Yahoo! JAPAN

茨城県北部の農家を東京のレストランシェフが訪問豊かな自然に触れ、食の未来と自然との共存を考える 

料理王国

茨城県北部の農家を東京のレストランシェフが訪問豊かな自然に触れ、食の未来と自然との共存を考える 

自然がそのまま残り、豊かな里山風景が広がる茨城県北部。自然農、循環、在来種など、それぞれが自然環境と向き合って作物を作っている農家を、都内のレストランで活躍するシェフたちが1泊2日のツアーで訪問。農家でじっくり話を聞き、体験し、里山の恵みを食べて、レストランのメニュー開発のみならず、農家の現状を知り食の未来を考える、大きなきっかけを提供するものだった。

今回のツアーを企画し引率したのは、自身も茨城県出身の「モデルノ」(レストランとしては東京・表参道「RISTORANTE DA FIORE」「RESTAURANT GERMOGLIO」)の眞中秀幸シェフ。20年以上にわたって同県の生産者を訪ね、信頼関係を築いてきた。お互いの仕事を理解し、意見交換しながら、それぞれを高め合う仲だ。

卸業者として多くの飲食店と付き合いのある「TATSUMI」がレストランに声をかけ、10名のシェフが参加した今回のツアー。4月21日(月)・22日 (月)の1泊2日で茨城県大子町(だいごまち)・高萩市・常陸太田地区を訪れた。

足を運んだのは、ハーブやエディブルフラワーを作る農家、在来種を守る農家、循環農を実践する農家、クレソンと菊芋を栽培から加工まで行う生産者など。奥久慈しゃもの実食も含め、それぞれの場で内容の濃い時間を過ごした。

感度の高いレストランのニーズに応え、ハーブやエディブルフラワーを栽培する「柴田農園」

水戸駅から車で北上すること1時間半、最初に訪れたのは、高萩市にある「柴田農園」。

海と山に囲まれた太平洋から2kmほどの中山間地域にあり、海風が流れ込むことで比較的夏は涼しく冬は暖かい気候。年間を通して作物を育てることができる環境だ。

「柴田農園」は、それまでも作っていた野菜や米に加えて、3代目の柴田祥平さんになってからは、少量多品種、マイクロ/ベビーリーフ、ハーブやエディブルフラワーにも力を入れるようになった。現在、年間200種類ほど、ミントだけでも15品種をも栽培している。

まず案内してもらったのは、マイクロリーフのビニールハウス。セロリ、セルフィーユ、イタリアンパセリなど約20種の小さなリーフが並ぶ。植えて2週間ほどで収穫できるとか。続いて、ベビーリーフ、エディブルフラワーのビニールハウス。外ではハーブもすくすくと育っている。

これらは土に植わっている。ということは、とりわけ背の低いマイクロ / ベビーリーフではその作業は地面に腰を屈んでの収穫となる。昨今は農家の負担を減らすべく収穫しやすいよう高い位置で栽培するといった手法はよく目にするが、土耕栽培ならでの、本来植物が持つ味の強さを大事にしたいというのが柴田さんの思いだ。

無農薬なので、そのまま食べられ、実際にその場で口にした。

「食材・スパイスとして使ってほしい」と語る柴田さんの言葉の通り、確かに旨味、甘味、酸味、苦味、辛味も、味が凝縮されたようにはっきりしている。参加したシェフたちから、これまでの役割であった彩りだけでなく、「味のアクセントとして、アミューズなどでジュレにポンとのせて、ストレートに味わいを出してみたい」との声も上がった。

平飼い養鶏と在来種の豆を育てる「まったり〜村の小さな農園」で昼食

昼食は、常陸太田市里美地区の「まったり〜村の小さな農園」で。
到着すると北山さんご夫妻が温かく迎えてくださり、すでにこの日の朝採れた筍や、クレソン、にんじんや蕪、自家製納豆、などが、ずら〜っと並ぶ。郷土食である小豆味噌や発酵玄米ご飯は初めて食べたシェフも多く、そのしみじみとした味わいに「おいしい」の声が飛び交った。

レストランでは登場しない、もはや家庭の食卓にものぼらないかもしれない、素朴な品々は、きっぱりと清閑さが清々しい。滋味深い、その原型を見たようだ。

レストランでの素材に技術を伴った掛け算の料理も素晴らしい。他方、素材そのものを素直に食べる、大地の恵みを感じる食も素晴らしい。普段は見えにくい根源的な課題、食べるとは何か、本当の豊かさとは何か、を真っ向から考える機会にもなったのではないだろうか。

「まったり〜村の小さな農園」は2006年新規就農した、平飼い養鶏と在来種の豆を主に栽培している農家。農薬、化学肥料、除草剤などは一切使わず、自然と共生する農業を行っている。昼食の後は、養鶏場(この卵は翌日の昼食でいただいた)や畑を見せてもらった。

栽培している豆は14種。岩手や広島の在来種の大豆も育てているが、地元のものが最適。「少し離れるだけで栽培がうまくいかない、結局、その土地に見合ったものが在来種として残っている」という話が印象的だった。

2019年からは農家民泊をはじめ、訪問時にはアメリカ・カリフォルニアから2人の若者が2週間滞在中。限界集落ともいわれるエリアで、農業だけでない、農業を軸に幅と可能性を探る、ひとつの農家の姿に触れた。

キノコ栽培で使い終わった菌床を活用


「軍兵六農園」は炭素循環農法を実践

「まったり〜村の小さな農園」で昼食をともにした、小橋寛生さんの「軍兵六農園」へ。北奥久慈、袋田の滝上流に位置し、「まったり〜村の小さな農園」が絵に描いたような山村風景にあったのに対し、こちらは山の中にぽつんぽつんと民家があるエリア。

「軍兵六農園」は多品種栽培。年間50品目ほどを、春夏秋冬、それぞれの時期にそれぞれの旬の野菜を作っている。

この日は、端境期にもあたり、作物こそ見学できなかったものの、土づくりについて教えてもらった。2010年から実践している炭素循環農法は、土の中の微生物、糸状菌の力を最大限に引き出す農法のこと。

具体的には、キノコ栽培で使い終わった炭素率の高い素材、菌床の木のチップを畑にまく。このことで、土の中の糸状菌にエサを与える。そうして、糸状菌が増えた土は作物の成長に適した土となり、野菜が健全に育つというわけだ。このやり方だと、農薬はもとより、他の肥料などは不要。
耳で聞くだけではなかなかピンと来ないが、フリップもご用意くださり、説明はわかりやすく、すんなりと理解できる。

2006年に新規就農した際は、別の方法だったが、ある勉強会でこの農法を知って切り替えた。「それまで作っていた野菜をそのままおいていたところ、餌としていた牛糞のにおいがして、それも農法を変えるきっかけになった」と語る小橋さん。
炭素循環農法に切り替えてからは、野菜の味わいも変わり、えぐみや雑味がとれ、すっきりとみずみずしくなったとのこと。このツアー企画の眞中さん曰く「さぁーと体が浄化する味」。
実際の体験をふまえての農法による野菜の味の変化は、炭素循環農法がいかなるものかを納得させる内容だった。

茨城県が誇る地鶏、奥久慈しゃもを、串焼きを中心に「だいこん」で実食

夕食は大子町の「だいこん」で。
ここは「農事組合法人奥久慈しゃも生産組合」の理事を務める高安正博さんの、奥久慈しゃも料理専門店。串焼きが次々と登場。この日の疲れを癒すとともに、参加したシェフたちの交流の場、かつ実食して「奥久慈しゃも」を味わう時間となった。

途中、高安さんから「奥久慈しゃも」についての説明も。
「奥久慈しゃも」は、全国に広く知られているが、改めてどういう地鶏なのかを食べながら確認する。

茨城県北部の奥久慈地方は関東平野の外縁に位置し、阿武隈山系と八溝山系の山々に囲まれたエリアで、古くからしゃもの飼育が盛んだったところ。「奥久慈しゃも」は、この茨城県内で系統選抜された性質の穏やかなしゃもと、「名古屋コーチン」「ロードアイランドレッド」を交配して生まれた地鶏。飼育日数はオスで4か月、メスは5か月以上かけてじっくり育てている。一般的なブロイラーと比べると約3倍の日数で、全国の地鶏の中で飼育日数が100日を超えるものは数えるほどしかなく、「奥久慈しゃも」もそのひとつだ。

中山間地域の静かな環境は気難しいしゃもを育てるのに適している。ストレスをかけずにのびのびと長期間飼育した「奥久慈しゃも」は、緻密でしっかりとした肉質、ジューシーな肉汁、脂肪分が少なく歯ごたえがあって香りがよいのが特徴だ。
次々と登場する串焼きやレバーパテなどで、そのよさを噛み締めた夕食となった。

クレソン、菊芋、和紅茶を作る「奥久慈ファーム」


地元の子どもたちの学びの場でも

一夜明けて向かうは、茨城県北西部に位置する大子町にある「奥久慈ファーム」。ここではクレソンと菊芋の生産、加工、販売を一貫して行っている。

まずは、クレソンの畑に案内してもらった。以前はニワトリのエサだった、という話から始まり、かつては、大子町にある多くの農家がクレソンを作っていたが、多くはやめてしまったのが現状だという。

そのクレソン、冬の時期は水を張った畑が凍ってしまうので、収穫は4〜10月頃。「奥久慈ファーム」の藤田健夫さんが実際に畑に入って、具体的に紹介してくれた。また、寒い時期のクレソンはアントシアニンを多く含むので色が濃いそうで、季節のよる色の違いなども説明。また、クレソンといえば西洋のものをイメージしがちだが、「奥久慈ファーム」では日本のクレソンを栽培している。

無農薬ということで、その場で食べさせてもらったクレソンは、特有の苦味はあるものの穏やか。日本の食事はやさしい味わいのものが多く、素材も同様。付け合わせでもいいが、「サラダなどでメイン食材にすれば、わしわし食べられそうだ」と言うシェフの言葉に、おおいに納得。

前日は、農家のあり方を見学し学ぶ場だったが、この日は実践の日でもある。後継者問題などで耕作放棄地や休耕地が増えているのは、大子町も同じ。これらの増加を少しでも歯止めがかけられればと、「奥久慈ファーム」では13世帯分の休耕地の世話も引き受けている。

そこで、今回ツアーに参加したシェフたちが取り組んだのが、耕作放棄地の藪となった雑草や雑木を取り除く作業だ。

中には深く根を張ったものもあり、取り除くのに悪戦苦闘。途中、藤田さんがチェーンソーできれいに刈ってくださったが、手作業でないときちんと除去作業ができない。時間が経てば経つほど大変になる、短時間とはいえ、そのことを実感した体験だった。

続いて、地元の大子町立さはら小学校の児童16人と一緒に、菊芋の植え付け作業を行った。ちなみに菊芋は、名前こそイモだが、キク科ヒマワリ属の根菜。その説明を受けてびっくりする子供たち。

等間隔に種芋をおく人、土をかける人、頭数があると、短時間で作業ができる。最初こそぎこちなさがあったものの、終わる頃には子どもたちとシェフも打ち解け、楽しい時間となった。

作業が終わったら、ツアーを企画した眞中シェフとスタッフのみなさんが準備してくださった、菊芋のポタージュとクレソンパウダーを使ったジェラートをいただく。子供たちにも大好評。ポタージュはほっこりと温かく優しい味わい。クレソンパウダーでジェラートというのはおもしろく、苦味はほとんどなく、すっきりとした味わいに「こんな使い方もあるんだな」と感心するシェフの声も。

クレソンも菊芋も調理しておいしく食べられるが、「奥久慈ファーム」は粉末化し、加工食品やサプリメントの原料としても出荷している。
「奥久慈ファーム」代表の藤田健さんは現在84歳、“博士”の愛称で親しまれる。藤田さんは70歳を過ぎてから、茨城大学農学部と菊芋やクレソンの“栄養分”や“血糖値との関係”について共同研究を行った人。「大子町の農作物をブランド化したい」との意欲を燃やし、今も積極的だ。

そんな藤田さんに、新しい取り組みも紹介してもらった。
それは、熟成和紅茶(Grappa / Te)。もともと茶栽培もしている「奥久慈ファーム」では、剪定で出る素材を和紅茶として生産。現在、それをさらに推し進めて、イタリアのグラッパ生産者に樽を譲り受けて、熟成和紅茶を試作中なのだ。

2つの樽の熟成和紅茶を試飲させてもらい、「ふくよかな香りがありつつ、すっきり飲めるので、コースの最後のドリンクにいいのでは」という、レストランの現場に立つシェフからの感想が出るなど、意見交換の場となった。

このツアーを企画した眞中秀幸さん曰く「農家を知ってほしい、農家とシェフの距離を近くし、その上で素材からメニューを組み立てるきっかけになれば」。
ツアーの最後では、参加したシェフから「農家に選ばれる店でありたい」との感想も出て、1泊2日のツアーは終了となった。

レストランそれぞれに個性があるように、農家もその考え方や取り組みはさまざま。
大変なこともあれば、これからが期待できる取り組みもある、普段はなかなか知る機会のない農家の姿を知り相互理解した上で、食材を通じて、レストランではどう展開するか、農家とどう協労していくか、そういうことを考え、取り組む時代に来たようである。

モデルノ(「RISTORANTE DA FIORE」「RESTAURANT GERMOGLIO」)
https://fioretokyo.com

TATSUMI
https://www.tatsumi-quality.co.jp

柴田農園
https://shibatafarm.jp

まったり〜村の小さな農園
https://mattaryvillage.com

軍兵六農園
https://gunbeiroku.sub.jp

だいこん
https://www.facebook.com/p/奥久慈しゃも料理-だいこん-100039440871876/

奥久慈ファーム
https://okukuji-farm.com

text photo:羽根則子

関連記事

田と人の営みが作り上げた散居村を拠点に地域文化や生産者を巡るツアーを実施 富山県砺波市 23年8月号

「千葉の新たなブランド 水産物体験ツアー」をレポート

【いわてから食の未来を考える】岩手の食の最前線を訪ねるVol.1

「やまなしの美食」食材体験ツアーに首都圏の料理人等が参加

【関連記事】

おすすめの記事