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JUJU、ありったけの愛と名曲を詰め込んだ3時間超の『スナックJUJU 東京ドーム店』を振り返る

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JUJU

ソニー銀行 presents -ジュジュ苑スーパーライブ- スナックJUJU 東京ドーム店
~ママがJUJU 20周年を盛大にお祝い!! 一夜限りの大人の歌謡祭~
2024.2.17 東京ドーム

大人のムードと懐かしい昭和歌謡の名曲を求めるほろ酔い気分の観客で、広い“お店”は最上階スタンドの隅に至るまでぎっしり満員だ。2月17日、『-ジュジュ苑スーパーライブ-スナックJUJU 東京ドーム店』。大人気シリーズの最新アルバム「スナックJUJU ~夜のRequest~『帰ってきたママ』」と、JUJUのデビュー20周年を兼ねて実現した一夜限りの特別営業。夕闇迫る午後5時、馴染みのネオンに灯がともる。スナックのボーイ、声優の神尾晋一郎がママの到着を告げる。史上最大のスナック、いざ開店。

オープニングを飾るのは「二人でお酒を」。広いステージによく映える、まばゆい白と銀のドレス、すらりと伸びたおみ足。弦楽器、管楽器、女性コーラスを加えたゴージャスなバンドには、懐かしい昭和の歌謡番組の匂いがする。もちろんスクリーンには歌詞が出る。あぐらをかいて一緒に歌いたい。「メモリーグラス」では、入場時に観客全員に配られた“LEDリストバンド”が大活躍。自動制御で発光する、七色の光の波が壮観だ。J-POPだと思っていた「じれったい」は、この流れでこのサウンドで歌われると昭和歌謡にしか聴こえないのが面白い。叙情メロディの遺伝子は続く。

「本日はお忙しい中、こんなにもたくさんの方に水道橋のお店にお運びくださいまして、まことにありがとうございます。私、当店のママでございます」

JUJUではなく、ママ。しかし細かいことは誰も気にしない。「異国気分で旅するコーナー」では、スモークとレーザービームに彩られた「桃色吐息」を、エキゾチックなムードたっぷりの映像とともに「異邦人」を。原曲に忠実なアレンジで、誰でもすぐに歌えるのがスナックJUJUのいいところ。弦楽器が緊迫感あふれる音色を奏で、ワウギターが盛り上げる。頼れるバンドメンバー、ママいわく“流し”の気合も満点だ。

通常営業のスナックJUJUでは、観客をステージに呼び込みママとデュエット、というお楽しみ企画が人気だが、まさか東京ドームでやるとは思わなかった。この場で厳正な抽選とじゃんけんを勝ち抜き、選ばれた運命の女(ひと)、あとでどんな歌が聴けるか楽しみだ。盛りだくさんのメニューはどんどん進む。

可愛い子猫ちゃんダンサーズに目移りするダンスタイム、「CHA-CHA-CHA」でぐっと熱気が高まったところへ登場した、この日最初のスーパーゲストは鈴木雅之だ。粋なピンクのシャツ、黒のジャケットに蝶ネクタイ、ママを優しくエスコートして「め組のひと」から「違う、そうじゃない」、そして再び「め組のひと」へ。ノリノリで煽るバンド、ソウル溢れる歌声、“ラヴソングの王様”と“宇宙で一番ピンヒールが似合う人”(by鈴木雅之)とのデュエット、これは盛り上がらずにいられない。手を取り合って歌うシーンが印象的な「ロンリー・チャップリン」まで、華やかで贅沢な時間は一瞬だ。

出会いがあれば別れがある。ムーディーな弦の響きが切ない「私はピアノ」も、ステージに置かれたソファに腰かけてしっとり歌う「恋におちて」も、ママが歌うと酸いも甘いも噛み分けた、包容力満点の大人のラヴソングになる。字幕を見ながら、令和の今にこの歌詞でヒットを出せるだろうかとふと思う。良き時代、良き音楽。

素人の方がいきなり東京ドームのステージで歌うのは……と、親心めいた心配はまったくの杞憂だった。先ほど選ばれたばかり、chiakiさんがママのサポートを得て堂々と歌い切った「ラヴ・イズ・オーヴァー」は素晴らしかった。スナックのお客さんが誰もがこんなに歌えるのなら、昭和の歌謡曲は決して古びないだろう。さらにもう一つの恒例企画「今月のユーミン」では、荘厳なオルガンと白く輝くスモークに埋もれて「翳りゆく部屋」を。歌い込んだ年季の違いがにじみ出る、神々しさすら感じる圧巻の歌唱。

この日二人目のスーパーゲスト、NOKKOがステージに飛び出して「フレンズ」を歌い出した瞬間、空気ががらりと変わった。80年代、ロックバンドが台頭した時代、新しく若いカルチャーの象徴。変わらないエナジーとパワーで「RASPBERRY DREAM」を歌い、珠玉のバラード「Maybe Tomorrow」を歌う。ママが「REBECCAの曲の強い女の子に憧れました」と告白する。80年代は平和だったねと微笑み合う。LEDライトが広いドームを一面の星の海に変える。

ドームやスタジアムではお馴染みの演出だが、まさかJUJUが、いやママがトロッコに乗って場内一周するとは思わなかった。移動の時間も無駄にせず、お相手の神尾晋一郎と共に楽しいトークを。アリーナ後方の特設ステージに到着すると、チェロやバイオリンの特別編成によるアコースティックセットで2曲を。この季節に聴く「なごり雪」の歌詞はしみじみと、「いとしのエリー」のメロディは美しく切なく心に沁みる。ママの歌声は包み込むように柔らかく優しく、アコースティックセットに良く似合う。

トロッコの上で「伊勢佐木町ブルース」から「どうにもとまらない」へと、観客にマイクを向けてぐいぐい盛り上げるママ。メインステージに到着してそのまま歌い続ける、と思いきや、暗転したステージに一条の光が差し、この日3人目のスーパーゲスト、小田和正がおもむろに歌い出す。あまりに劇的な演出と、漂うオーラにドームがどよめく。曲は「言葉にできない」。国宝級のハイトーンは健在だ。「みなさん参加してくれたらうれしいです。頑張ります」と、謙虚で飄々としたトークも健在だ。「Yes-No」から「ラブ・ストーリーは突然に」へ、小田の先導でステージを歩きながら歌い、歌わせ、心が一つになる。お馴染みの「どーも!」も何度も聞けた。贅沢なシーンが多すぎて、お腹いっぱいになりそうだが、いや、クライマックスはここからだ。

火花が散る、炎が燃える、レーザーが飛ぶ、ライトが回る。「あゝ無情」からスタートする「スナックメドレー」は、80年代アイドル歌謡中心のスーパーヒット、アップテンポの連発でぐいぐい飛ばす。「嵐の素顔」から「淋しい熱帯魚」へ、「DESIRE-情熱-」から「ミ・アモーレ」へ。威風堂々の歌いっぷりだが、ところどころで感じるリスペクト溢れる物まねっぽさも微笑ましい。ママが本当に大好きで聴いていた曲である証拠だろう。思い出に刻まれた曲は決して色あせない。ママが歌えば、歌は蘇る。

「宴もたけなわではございますが、そろそろ閉店の時間でございます」

ラストを飾る「喝采」のリズムに合わせ、ドームいっぱいのLEDライトがゆっくり揺れる。銀の紙吹雪が大量に舞い踊る。ステージで歌い続ける人生と覚悟を余すところなく描いた歌詞がママの、いやJUJUの心情にぴたりと重なる。あたたかく力強いバンドサウンドがそれを支える。この日のスナックJUJUを誰よりも楽しんだのはJUJU、いやママだろう。静かにお辞儀をしてステージを去る姿に拍手が鳴りやまない。

ママの代わりにあの人が来てくれたようです――。神尾のナレーションで始まったアンコールタイム、主役はママではなくJUJU。しかし細かいことは誰も気にしない。初披露となった新曲「一線」(テレビ朝日系木曜ドラマ『グレイトギフト』主題歌)の、ロックで激しい曲調に応えて手拍子が湧く。さらに「JUJUメドレー2024」と題して、「素直になれたら」「明日がくるなら」「この夜を止めてよ」など7曲をミックスした豪華メドレーで盛り上げる。どれだけ歌っても疲れ知らず、圧巻のパフォーマンス。最後の「やさしさで溢れるように」は、ドーム全体を巻き込んだ大合唱になった。見せるだけ、聴かせるだけのライブではなく、一緒に歌うのがスナックJUJU。閉店の1曲にふさわしい、誰もが笑顔で心あたたまるグランドフィナーレ。

「本当に今日はありがとうございました。わたくしJUJUは、ママに負けないようにこれからも頑張ります。みなさんに連れて来ていただいた20年、そしてこれからの20年、いろんなことをみなさんと楽しみながら進んで行こうと思います」

メンバー一人ひとりを誇らしげに紹介し、最後の挨拶を済ませ、「ありがとうございました!」と生声で叫ぶ。ネオンサインの灯が消える。しかしあたたかい思い出は消えることはない。この日の東京ドームはJUJUの到達点、通過点、そして出発点。3時間を優に超えるメニューの中に、ありったけの愛と名曲を詰め込んだ素晴らしい夜だった。

取材・文=宮本英夫
撮影=Michiko Kiseki(KISEKI inck)、Chie Kato(CAPS)、Kayoko Yamamoto

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