Yahoo! JAPAN

『電脳コイル』の才人・磯光雄が『地球外少年少女』で本領発揮! 歴史に残るジュブナイル・アニメはいかにして生まれたか

映画評論・情報サイト BANGER!!!

『電脳コイル』の才人・磯光雄が『地球外少年少女』で本領発揮! 歴史に残るジュブナイル・アニメはいかにして生まれたか

一瞬たりとも飽きさせない宇宙体験の連続

15年間待ち続けた人間は多いと思う。それだけ『電脳コイル』(2007年)が与えたインパクトは大きかった。同時に、突然現れた(ように見えた)監督の磯光雄に対しても一躍注目が集まった。

電脳仮想空間が現実と重なり合うという最先端のテーマをNHK教育テレビ放映するという挑戦的な試みとなった『電脳コイル』は、放映開始直後から評価がうなぎ登りとなり、文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞、第7回東京アニメアワードTVアニメ部門優秀賞、第39回星雲賞メディア部門、第29回日本SF大賞などを獲得。監督デビュー作としては異例の高評価を受けたこともあって、次回作を期待され続けていた磯光雄の新作と出会える日が訪れたのである。

『地球外少年少女』は、結果から言ってしまえば期待を少しも裏切らない、いや、それ以上と言える作品となっていた。2022年1月28日/2月11日に公開される劇場版は前編91分、後編99分(1月28日から配信のNetflixは6話編成)、合計190分という長丁場であるが、一瞬たりとも飽きさせない宇宙体験の連続であった。『2001年宇宙の旅』(1968年)や『インタステラー』(2014年)といった壮大にして先端的宇宙叙事詩とは異なり、日常生活に宇宙が入り込んでいる世界という設定ではあるが、内容的にはそれらの作品哲学に匹敵するレベルといっても差し支えない。恐るべし磯光雄。

『地球外少年少女』©MITSUO ISO/avex pictures・地球外少年少女製作委員会

これからの人類の一大テーマ「宇宙」にときめいて欲しい

今回、磯光雄が選んだテーマは「宇宙」である。アニメのテーマとしては王道中の王道、直球ど真ん中であるが、ただし、それは“身近な宇宙”であった。舞台となるのは、ネットやテレビのニュースで日常的に宇宙の情報や話題が流れている2045年。今までのように宇宙が先端なアドベンチャーとしてではなく、日常の延長として描かれているのは監督が意図したことである。確かに、2022年の現在でも民間人が宇宙に旅立つ時代となっており、あと20年も経てば宇宙が日々の生活まで入り込むことは十分考えられる。

『地球外少年少女』©MITSUO ISO/avex pictures・地球外少年少女製作委員会

ところが最近の日本は、宇宙を含め未来的な夢を見る機運を失いかけている。地球温暖化や新型コロナウイルスといった解決策が見えない情況を目の前にして、オリンピックの開会式・閉会式への批判を見ても分かる通り、日本人は萎縮傾向にある。長らく低迷が続く経済の影響もあってか、未来を描くという行為を諦めがちな若者に対し、磯光雄はこれから人類の一大テーマとなる宇宙にときめいて欲しいという思いでこの作品をつくった。

『地球外少年少女』©MITSUO ISO/avex pictures・地球外少年少女製作委員会

日本ではアトムやガンダムを見た子どもたちがロボット研究者や技術者になり、ロボット大国の礎を築いたという事実があるが、アメリカにおけるそれは『スタートレック』(1966年~)であった。このスペースアドベンチャーに感銘を受けた子どもたちはNASAを目指し、実際に宇宙に旅立った。そのことを想えば『地球外少年少女』を見た少年少女たちの中から、宇宙技術の研究者や惑星への移住者、そうしたサービスに従事したいという志望者が現れるのではないか。

『地球外少年少女』©MITSUO ISO/avex pictures・地球外少年少女製作委員会

多大な尊敬を集めるクリエーターズ・クリエーター磯光雄

では、そんな磯光雄とはどんな人間なのであろうか。衝撃の『電脳コイル』で監督デビューする以前の彼は、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988年)、『紅の豚』(1992年)、『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年)、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年)、『パーフェクトブルー』(1998年)、『スチームボーイ』(2004年)など、富野由悠季、宮崎駿、庵野秀明、今敏、大友克洋といった作家性の強い監督の下で原画のみならず、作画監督、脚本、メカニック・銃器デザイン、デジタルワークス、設定開発、ビジュアルエフェクトといった職務をこなしていた。

プロデューサーや監督が作品クオリティの要を担うアニメーターに密かに期待しているものは、要望以上のものを作り上げる、世にいう“神作画”のスーパーアニメーターであるが、磯光雄はさらにそれを上回るクリエイティビティがあったのである。それを見抜き、監督のチャンスを与えたのがマッドハウスの丸山正雄(現・MAPPA代表取締役会長)だ。社内外の才能ある監督にチャンスを与えることに全力をかける丸山がプロデュースしたのが、今敏『パーフェクトブルー』、片渕須直『BLACK LAGOON ブラックラグーン』(2006年)、湯浅政明『ケモノヅメ』(2006年)、水島精二『大江戸ロケット』(2007年)、細田守『時をかける少女』(2006年)などである。そして、その目は必然的に磯光雄に向けられ、生まれたのが『電脳コイル』だった。名伯楽・丸山の見込んだとおり、磯光雄は既述の監督同様ブレイクし、次回作を嘱望される監督となった。

『電脳コイル』に参加した作画スタッフの顔ぶれを見ると、磯光雄がいかにスタッフに愛されているかが分かる。宮崎駿、大友克洋、庵野秀明、細田守といった監督の作品の中枢を担うアニメ業界のレジェンド・井上俊之や、「師匠」と呼ばれる本田雄、平松禎史、近藤勝也、安藤雅司(2022年2月4日公開『鹿の王 ユナと約束の旅』監督)、黄瀬和哉、山下高明などの中核人材が磯光雄のもとに集った。磯光雄はクリエーターに尊敬されるクリエーターズ・クリエーターなのである。

『地球外少年少女』©MITSUO ISO/avex pictures・地球外少年少女製作委員会

今回はデジタル作画をメインとしたため、井上俊之や吉田健一といった巨匠以外に才能に溢れた若手を起用。1990年ロシア生まれのイリヤ・クブシノブや、1991年オーストリア生まれのBahi JD(バヒ JD)といったインターナショナルな顔ぶれも見える(第一話目のゲストデザインに注目!)。最新の情報満載、刺激に満ちた映像は必見である。

『地球外少年少女』©MITSUO ISO/avex pictures・地球外少年少女製作委員会

日本のアニメのすごさは、作家性と商業性を持ち合わせた宮崎駿、庵野秀明、細田守、新海誠といった劇場アニメ監督の存在が際立っていることである。実際、日本以外の国々で名前を言えるアニメ監督がピクサーを去ったジョン・ラセター以外に果たして何人いるだろうか。もちろん、フランスのシルヴァン・ショメ(『イリュージョニスト』[2010年])や毎回アカデミー賞アニメーション作品賞の候補となっている<Cartoon Saloon>のトム・ムーア(『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』[2014年]『ウルフウォーカー』[2020年]ほか)など抜群の作家性を持つ監督はいるが、商業性までは持ち合わせていない。やはり日本の劇場アニメ監督のような存在は日本だけなのである。

『地球外少年少女』©MITSUO ISO/avex pictures・地球外少年少女製作委員会

そんな中に忽然と現れた磯光雄。現在54歳の磯光雄は、宮崎監督の25歳年下、庵野秀明監督の6歳下、細田守監督の1歳年上、新海誠監督の7歳年上となるが、これから金字塔となる作品を、あといくつ残してくれるだろうか。

『地球外少年少女』©MITSUO ISO/avex pictures・地球外少年少女製作委員会

文:増田弘道

『地球外少年少女』は新宿ピカデリーほかにて2022年1月28日(金)より前編、2月11日(金)より後編を各2週限定劇場上映、劇場公開限定版Blu-ray&DVD同時発売、1月28日(金)よりNetflixで世界同時配信(全6話一斉配信)

【関連記事】

おすすめの記事