特別支援学級からの中学進学準備。発達障害息子が順調に過ごせた理由と将来への「自立」に向けて【読者体験談】
監修:鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)のある高校3年生の息子の小学校時代
現在高校3年生の息子は、6歳でASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)の診断を受けています。
息子は、小学校入学時から自閉症・情緒障害特別支援学級に在籍し、学年や科目によって通常学級にも通うスタイルで、学校生活を送っています。
通った地域の小学校は、通級指導教室の受け入れを行うなど支援が手厚い学校でした。この環境があったからこそ、息子は自分のペースで学び、成長することができたと思っています。小学校4年生の時に引越ししましたが、転校はせずにそのまま学区外通学を選択しました。私は毎日車で送迎、大変でしたが、「ここに通わせて良かった」と思えるほど学校の支援体制や先生方の理解が深かったのです。
そして小学校6年生になり、中学への進路を考える時期になりました。私の住んでいる地域では小・中連携の取り組みが積極的に行われていたため、中学進学を見据えた事前見学や面談が多く、学校側からのフォローが非常に手厚かったです。
こちらでは、中学校進学への準備や学校生活など、わが家の体験をお話したいと思います。
苦手な板書や書き取りはほぼ免除、デジタル教材の活用。「困ったらすぐ相談しましょう」といってくれた中学校
中学進学を控え、地域の中学校で行われた事前の見学や面談では、校長先生自らが対応してくださいました。
これを聞けて助かったと感じたのは、授業や部活動、試験に関する具体的な話でした。例えば、教科ごとに先生が変わること、定期試験があること、体育などで着替えがあった場合の男女の分け方など、細かな点もすべて丁寧に説明していただき、息子も私たち家族も安心して新しい環境に入ることができたと思います。
また息子は療育手帳が取得できなかったため、将来は高等特別支援学校に進むことが難しく、高校では一般入試を受ける必要がありました。そこに向けた相談もできたのは大きかったです。
校長先生から「やってみて、もし困ったらすぐ相談してください。息子さんの過ごしやすいように変えていきましょう」と言っていただけたため、入学後も相談しやすい環境を作ってくださったと思っています。
中学校生活では連絡帳を活用し、授業の受け方や席の配置、クラスの中でのトラブル対策など、状況に応じて調整が行われました。学習面でもIT化が進んでおり、苦手な板書や書き取りはほぼ免除され、デジタル教材を活用したことで理解度は高まったと思います。
ただし、試験中、集中力が持続しないという面は解決できず、成績には課題が残りましたが、担任の先生が席の向きやタイマーの位置など工夫を凝らしてくださり、助けられました。
また、勉強に自信がついてきた息子は数学検定に挑戦、無事合格をもらい喜んでいる姿を見て、私も嬉しかったです。
このように順調だった中学校生活ですが、一つ大変だったなと思うことは電車通学のことでした。
中学校で電車通学を開始。トラブルと自信の芽生え
中学進学に伴い、息子は電車通学を始めました。事前に駅でのリハーサルを何度も行い、駅員さんに挨拶をして困ったときの対処をお願いするなど、私も念入りに準備を重ねました。
電車通学は、単に学校への移動手段にとどまらず、息子にとって大きな成長の機会となりました。乗り遅れや忘れ物などのトラブルが起こった時、パニックにならず駅員さんに聞くなどして冷静に対処することができるようになり、息子は少しずつ自信をつけることができました。また、電車という他人と同じ空間を共有する場に一人でいるという経験を積むことで、少しずつ「他人を意識する」という感覚が育まれたようです。この変化は、家庭ではなかなか得られないものでした。
やはり親としては一人で電車移動する子どものことは心配でしたが、チャレンジしてよかったと思っています。
高校生活の終わりも間近。「自立」に向けた1歩を前にして
現在、息子は定時制高校の3年生です。精神障害者保健福祉手帳を取得したので、卒業後は就労移行支援を経て社会に出ていく準備を進める予定です。生活面ではグループホームの利用を考えていて、少しずつ自立に向けたステップを踏み始めています。
息子がここまで成長できたのは、周囲の支援のおかげだと思っています。感謝しかありません。
小さい頃から比べるとできることも増え、大きく成長した息子ですが、それでも息子が周囲の人に興味を持ち始めたのはつい最近のことです。これからの課題は多いと思いますが、本人のペースで少しずつ「自立」に向けた歩みを進めていければと思います。
イラスト/ネコ山
エピソード参考/まつ
(監修:鈴木先生より)
小学校でも中学校でも社会性を身につけることは大事であり、誰に相談したらいいかが決まっていれば安心です。最近は小中連携した一貫校スタイルが公立でも見受けられるようになってきました。小学校での問題点などがそのまま同じ中学校へ引き継がれるため環境の変化に弱いASDの患者さんにはいいことなのです。また、6歳からADHDの治療はできるので、集中できないこと、忘れ物があること、時間処理の問題などは投薬である程度コントロールが可能です。ただ、高校生になると小児科では診てくれなくなり、精神科でもADHD治療のできるクリニックは限られてしまいます。今後は高校卒業後の就労支援がどの程度できるかで将来像が変わってきます。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。