ここは平安時代に記された『延喜式』の神名帳にある「石徳高(いわとこたけ)神社」に該当する、とても由緒ある神社なのだ。

さらに「もとは大男山の山頂にあったが、何度か遷祀された後、江間小四郎(北条義時)が現在地に再建した」という記述が、元文5年(1740)の梁銘(はりめい)として現存。北条家とも縁が深かったことがわかる。

古い歴史を持つ豆塚神社。義時との縁も伝わる。

さて次は「北條寺」。ここは義時が建立した寺で、父の時政や姉の政子も信仰した、北条家とゆかりが深い寺だ。

まずは義時が慶派の仏師(運慶という説もある)に依頼し、木造の「阿弥陀如来坐像」を作らせ奉納している。また政子も鎌倉の極楽寺にあった「観世音菩薩像」と、中国に製作を依頼した「牡丹鳥獣文繍帳三帳(ぼたんちょうじゅうもんしゅうちょう さんちょう)」を納めている。

さらに境内の南側は、山へと続く斜面になっていて、その小高い場所に義時夫妻の墓がある。鎌倉幕府で事実上の最高権力者だった人物の物とは思えない、質素な造りの墓石に驚いてしまった。

北條寺の本堂。
義時夫妻の墓。

北條寺からさらに南に向かうと、白寿医療学院へ向かう分かれ道が現れる。そこを学院方面に少し登ると、道の脇に立て札があり、そこから斜面を登る階段が目に入った。立て札には「上の馬場」とあり、階段の上には義時が調馬を行った尾根筋がある。

この尾根は平坦なうえ東西に細長いため、馬を走らせるのには好都合だったようだ。さらにここは正面に北条館がある守山が見え、狩野川から田方平野も見渡せる。そこから想像すると、戦略的な意義も大きい場所だったと考えられる。

義時が馬の調練を行った上の馬場。今は一画が墓地になっていて、頂上が平地なのがわかる。

史跡とともに牧歌的な農村の風景を愛でる

ここから先は、足に余力がある人向けのポイント。

とくにきつい山道があるわけではないが、目標となるものが少なく、畑の中の一本道をひたすら歩くからだ。決心がついたならば、まずは先ほどの豆塚神社へ。

交差点はそのまま北方向へ直進。右手に老人ホームが見える信号付き交差点を左折する。そこからは畑の中をまっすぐに延びる道をひたすら歩く。800mほど歩いた右手に「江間いちご狩りセンター」が見えてくるが、そこが最初の目的地。いちごの季節ならば、ついでにいちご狩りを楽しむのもいいかも。

センターがある辺りはその昔、2匹の大蛇が棲む池があったと伝わっている。そのうちの1匹が、義時の子・安千代を襲い呑み込んでしまう。勉学のため通っていた千葉寺からの帰り道だった。知らせを受けた義時は安千代を助けようと矢を射るが、目を射ただけで助けられなかった。2匹は日守山方面に向かい、男坂・女坂を越えて逃げて行った。そんな奇怪な話が残されている地なのである。ちなみに先述の北條寺の坐像は、安千代が落命した際に義時が奉納したものと言われている。

中央の山が日守山。その右が女坂、左が男坂。

センターからさらに西へ向かうと、すぐに伊豆中央道のガードをくぐる。そこからしばらく進むと、道は山にぶつかりT字路となる。それを左方向へさらに200mほど進むと、住宅と住宅の間に「大師窟入口」という石碑があり、そこから狭い道が山へと続く。

そこを入り少し登ると、現れるのは7〜8世紀に造られた「北江間横穴群大師山」と呼ばれる横穴式の古墳。穴の中には石棺らしき物も残されていて、少し気味が悪いけれども、ここには義時が経を納めたという言い伝えがあるのだ。

住宅の間にある北江間横穴群大師山入り口。ここから山道を5分ほど登ると横穴墓が現れる。

大師窟の先には千代田団地入り口のバス停があり、いかにも地方の小さな集落といった光景が広がる。その一画には元久元年(1204)、安千代の死を嘆いた義時が若宮八幡神として祀ったのが始まりと伝えられている珍場神社がある。

じつは一般の歴史書には、安千代という子の存在は記されていない。そのため実在していたかどうか、定かではないのだ。だが江間各地に伝わる義時と安千代の話は、不思議と共通している。それだけに、類似する事件が起こったと信じるのも、ロマンがあっていいかも知れない。

千代田団地入り口付近の集落。素朴な風景が魅力。
安千代のために義時が若宮八幡神として祀ったのが始まりの珍場神社。

頼朝と文覚上人の逸話が残された地へ

源頼朝が伊豆に配流されていた時、ひとりの怪僧も同地に流されていた。もとは北面の武士であった文覚上人である。荒廃していた神護寺の再興を志し、後白河法皇に奉加を強要したため、承安3年(1173)に伊豆に流された。そこで頼朝と出会う。

文覚は一度帰京するが治承3年(1179)、平清盛により後白河法皇が幽閉されたことに憤り、伊豆の頼朝のもとに向かい平氏打倒を勧めた。さらに翌年には法皇の院宣を仲介し、頼朝の挙兵を促している。

文覚上人が隠れ住んだと伝わる地。

少し足を延ばすことになるが、伊豆の国市奈古谷の山中に、文覚が隠れ住んだ流寓(りゅうぐう)の地跡と、頼朝の命で文覚が建立した毘沙門堂が残されている。韮山駅から徒歩で1時間ほどかかるが、その佇まいは一見の価値は充分にある。

頼朝が夢のお告げを受け、文覚に建立を依頼した毘沙門堂。

そしてもう一か所、こちらは伊豆半島西海岸の町、松崎にある円通寺。かつて文覚は松崎にあった相生堂で頼朝と密会し、平氏討伐の決意を固めさせた。その後、堂は荒廃したため、納められていた頼朝と文覚の木造は明治20年(1887)に、円通寺に移されている。

なまこ壁の美しい町並みとともに、散策してみるのもいいだろう。

頼朝、文覚の木造が納められている松崎の円通寺。

取材・文・撮影=野田伊豆守

次回は鎌倉幕府が置かれた場所の変遷を辿りつつ、鎌倉の街中を散策します。

野田伊豆守(のだいずのかみ)
フリーライター・編集者
1960年生まれ、東京都出身。日本大学藝術学部卒業後、出版社勤務を経てフリーライター・フリー編集者に。歴史、旅行、鉄道、アウトドアなどの分野を中心に雑誌、書籍で活躍。主な著書に、『語り継ぎたい戦争の真実 太平洋戦争のすべて』(サンエイ新書)、『旧街道を歩く』(交通新聞社)、『各駅停車の旅』(交通タイムス社)など多数。

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