死の瞬間に「今が一番幸せ」と感じられる人生とは? はやみねかおるが子どもたちに教える「今の自分を肯定する」生き方
「名探偵夢水清志郎事件ノート」「都会のトム&ソーヤ」「怪盗クイーン」などのヒット作で読者を熱狂させてきた作家・はやみねかおる。幼少期や小説家デビューのきっかけ、人生に影響を与えた3冊、読者へのアドバイスを伺った
▶〔最新刊100ページ分を先行公開〕はやみねかおるの人気シリーズ「都会のトム&ソーヤ」が読める!「もう絶対、小説は書かないと決めたんです」かつての自分をそう振り返るのは、200を超える著作数を誇り、累計発行部数は900万部を超える、はやみねかおるさん。
実写映画化された「都会のトム&ソーヤ」シリーズや、劇場アニメ化された「怪盗クイーン」シリーズなど、数々のヒット作で読者を熱狂させてきました。
一度は筆を折ったはやみねさんが、再び創作に向き合ったきっかけとは?
作家の軌跡を紐解き、今を生きるヒントを探る連載企画「君へ贈る物語の処方箋」。今回は、作家のはやみねかおるさんにお話を伺います。
物書きと教員、2つの夢を追いかけた学生生活
──子ども時代や、作家になったきっかけを教えてください。
はやみねかおるさん(以下、はやみね):幼いころは「普通の子」でした。学校から帰ってきたら近所のグラウンドで草野球して、帰ってきたら風呂炊いてご飯食べて寝る。ちょっと他の子と違うのは、ずっと本を読んでたことくらいかもしれません。
小学校4年生の時に初めて買った文庫本は、今江祥智(よしとも)さんの『山の向こうは青い海だった』。僕をホッとさせてくれた物語なんです。ものすごく気の弱い男の子「ピンクちゃん」が夏のあいだに冒険して、強くなっていく。このお話を読んでいて「自分もやらな!」という気持ちになったことを覚えています。
また、当時はミステリーばかり読んでいて、エドワード・D・ホックの『怪盗ニック登場』は僕のデビュー作『怪盗ピエロ』に多大なる影響を与えています。
物語を書いてみんなを楽しませたい。そんな想いが小学生のころからあって、ずっと物語を書いていました。
物書きになりたい気持ちはあったけど、大学は教育学部に行ったんですよ。理由は9つ離れた兄の大学に遊びに行ったときに、ゼミ室に大量の漫画があったから。
「大学って天国なんや」と思って受験したら、僕の入学したころにはもう大学には漫画本なんてまったく置いていなかった(笑)。騙された気分であまり大学には行かず、下宿先でずっと本を読んでいました。
そんなダメな学生をやっていた僕も、3年生で教育実習に行きました。
実習をやらないと卒業できないからという不純な動機でしたが、実際行ってみたら子どもたちに「先生」と呼んでもらえることにものすごく感動してしまって。教師になるのも悪くないのかもと思えて、そこからちゃんと単位をとるようになりました。
教師になるのかプロの物書きになるのかわからないけれど、どちらも精一杯やってみようと思ったんです。小説のほうも原稿を書いては、いろんな新人賞に応募していましたね。
挫折の先に…子どもたちの「面白い」が聞きたくて
はやみね:自分の道を決意したのは、大学4年生の終わりです。
江戸川乱歩賞の締め切りが1月31日、卒論の締め切りが2月2日で、みんなが卒論を書いている横で小説を書いていました。手書きで1000枚の小説原稿を書き上げたと思ったら、すぐに卒論も書かなきゃいけない。友達に助けてもらいながら、なんとか提出することができました。
結果、乱歩賞は一次選考も通過せず敗退。しかし、教員の採用試験には無事に受かり、教師で頑張ることにしました。もう絶対、小説は書かないと決めたんです。
▲小説原稿と卒論の執筆で全力を尽くしたが…乱歩賞の結果は惜しくも敗退。「もう絶対、小説は書かない」と決めた、はやみねさんにおとずれた転機とは。(写真:アフロ)
はやみね:小学校の先生になってからは、一生懸命子どもたちに授業をしましたが、僕は時間配分するのが苦手で。45分の授業なのに、なぜか40分で終わっちゃうんですよね。子どもたちを早めに運動場に放り出したら、校長先生に怒られて(笑)。
そんなこんなで余った時間を利用して、星新一さんのショートショートを話して聞かせたんです。黒板に絵を書いて話すと、子どもたちは授業より熱心に聞いてくれました。
そのうちネタが尽きたので、自分が中学3年生のときに書いたショートショートを聞かせてみました。そしたら「今日のは面白くない」って子どもたちが言うんですよ。それがショックで(笑)。
子どもたちにどうしても「面白い」と言わせたくて、やめていたお話づくりを復活させました。
毎日ちょっとずつ考えては聞かせて、子どもたちの食いつきを観察しながらお話の方向を変えていって。気づけば1冊分のお話になっていました。
その習慣が続いて、2つ目につくったお話が講談社児童文学新人賞で入選した『怪盗ピエロ』なんです。子どもたちのおかげで、またお話をつくる機会に恵まれました。
「好きなことに夢中になる君」を肯定する3冊
──デビュー作『怪盗ピエロ』から35年あまり。2026年は『都会トム』最新刊がご自身の誕生日(4月16日)にあわせて刊行されるなど、常に第一線で、読者へ驚きとワクワクを届けていらっしゃいますね。ぜひこの記事のテーマ『物語の処方箋』にちなみ、今この時代を生きる読者へ贈る、はやみねさんとっておきの作品も教えてください!
はやみね:好きなことに夢中になるって、素晴らしいと教えてくれたお話を3冊選びました。どのお話も、僕の生き方に影響を与えた作品です。
『どくとるマンボウ青春記』(著/北杜夫、新潮文庫刊)
『どくとるマンボウ青春記』(著/北杜夫、新潮社)
はやみね:医学部進学を期待されながらも、文学をやりたいと悩む若き日の北杜夫さんの姿が描かれています。物書きを目指していた自分と重なって、中学生のときから何回読み返したかわからないぐらい好きな本です。
『一局の将棋 一回の人生』(著/越智信義、新潮文庫刊)
『一局の将棋 一回の人生』(著/越智信義、新潮文庫刊)※版元品切れ
はやみね:将棋というひとつの道を突き進む人々の、エネルギーを感じさせる本です。小学生にはちょっと難しいかもしれないけれど、わかるところだけでも読んでほしい。どんなことでも極めるぐらい突き進めば、大物になれるということを教えてくれます。
『ピンポンさん』(著/城島充、角川文庫刊)
『ピンポンさん』(著/城島充、角川文庫刊)
はやみね:日本卓球界の伝説の男、萩村伊智朗を描いたノンフィクション。息子が卓球をはじめたときに面白さをわかりたくて、いろんな卓球の本を読んだなかの一冊です。卓球が大好きな気持ちを貫いた人の、凄味を感じられます。
番外編『打順未定、ポジションは駄菓子屋前』(著/はやみねかおる、講談社)
『打順未定、ポジションは駄菓子屋前』(著/はやみねかおる、講談社)
はやみね:もし自分の本も入れてもらえるなら、こちらを選びます。万年補欠で、ポジションはボールが入らないように駄菓子屋前。だけど野球が大好きな「ぼく」の奮闘ぶりを書きました。気になったらぜひ読んでみてくださいね。
──今を生きる子どもたち、そして親世代にもアドバイスをいただけますか。
子どもたちに一言「人生を必死に楽しんで!」
▲自宅からオンラインにて取材に応じてくださったはやみねかおるさん。読者へのアドバイスには「自分を棚上げ」と前置きしつつ、自作の「心の棚」を披露するお茶目な一面も。
はやみね:アドバイスなんておこがましいけれど、もし自分を棚上げして(笑)言えることがあるとするなら、人生を必死に楽しんでくださいと伝えたいです。
たとえば雨が降っているなかを走っていたら、普通はおかしなやつでしょ。でも意地を張ってでも、その状況を楽しめるように頑張るんです。
僕は死ぬときに「いまが一番幸せ」と思って死のうと決めています。そうすると自然とあれしたいな、これしたいなと、今やるべきことが浮かんでくる。人生、楽しんでやるって信念を貫くことが大切だと思います。
子どもを育てる親世代へ「秘密基地を守ることが大人の仕事」
はやみね:これからはAIが世の中に台頭してきて、子どもたちが大きくなってからの幸せは、誰にも予想できないと思います。だから僕が教師になるときに教えてもらった、この言葉を親御さんに送りたいです。
「子どもが小さいうちは手を離すな。少し大きくなってきたら目を離すな。手と目を離して大丈夫になっても、心は離すな。」
子どもには子どもだけの世界があります。大人が子どもに介入しすぎると、子どもたちは秘密基地すらつくれません。
根掘り葉掘り聞かずにいること、子どもの行動に干渉しすぎないことが大事。ぜひ子どもたちの秘密基地を守れる親御さんになってください。
──4月16日は誕生日を迎え、62歳になられるはやみねかおるさん。誕生日にあわせて人気シリーズ最新刊の『都会のトム&ソーヤ 22 ナイト列車で行こう!』が発売され、夏には「怪盗クイーン」シリーズの新作も刊行予定ですね。最後に、ぜひファンへ向けてのメッセージをお願いします。
はやみね:「都会トム」読者の皆様、大変お待たせいたしました。相変わらず内人も創也も元気です。新しい物語を、ぜひ楽しんでください! クイーンは、ヴェネチアで時空を移動できる石――アムリタの争奪戦を繰り広げています。ヴェネチア・カーニバルの幻想的な雰囲気をお楽しみください。
(取材・執筆/山口真央)