宮野真守、いのうえひでのりが語る「今までにない劇団☆新感線」とは――『アケチコ!』で立ち上がる、新たな音楽活劇
宮野真守、神山智洋らを迎えて贈る2026年劇団☆新感線46周年興行・夏公演 SHINKANSEN☆RSP 怪奇骨董音楽劇『アケチコ!~蒸気の黒ダイヤ、あるいは狂気の島~』が6月12日(金)より東京・EX THEATER ARIAKEにて開幕。その後、福岡・キャナルシティ劇場、大阪・フェスティバルホールで上演される。
大正浪漫を感じさせる時代設定と、江戸川乱歩の世界を思わせるほの暗いスチームパンクの空気が交差する、新感線ならではの音楽活劇ミステリー。二人の探偵と、一癖も二癖もある人物たちが織りなす謎に、Rシリーズならではの生バンド演奏、歌、踊り、アクション、ドタバタ要素が加わり、これまでの新感線とはひと味違う世界が立ち上がる。脚本は福原充則。いのうえひでのりの演出のもと、タイトルロールのアケチコ五郎を宮野真守、新田一耕助を神山智洋が演じる。
舞台は大正12年、石炭と蒸気に包まれた炭鉱の町・M県T市。探偵助手の助手林鳩美とともに町を訪れたアケチコ五郎は、帰国子女の名探偵・新田一耕助と出会う。人気の黒ダイヤ歌劇団では次期トップ争いが繰り広げられていたが、新トップに決まった女優が姿を消し、さらに別の有力候補までもが行方不明に。秘密の匂いを嗅ぎつけたアケチコと新田一は怪事件の真相を追うが、その先には猟奇、猥雑、倒錯、奇怪な愛と欲望の世界が待ち受けている。
いのうえと宮野に舞台への思いや作品づくりの背景、役柄へのアプローチなどについて話を聞いた。
■いのうえ「登場人物はみんな”変態”でこだわりが強い」
――まず、いのうえさんにお聞きしたいのですが、新作舞台『アケチコ!』について、教えてください。
いのうえ:前々からずっとやりたいなと思ってた福ちゃん(福原充則)に初めて書き下ろしてもらいました。アケチコ五郎と新田一耕助という、名前から察するようにまともじゃない二人の探偵が登場します。なんとなくミステリー仕立てなんですけど、ほぼほぼドタバタで進みます。登場人物はみんな変態というか、こだわりが強い。一生懸命、変態道を進んでいくみたいな感じです。
――福原さんに戯曲をご依頼した理由として「これまでとは違うテイストのものをやりたかった」というのもあるそうですが、福原さんの作風の魅力はどういうところにありますか?
いのうえ:ちゃんと笑いが書けて、面白みがあって、なおかつ少しアングラというか、影みたいなのがあるんですよ。ちょっと不気味だったり。そこが福ちゃんの魅力かなと思います。前から一度お願いしたいなと思っていて、やっと実現しました。
――ご依頼する際に、いのうえさんから何かオーダーされたのでしょうか?
いのうえ:ミステリーみたいな題材とか、自分の中での印象としては、横溝正史シリーズとか江戸川乱歩とか、あの辺の‟大嘘”がつける感じというか、インチキができそうなので、そこはすごくお芝居に向いているのではないですかね。そういうものが成立する感じがして、中身の細かい打ち合わせもやりながら、「こんな感じでちょっと書いてみて」みたいな話をしました。古田(新太)の出し方とか、そんな話をしながら全部福ちゃんに投げました。
――宮野さんが演じられる探偵・アケチコ五郎とはどんな人物でしょうか?
宮野:うさんくさい。そして秘密が大好きで、秘密にこだわっている人間です。自分自身も秘密な存在だから、誰も知らない名探偵。そういう矛盾をはらんでいるのですが、秘密が好きということにもちゃんと理由があって、物語が進んでいくうちに人となりなど、いろんなことがわかってくると思います。とにかく派手で、口八丁、皆様の前に出ていろいろ言いくるめながらお金を取っていくみたいな、主人公なのかどうかわからない、そういう癖のあるキャラクターです。
――宮野さんは、福原さんの作風を、本読みの段階でどう感じられましたか。
宮野:楽しみでした。劇団☆新感線に出演させていただいた過去2作は時代劇だったので、今までとは違うチャレンジになりますし、探偵もので、ミステリーで……というと、どうなるのか想像がつかなかったんです。でも、劇団員のみなさんの声が聞こえてくるような台本だったので、もうワクワクです。面白いですし、これをみんなでやったらもっとすごいことになるんだろうな、と思いながら読みました。そんな中、人間の本質や業のようなものにグイッと迫る部分があって。それがどう解決されるのか。一人で本を読んだときはわからなかったのですが、本読みで実際に皆さんの声で聴くと見えてきました。いのうえさんが今、頭の中で描いているイメージを具現化したら、ものすごいことになるんじゃないかという予感もありました。
――新感線の舞台で大正時代を描くというのも新しいですね。
いのうえ:ないですよ。初めてです。新しいと思います。大体こういうミステリーものをやること自体がないんですよね。福ちゃんとがちゃがちゃ話していて、石炭だ何だというワードが出て、それでスチームパンクになって。ビジュアルとしてスチームパンク的なものは面白いなと思って、普段の時代劇で無理やりやろうとしていたことはありました。たとえば『髑髏城の七人』のセットの中にスチームパンクっぽいものを入れようとか。そういうことはありつつも、なかなかがっちり入れられなかったですね。
――この「RSP」とは?
いのうえ:「Rシリーズ」はロックをベースにした音楽劇ですが、今回は時代背景が大正時代ということもあって、スチームパンクの要素を取り入れているので、「RSP(レヴュー・スチームパンク)」ということになりました。スチームパンクの世界って、ちょっと古いロックな感じで、グループサウンズみたいなニュアンスもあって面白いですよ。面白い歌詞だけど、曲はやたらポップです。
――宮野さん、そんな楽曲を歌うにあたっては?
宮野:もう全力で楽しみます。ミュージカルで歌う楽曲のレンジ(音域)ではなく、ポップスの作り方で、ファルセットを使ったり、レンジを高めに設定してやっているとおっしゃっていたので、歌をかっこよく聴かせる作品になるのだろうなと思います。『神州無頼街』(2022年)の時には、村木よし子さんとデュエットさせていただけて幸せでしたし、右近健一さんとハモったり、劇団の皆さんと歌えたりという、すごく幸せな経験をさせていただきました。
――改めて、新感線の舞台に出演される思いを聞かせてください。
宮野:僕は劇団☆新感線という劇団が大好きで、自分が出ていない作品も観させていただいて、普通にゲラゲラ笑っていました。観るたびに「またここに戻ってきたいな」と思うんです。その空気感というか、愛情というか、舞台にかける思いをいつも感じて、勝手に受け取っています。なので、今回、大好きな劇団員の皆様とまたご一緒できることがすごく幸せです。先日、本読みがあったのですが、その時も「4年も空いたの? (出演したのは)この間じゃなかった?」と皆さんが言ってくださいました。『アケチコ!』も本読みの時点でスタッフ、キャスト一同、ゲラゲラ笑っていたのが印象的で、とにかく楽しみになりました。
――古田さんとの共演も念願だそうですね。
宮野:はい。古田さんと今回初めて共演させていただきます。やはり劇団☆新感線のステージで古田さんとご一緒させていただくのは憧れでしたし、いまだに恐縮してしまって、古田さんのオーラにビビってはいるのですが、『髑髏城の七人』の時は、みんなで一緒にご飯に行かせていただき、いろんなお話を聞かせてくださいました。今回もそういう席でもたくさんのお話を聞けるのが楽しみです。
――神山さんとも初共演ですが、アケチコと新田一はどんな化学反応を起こせそうですか?
宮野:神山くんの真面目さやまっすぐさは、もう既に感じています。神山くんが演じる新田一は、押しの強いアケチコとは事件の関わり方が違うので、そういう対比もありますし、その辺の関係性も面白くなるのではないかなと思います。
■宮野「自分の“声”が武器になる瞬間があった」
――声優としても活躍されている宮野さんですが、新感線の作品の中でのご自身の“声”をどう意識していますか。
宮野:これは難しい言い方なのですが、『髑髏城の七人』Season月《下弦の月》(2017年-2018年)の時に、「声優だから」とあまり思われないようにしようと臨んだんです。『髑髏城の七人』という作品を、しっかり背負えるぐらいの男にならないとと思い、過去の作品もいろいろ見て、「ここでしか見つけられないものを必死で探そう」という気持ちで臨みました。僕は古田さんが演じた捨之介がすごく印象的で、あんなケレン味のある男が演じられたら、自分もひと皮むけるなと思っていて。実際に入った時、自分の声が武器にはなるなと感じる瞬間があったんです。まず、「生きてえなあ!」と声から登場する。それが会場に響き渡るというのは、結構、特徴的なのかなと思いましたし、自分が武器にできるものもあるのかなと。声優でいろんな役をやってきたからこそ、違うアプローチも考えられ、声優をやっていたから思いついた方法もありました。いろんなやり方があって、それが自分だけのアプローチになれたのかなという感覚はありました。
――そのご経験が今回もつながっていきそうですね。
宮野:はい。新感線に出演させていただくのは3回目ですが、コロナ禍の時期にいのうえさんとご一緒させていただいた、ヴィレッヂプロデュース 2020 Series Another Style『カチカチ山』が非常に良い経験になりました。井上小百合さんとの二人芝居だったので、全力で立ち向かわないと成立しない役だったんです。いのうえさんの千本ノックを受けながら、本当に役と戦って、いろんな表現を試したことが大きな自信になりました。『カチカチ山』ができたのが本当によかったです。
――いのうえさんにとっても、『カチカチ山』のご経験は大きかったですか?
いのうえ:そうですね。マモ(宮野)が最初に出た『髑髏城の七人』は、稽古の環境がすこぶる厳しかったんです。マモの芝居についてもいろいろ言いたいなと思うようなところがあっても、その時間が本当になくて、いろいろ積み残しがあって。「一回、ちゃんとリベンジしたいな」という思いがずっとあったので、『カチカチ山』の時にほとんどマンツーマンみたいな感じで稽古ができたことは、いい経験だったと思います。
取材・文=Iwamoto.K 写真=ハヤシマコ