不登校の特別支援学校中3息子。「学校をあきらめたくない」の言葉に先生が薦めたのは…通信制高校!?
監修:初川久美子
臨床心理士・公認心理師/東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
やっぱり学校に行きたい!先生の言葉で開けた新たな道
夏休みが終わり、学校に行けない中学3年生の息子は、進路について悩んでいました。一時は就労支援を利用しての就職を目指していましたが、就労支援の利用対象者は18歳以上のため卒業後すぐに就職という道は実質不可能でした。かといって、特別支援学校高等部へとそのまま進むことにも抵抗がありました。というのも息子はスクールバスで特別支援学校に通っていたのですが、次第に車酔いに耐えられなくなり乗れなくなってしまったのです。そして、ほかの通学手段を選択するのも難しい状況でした。
特別支援学校中等部に在籍している生徒のほとんどは特別支援学校高等部への進学を選択します。とりあえず高等部に進学して、あとのことはそれから考えようか……という時でした。家庭訪問に来てくださっていた担任の先生がこう言ったのです。
「無理してスクールバスに乗ることないよ!通信制高校はどう!?」
目からウロコでした。精神障害者保健福祉手帳(2級)を持ち、強度行動障害のある息子には、特別支援学校以外の選択肢が考えられなかったのです。
「通信制高校もいろいろあるんだよ!オンラインでも大丈夫なところもあるし、パソコンのコースなんかもあるし。息子くんに合いそうな学校もあるんじゃないかな?」
先生の言葉を聞いて、息子は言いました。
「……やっぱり僕、学校に行きたいねん。就職と思ったけど、それは学校に行かれへんからで、本当は学校をあきらめたくないねん」
先生が帰られたあと、私が真っ先にしたのは通信制高校の資料請求でした。
通信制高校とサポート校の違いって?
通信制高校の資料請求には、一括検索サイトを利用しました。一校一校調べるよりも、条件を指定して資料を送っていただく方が時間短縮に繋がると考えたのです。資料請求ボタンを押してしばらくすると、数校から電話がかかってきました。その中の一校にすぐ見学に行くことに決めました。それは通信制高校のサポート校でした。
通信制高校のサポート校は都会のビルの中にありました。中に入ると、個別に区切られた学習ブースでそれぞれ勉強をしていて、さながら塾のようでした。人がたくさんいる場所が苦手な息子はここにいるのは無理そうだな……と感じましたが、個別相談という形で説明をお聞きしました。まず最初にお伺いしたのは、「通信制高校」と「サポート校」の違いでした。
通信制高校は、自宅学習がメインで、単位取得(74単位+ホームルーム30単位)で高校卒業資格が得られます。空いた時間で好きなことをしたり、登校日を自分で選べるなどのメリットがあります。単位制高校との大きな違いは、必修科目がある、高卒資格を取得するには単位認定試験とスクーリングに加え、レポート提出が必須になります。
サポート校は、通信制の高校生の卒業をサポートする「塾」のような存在です。連携している通信制高校に籍があり、連携先の通信制高校卒業で高校卒業資格を取得できます。サポート校のみでは、高卒資格は取得できません。
https://h-navi.jp/column/article/35028228
通信制高校は完全にオンラインという訳ではなく、学校によって登校日数が異なります。サポート校では自宅に出向いて指導をしてくださる手厚いプランもあるということで心が動きましたが、問題は学費でした。通信制高校に進学する場合、学費は通信制高校のみで済みますが、サポート校を選ぶと通信制高校とサポート校の両方に学費が発生するのです。学費の助成もあるとはいえ、母子家庭のわが家ではその費用を捻出することは難しく、サポート校への進学はあきらめることになりました。この点が早い段階で分かっただけでも、最初にサポート校での説明を受けてよかったと思いました。
通信制高校は選択肢がたくさん!
通信制高校にターゲットを絞ったところで、次はどの学校に見学に行くかを決めなければなりません。息子と相談し、まずは私が息子が行けそうな学校をいくつか絞ることになりました。通信制高校一括検索サイトから届いた学校のパンフレットを1つずつクリアファイルに入れ、「土曜授業」「近い」「学び直し」などその学校の特色を付箋に書き出して印をつけました。そしてファイルボックスを3つ用意し、「○(見学)」「△(保留)」「×(却下)」の印をつけ仕分けしました。息子の場合、遠方でのスクーリングがある学校や都会すぎる学校は避ける必要があったため、仕分けしていくうちに息子が通えそうな学校の雰囲気も見えてきました。その中から数校に見学を申し込みました。
A通信制高校はほぼ全日制に近い授業内容で、B通信制高校はまるで専門学校のような校風、C通信制高校は登校日数を選べるプランがあるなど、同じ通信制高校でも、学校によって内容がかなり違いました。ある学校では相談に乗ってくださった管理職の先生が、「息子くんの様子を聞くとうちの学校では難しいかもしれませんが、こちらの学校なら合ってるかもしれないので、行ってみたらどうですか?」とほかの学校を紹介してくださいました。どの学校の説明を聞いていても共通していたのが、「ぜひうちの学校に!」というよりも「いい学校が見つかりますように!」という姿勢でした。通信制高校を選択する子どもたちは、不登校だけではなくそれぞれに事情のある子がどうしても多いので、そういったことに相談段階で寄り添っていただけてるように感じました。
さまざまな通信制高校と広がる可能性
特別支援学校の先生とも積極的に情報交換を行いました。特にありがたかったのが、通信制高校合同説明会のお知らせでした。大きな会場で多くの通信制高校が集まって、ブースでの個別相談を受け付けてくれます。希望していた学校や、なかなか情報の集まらない学校について直接お話を聞くことができました。発達障害などの特性がある生徒に配慮して特別支援の資格を持つ先生がいる学校や、起立性調節障害がある生徒のために午後から授業を行う学校、カウンセラーなどのメンタルサポートが充実した学校など、通信制高校もさまざまなニーズに柔軟に対応していて、「息子も高校に進学することができるかもしれない」と希望を持つことができました。
各学校での個別相談、合同説明会にと奔走した数ヶ月間でしたが、年内には志望校を2つに絞ることができました。そしてその2校に、最後は息子と一緒に個別相談に行くことになりました。
「学校をあきらめたくない」、息子の願いを叶えるために
こうして、息子の進路は一気に通信制高校を目指すことになりました。「学校をあきらめたくないねん」と言った息子の言葉を聞いて、なんとしてでも息子が行ける学校を見つけてあげたいと思い、駆け抜けた数ヶ月間でした。
不登校の子どもは、けっして学校に行きたくない訳ではないのです。中には行きたくないという子もいますが、学校に行きたくても、教室や通学方法に不安があったり、自身の特性や体調、先生や友人との関係、授業や行事などの心配、集団生活での憂慮や同年代とかけ離れた生活を送っていることの焦りなど、言葉に表せない恐怖と日々戦っています。
通信制高校は、そのような不安の中にいる子どもたちを支えてくれる、新たな選択肢だと思います。
執筆/花森はな
(監修:初川先生より)
特別支援学校中等部にうまく適応できず、その後の進路で悩まれる中で通信制高校について知り、検討したエピソードをありがとうございます。不登校生徒向けの高校は地域によってもさまざまですが(不登校生徒に合う公立高校のあり方はぜひ都道府県ごとの状況をお調べください)、昨今、通信制高校やサポート校について注目が集まっている印象もありますね。今回、花森さんが調べながら気づかれたように、通信制高校はさまざま特色を持っています。また、サポート校を利用する場合には学費が約2倍(通信制高校とサポート校との2つ分かかる)ことなど、大事なご指摘がありました。個人的には、スクーリングの日数に関してや、学習に関する質問をどのように取り扱うのかといったところもぜひ確認してほしいと感じるところです。今後高校進学をされるお子さんに関しては、見学・体験を通して、本人が気に入る高校が見つかるといいなと思います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。ていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。