【ハチ対策】遭遇しても「手で払う」のは逆効果! 科博の研究者が教える「正しい身の守り方」
夏から秋にかけては、アウトドアを楽しむ機会が増加。自然豊かな場所で気になるのが、虫への対策です。とくに“刺す”ことで知られるハチに対して、私たちはどのように気を付ければいいのでしょうか。
国立科学博物館 動物研究部のハチ研究者で、特別展『いきもの超ワールド展 国立科学博物館×ダーウィンが来た!』では虫パートの監修も担当した井手竜也先生に、ハチの知られざる生態や巣の特徴、気を付けるといいポイントなどについてお話を聞きました。
▶画像 オオスズメバチ「手で払うのは逆効果?」働きバチは全員メス!? 意外と知らない身近なハチの生態
●井手竜也(いで・たつや)
長崎県出身。国立科学博物館動物研究部 陸生無脊椎動物研究グループ 研究主幹。九州大学にて博士(理学)を取得後、森林総合研究所などを経て2017年より現職。専門はタマバチ科の分類および生態に関する研究。これまでに国立科学博物館が主催した特別展『昆虫』『毒』『昆虫MANIAC』などの監修に携わっている。著書に『昆虫学者の目のツケドコロ』(ベレ出版)、『ずかん ハチのおしごと』(技術評論社)などがある。
──私たちの暮らしの中でよく見かける代表的な昆虫といえば、ハチ。ミツバチ、クマバチ、スズメバチ、アシナガバチなどが有名ですが、その生態を詳しく知らないという人も多いと思います。そこで、彼らについての豆知識を教えてください!
井手竜也先生(以下、井手先生):蜂蜜をつくることで有名なミツバチですが、日本にはセイヨウミツバチとニホンミツバチの2種類しか見られません(※日本にいるミツバチ科ミツバチ属は、この2種類のみ)。
ミツバチの巣には女王バチ1匹とたくさんの働きバチが暮らしていて、働きバチはすべてメスです。女王バチは卵を産むのが仕事で、若い働きバチは、女王バチが産んだ幼虫の世話や巣の管理をします。
ベテランの働きバチは巣の外に出て花の蜜や花粉を集め、ほかの働きバチや幼虫たちのために巣に持ち帰るなどの仕事を行います。
クマバチは体や羽音が大きくて怖がられることも多いのですが、基本的には温厚な性格なので、驚かせなければ大丈夫です。胸部分に黄色の柔らかい毛が密生しており、足にはブラシのような毛が生えています。
ちなみにミツバチやマルハナバチなども、同じように胸部分や足に細かな毛が生えています。クマバチはミツバチのように大きな集団で生活することはなく、木に穴を開けて巣を作り、基本的には単独で生活します。
ミツバチ、マルハナバチ、クマバチはすべて、ミツバチ科に属しています。スズメバチとアシナガバチは、スズメバチ科です。
スズメバチの武器は毒針じゃない?
井手先生:スズメバチというと毒針のイメージが強いかもしれませんが、実は彼らの獲物は昆虫やクモなどで、それらを捕らえるためによく使われる武器が、鋭く大きく発達した大あごです。
捕らえた獲物を大あごを使ってかみ砕き、不要な部分は切り捨てて、あしで支えながら丸め、肉団子を作ります。これを巣に持ちかえり、自分と同じ女王から生まれた幼虫に食べさせるのです。では成虫は何を食べるのかというと、樹液や果物の汁、花の蜜などです。幼虫や成虫から栄養を分け与えてもらうこともあります。
ミツバチは花粉を集め、スズメバチは他の昆虫を捕まえるという違いはありますが、どちらも基本的には幼虫の餌のために使うという共通項が面白いところですね。
スズメバチと同様、毒針のイメージがあるアシナガバチは、スズメバチに比べてやや細身の体つき。彼らも巣を守るためとなれば攻撃的になりますが、基本的にはおとなしい性質です。
スズメバチほどあごの力が強くないので、毛虫や芋虫など柔らかい昆虫を中心に狩り、肉団子にして巣に持ち帰って幼虫に食べさせます。ミツバチやスズメバチと同様、群れで生活するハチです。
意外な場所にもある! 「ハチの巣」警戒ポイント
▶︎NEXT 秋レジャーの定番・山歩きでの注意点は?
▲収蔵庫でハチの標本を持つ井手先生。インタビューは国立科学博物館・筑波研究施設(茨城県・つくば市)にて行われた。
意外な場所にもある! 「ハチの巣」警戒ポイント
──スズメバチやアシナガバチの巣について、詳しく教えてください。
井手先生:スズメバチの巣も、アシナガバチの巣も、主な材料は木です。アシナガバチは主に木のかたい部分、スズメバチは主に木のやわらかい部分を使います。
一般的なアシナガバチの巣は六角形をした幼虫の部屋が並んでいるのが一見してわかりますが、スズメバチの巣はマーブル模様の丸い外壁に覆われ、出入り口が1つしかないのが特徴です。
スズメバチの中には、家の軒下やベランダ、庭木の枝など高いところに巣を作るものもいます。初めはピンポン玉くらいのサイズですが、大きくなるとバレーボールやスイカぐらいの大きさに育つことも。大きくても、目立たない場所に作られていることがあるので注意が必要です。
一方、アシナガバチは低木の植え込みの中やひざ丈よりも低い草むらなどに巣をつくるので、知らずに入って巣を蹴飛ばしてしまい、怒ったハチに刺されるというケースが多いです。実際、日本におけるハチ刺され被害のほとんどはアシナガバチの仲間によるものです。
レジャー中、虫取りなどで草むらに踏み入る機会もあると思いますが、保護者の方は「アシナガバチの巣があるかも」と足元への警戒を怠らないようにしてください。
秋レジャーの定番・山歩きでの注意点
写真:アフロ
井手先生:山歩きの際にも注意が必要です。山の中には、スズメバチの仲間であるオオスズメバチやクロスズメバチがいます。彼らは土の中や木の根元の隙間、木のうろなどに巣を作ります。
その近くをドスドスと荒っぽく歩いたり走ったりすると、巣の中に振動が伝わってハチを刺激し、ハチたちが一気に巣から飛び出してきて刺されるというケースもあります。山の中では周りをよく観察しながら静かに歩くといいですね。
いずれにせよ、巣の近くは飛んでいるハチの数が多くなるので、それがひとつの目印になります。「ハチが多く飛んでいるな」と感じたら、一度足を止め、静かにその場を離れてください。
またレジャーの目的にもよりますが、ハチの攻撃に関しては、ぴったりした服装だと毒針が刺さってしまうので、ゆとりのある上着も用意しておくと安心かなと思います。
遭遇しても「手で払う」はNG! ハチを刺激しない正しい対処法
──ほかに、ハチに対しての行動で気を付けるといいことはありますか?
井手先生:人に関心をもったスズメバチが、こちらの様子を見にくることがあります。そのときハチは、目の前でホバリング(はねを素早く動かして、空中で同じ場所にとどまる飛び方)をします。突然ハチが近づいてきたのが怖くて手で払ってしまう人が多いのですが、実はこの行動こそがNG!
静かにゆっくり後ずさりしてハチから距離をとり、刺激を与えないようにしましょう。室内にハチが入ってきたときも同様です。騒いでしまう人が多いですが、そっと窓を開けて、外に出ていくのを静かに待ってください。
ハチたちが刺すのは、基本的には巣を守るため、自分の身を守るため。ですから、ハチがいるような場所ではハチが怖がるようなことはしない、というのが鉄則です。
下調べができるようなら、子どもが遊びたいエリアの近くに樹液が出ているところや巣がないかを、事前に保護者が確認しておくと安心です。
ハチに近寄ってもOKなタイミング
写真:アフロ
井手先生:虫取りの最中、間違えて網でハチを捕獲してしまったときは、網の部分を体から離して持ち、さっと網を裏返すように振り、逃がしてあげてください。小さいハチなら怖がらなくて大丈夫です。
逆にハチの習性さえ分かっていれば、どんなハチでもそれほど怖がる必要はありません。スズメバチでも、花の蜜を舐めているときは近くに寄って写真を撮ったりすることができます。
小さないきもの全般そうですが、スズメバチやアシナガバチも、自分より大きないきものに対しては臆病で、怖がるのが当たり前です。
スズメバチやアシナガバチの攻撃性がクローズアップされがちですが、近づいてみるとかわいらしい部分だってもっています。同じ世界で生きているものとして、ぜひ怖いだけではないハチの姿にも目を向けてもらえたらと思います。
自然界におけるハチの大切な役割
──生態系において、ハチはどのような役割を果たしているのでしょう?
井手先生:スズメバチやアシナガバチなど集団を作って暮らす社会性の狩りバチは、たくさんの幼虫を育てなければいけないので、そのぶん、毛虫・芋虫などたくさんの虫を捕まえます。
その結果、人にとって“害虫”となるような虫が増えすぎないよう、抑えられているのです。スズメバチのなかには他のスズメバチやアシナガバチを獲物とするものもいます。
もしスズメバチやアシナガバチがこの世界からいなくなれば、どうなるかわかりません。毛虫や芋虫が大発生するかもしれませんし、何か全く別のことが起こるかもしれません。
そんなふうに、生態系はさまざまなバランスを取りながら成り立っていますから、うまく共存していく道を探っていけたらいいなと思います。
【この記事では、ハチに遭遇した際の正しい対処法、アウトドアで気を付けたいポイントを国立科学博物館のハチ研究者・井手竜也先生にお聞きしました。次回は、特別展『いきもの超ワールド展』の見どころや、親子の身近な自然観察がグッとおもしろくなるハチの不思議、研究者ならではのワクワクする観察のコツをお聞きします】
取材・文/木下千寿
撮影/村田克己