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意外な施設に生まれ変わったお城を知りたい!<第2弾>-超入門!お城セミナー【構造】

城びと

意外な施設に生まれ変わったお城を知りたい!<第2弾>-超入門!お城セミナー【構造】

お城に関する素朴な疑問を、初心者向けにわかりやすく解説する城びと連載「超入門! お城セミナー」。今回は廃城後にまったく異なる姿に生まれ変わったお城紹介の第2弾。広大な敷地を活かして学校へと転生を果たしたお城が登場します!

戦い・政治の舞台から若人の学び舎へ

かつて日本中に林立していた城たちが生まれ変わった姿を紹介した城びとの連載「第115回【鑑賞】意外な施設に生まれ変わったお城を知りたい!<第1弾>」。今回は、その第2弾として学校編をお送りします。もとは戦のための施設だったとはいえ、城主の住居・政庁として領国の中心だった城が、未来を担う子どもたちの学び舎となっているのは、まことに健全な活用法。しかも、そこには大切な人材をガッチリ守ってくれる石垣や堀や土塁があるのですから、保護者の方も心強いというもの。それでは、さっそく紹介していきましょう!

【水戸城(茨城県水戸市)】

「水戸学の道」として整備された散策ルート上にある三の丸。大手門前広場には、幕末の藩主・徳川斉昭の像が立ち、かつての藩校・弘道館と隣接する三の丸小学校を見守っている

まずは、水戸城(茨城県)。なんと6つもの学校が建っています。水戸といえば、尊王攘夷思想に影響を与えた水戸学。三の丸には藩士とその子どもたちが学んだ藩校・弘道館(国特別史跡。見学できます!)と現代の子どもたちが学ぶ三の丸小学校が共存する他、二の丸には第二中学校、水戸第三高等学校、茨城大学附属小学校が、本丸には水戸第一高等学校・附属中学校と、勉学が盛んだった水戸藩らしく学校が建ち並んでいるのです。ここ水戸城は、日本最大級の土造りの平山城なので、曲輪間の土塁と堀切が大きな見どころ。でも、これだけ学校がありますので、現地で必ず立入可能な区画を確認の上、見学をしましょう。現存建物の薬医門も高校敷地内なのでご留意を!

【田中城(静岡県藤枝市)】

田中城三の堀。堀越しに西益津中学校が見える

お次は、家康ブームに沸く駿河国から。駿府城(静岡県)の中堀と外堀の間にもたくさんの学校が建っているのですが、家康鷹狩の地といわれる田中城(同)は、どうにも心惹かれる丸い縄張の城。現在でも周囲の住宅地の区画が丸くなっていて、城ファンは地図を見るだけでニンマリ。東南隅の庭園跡に関連建造物を移築・復元しているため、一般にはここが見学の拠点ですが、住宅地の中に遺構の説明板がしっかり設置されています。そして、その中心である本丸跡に建つのが西益津小学校。南西側に西益津中学校が隣接し、両校の周囲に二の堀・三の堀、三日月堀跡などの遺構が点在します。学校周りの道のカーブを体感しながら歩いてみましょう。

【玉縄城(神奈川県鎌倉市)】

玉縄城大手門址…だが、現在は学校の裏門となっていてその先は立入禁止。門は普段しっかり施錠されており、安全対策は万全だ

つづいて、玉縄城(神奈川県)は、山城跡に学校がドーンと建っている珍しいパターン。三浦半島の付け根にあたり、複雑な谷に囲まれた丘の上に北条早雲が築いた難攻不落の山城でした。大手門跡や七曲の急坂など、周囲の道を歩くと地形や地名などで名残を感じられますが、城跡には清泉女学院中学高等学校という中高一貫の女子校が建っているため、遺構はほとんどありません。学校の裏門がもと大手門ですが、門扉はピシャリと閉ざされています。やっぱり、今も難攻不落なのです。

まだまだある! 学校になったお城

今回は東日本のお城を中心に紹介しましたが、近畿地方にも、もちろん城跡の学校はたくさんあります。井伊家の居城・彦根城(滋賀県)には、西中学校と彦根東高校、中学校と外堀を隔てたところには滋賀大学も。観光ゾーンが通学路だと、ついつい寄り道してしまいそうですよね。また、おびただしい転用石が使われた石垣で有名な大和郡山城(奈良県)にも郡山高校が建っていますし、天下普請の篠山城(兵庫県)も、内堀と外堀にはさまれた三の丸に篠山小学校と幼稚園が建っています。校門も赤い屋根の木造校舎もレトロ感たっぷりで、近代以降の城跡の歴史も感じられます。

明治時代創立の篠山小学校。毎年、秋頃には児童たちが城内を案内してくれるイベント「お城子どもガイド」を行っている

そして、九州の別府湾を望む日出城(大分県)には、日出小学校と日出中学校が建っています。初代藩主・木下延俊の義兄にあたる、細川忠興(ガラシャの夫)が縄張を担当した、野面積の石垣が見事な城です。本丸に建つ小学校はこの石垣の上にドーンと鎮座。櫓も移築されている上に、海、崖、堀、石垣と、防御力の高さでは屈指の学校でしょう。現存する時鐘は、毎朝8時にここの児童が鳴らしているそう。学校の入口が大手門跡で、石垣で固めた土橋の両脇には、岡城(大分県)大手道のものが有名な、丸く加工したかまぼこ石が乗った石積が残っていますよ!

日出城鬼門櫓から本丸方向を見る。本丸は日出小学校となっており、石垣上に学校の建物が載っているという珍しい光景が見られる

また、島津義久が晩年に居城とした国分城(鹿児島県)には、国分小学校と国分高校が。周囲は石垣や水堀で守られ、学校の前には移築された真っ赤な門も建っています。

そして、学校のある城跡として最も人気が高かった(?)のが、星形の五稜郭・龍岡城(長野県)。でも、残念ながらここに建つ田口小学校は2022年度をもって閉校となってしまいました。藩校が前身で、唯一の星形の小学校として存続していましたが、ついに140年の歴史に幕をおろすことに。実に残念ですが、城跡と学校の記憶を上手に残して再整備してもらいたいものですね。

このほかにも、松岡城(茨城県)、高田城(新潟県)、田丸城(三重県)、鳥取城(鳥取県)、西条陣屋(愛媛県)、唐津城(佐賀県)、佐賀城(同)、柳川城(福岡県)、福江城(長崎県)、飫肥城(宮崎県)などなど……、学校用地として有効活用されている城跡は全国にたくさんあります。その融合具合が、それぞれなかなかに個性的なので、ぜひ注目してみてくださいね。

執筆・写真/かみゆ歴史編集部

「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。主な制作物に、戦国時代を地方別に紹介・解説する『地域別×武将だからおもしろい 戦国史』(朝日新聞出版)』など。地形地理や地政学の視点から、その地に城が築かれた理由や合戦の舞台となった理由などを検証する『地政学でわかる! 日本の城』(イカロス出版)が好評発売中!

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