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『坂元裕二 朗読劇』に初挑戦する福士蒼汰が語る、朗読ならではの表現の面白さとは

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福士蒼汰

この春多くの人々の共感を呼び話題となった映画『花束みたいな恋をした』や、現在放映中の注目ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』の脚本を手掛けている、坂元裕二。セリフの言葉選びが絶妙かつ独特で、ちょっとひねった設定や心に刺さる展開などでツボを押され、その名前を積極的にチェックするファンが作品を発表するごとに増幅している人気脚本家だ。
その坂元の作品を読む“朗読劇”が2021年4月、東京公演を皮切りに開催されている。今年は2012年に発表された『不帰(かえらず)の初恋、海老名SA』(以下『初恋』と表記)、2014年に発表された『カラシニコフ不倫海峡』(以下『不倫』と表記)に加え、書き下ろし新作『忘れえぬ 忘れえぬ』(以下『忘れえぬ』と表記)を日替わりで上演。三本とも“往復書簡”形式で、男女が手紙(時にはメール)をやりとりすることで物語は進んでいく。6組12人が参加した東京公演(4月25日(日)まで)のあと、4月28日(水)~5月2日(日)には大阪公演(出演は風間俊介×松岡茉優と福士蒼汰×小芝風花)、5月7日(金)~5月8日(土)には札幌公演(出演は風間俊介×松岡茉優)が行われる。今回がこの朗読劇に初参加であり、朗読劇というジャンル自体にもこれが初挑戦となる福士蒼汰に、坂元作品への想い、そして朗読劇に挑む意気込みなどを語ってもらった。

ーーまず、今回の朗読劇への参加が決まった時のお気持ちからお聞かせください。

坂元さんの書かれた作品に出られるというのは、素直に嬉しかったです。しかし朗読劇というものを経験するのが初めてで、果たして僕にできるんだろうかという不安があったのですが、挑戦してみたい気持ちのほうが強かったのでぜひやらせていただきたいと思い、お引き受けしました。

ーーこの取材の時点では、本番を前に稽古を一日経験されたという状態ですが。ご一緒に稽古をされてみて、初共演の小芝風花さんの印象はいかがでしたか。

すごく自然体な方で、はつらつとしていて女の子らしくもあり、とても素敵だなと思いました。一緒に朗読をしてみて、彼女の声質がすごく心地よかったので、今回は気持ちよくお芝居ができそうだなと感じています。

福士蒼汰

ーー坂元さんの印象はいかがでしたか。

どんな方なのかなぁと思っていたら、優しい人でした。お会いする前は、実は勝手に厳しい人かなと想像していたんですけど(笑)。とてもフラットでナチュラルで接しやすくて。相談もしやすく、一緒にいやすい環境を作ってくださっているという印象がありました。

ーー初めての朗読劇ということですが、ふだんの演技と違って、とまどいはありましたか。

ありました。今回の朗読劇ではソファに座り、そこから一歩も動かないスタイルなんです。ふだんだったらト書きの部分で身体表現があったり、相手との距離感を使ってお芝居をしたりしているのですが、今回はそれがなく、声、音のみでのお芝居なので。それもあって、まずは自分にできるのかなという不安からのスタートだったんですが、でも台本をいただいて読み進めていくうちに「面白いかも」と思うようになり、稽古を通してどんどん朗読劇の良さに気づけていけたという感覚でした。朗読劇だからこそできる表現というものもありますし、音だけで伝えるということでは、たとえば目の不自由な方にも楽しんでいただけるのではないかと思います。さまざまな可能性を感じられるということでも、とても面白いなと思いました。

ーーその朗読劇の良さを、具体的に言うとしたら。

読んでいて、とても没入感があったんです。しかも読めば読むほど、没入していく感覚があって。最初にひとりで読んでいる時もそうでしたが、小芝さんと稽古でご一緒した時、より深くその空間に入ることができたことにもすごくびっくりしました。本を読んでいるという状況にもかかわらず、ちゃんと主観的になれている自分も発見できて、そういうところも朗読劇ならではの良さなのかなと思いました。

ーー読まれるにあたって、まずどんなことを心がけようと思われていますか。

感情を大事にすることです。そして、登場人物がどういうことを伝えたいのかということ。本を読んでいると客観性が強くなってしまい、そうなるとただ本を読んでいる人になってしまうと思うんです。そうではなく、登場人物のその瞬間の感情をしっかり伝えないとダメだと感じたので、そこを意識するようにしています。

福士蒼汰

ーー小芝さんと実際に稽古をしてみて、チームワークとしてはいかがでしたか。

チームワークはいいと思います! 小柴さんは本当に本を読むのが上手で、とてもきれいな音で言葉を発しながら隣にいてくれるので安心感もありますし。回数を重ねて、どんどん良くなっていけたらいいなと思っています。

ーー同じ作品をさまざまな顔合わせで読まれているわけですが。福士さんと小芝さんペアは、どんなカラー、どんなイメージのペアになりそうでしょうか。

確かに、同じ作品を違う役者が演じるというのは滅多になさそうですから、観る側はかなり面白そうですよね。僕自身は他のペアを観ていないので相対的には考えられないから、自分たちのイメージはわからないですが……色、という意味ではオレンジ色であたたかみがあって。棘がない、儚いお花という感じでしょうか。

ーー坂元さんの書かれる作品の魅力としては、福士さんはどういうところに感じられていますか。

今回の朗読劇だけで言うと、描写がとても細かくて、一見意味のないような描写もたくさんあるんです。でもその意味のないように思えた描写の積み重ねから意味が生まれることもあるので、その時は「ここが繋がるんだ!」とハッとしたり。それと『忘れえぬ』と『初恋』と『不倫』で、作品をまたいで同一人物が出てくるんです。それ以外にも共通する存在が出てくるのがおもしろくて、坂元さんの脳みそを解明してみたいなと思ったくらいです。どういう意味があってこの場面を作ったのか、実体験がちょっとは入っているのか、すべて妄想の世界なのか、いろいろ勉強して得た知識を取り入れたものなのか。たぶんそれがミックスされているんだと思いますが……。ひとつの作品だけでもそういうものが散りばめられていて、それが回収されたりされなかったり。セリフひとつとってもすごく広がっていく感覚を味わえる台本だと思います。

ーー三本それぞれ、設定も登場人物も違うわけですが。福士さんが一番共感できる登場人物は。

僕は今のところ、新作の『忘れえぬ』に一番共感しています。“少数派”の世界を描いている作品なのですが、彼らにとってはそれが普通だから逆に多数派のほうがイレギュラーなんですよね。今、この世界では少数派のほうにハンディキャップがあるように捉えているけれど、実は当事者はそう思っていないということもあると思うんです。僕もそうですが、きっと人はそれぞれ誰しもが少数派な面を持っている気がする。だから、そういう意味ではみなさんも共感しやすいかもしれません。

ーー三本の作品で共通する点とは。

一言で言うと、依存性みたいなところがそれぞれ少しあるなと思いました。『忘れえぬ』も『初恋』も『不倫』も二人の男女の話ではあって、その二人が支え合ったり、突き放し合ったりする。それはお互いに依存している関係だからこその摩擦だと思うので。そういう部分は、人と人が一緒に生きていく上での根源でもあるように思います。

ーー福士さんが演じる男性は三作品それぞれ、まったく違うタイプなんでしょうか。

まったく違います。それもあって、自分でも演じていてすごく楽しいです。『忘れえぬ』では少し特徴的なキャラクターで、『初恋』ではすごくピュアな恋愛……それだけではないですけど主には恋が描かれていて、『不倫』ではひとりの男性としてのずるがしこい部分や汚れた部分が出てきます。年齢的には『忘れえぬ』では若い頃、10歳から12歳を演じつつ最後は24歳くらいになるまでを描く時系列になっています。『初恋』は中学時代と大人になってからの2パートがある感じ。『不倫』は30代くらいといった感じで、それぞれ設定も違うんです。

福士蒼汰

ーー稽古中に坂元さんに言われて、特に印象に残っている言葉は。

「自由でいいよ」というのは、強く言われています。身体表現はないんだけれど、それ以外ではすべて自由でいいから、と。たとえば今回座るソファにはクッションがあるんですが、それを背中側に置いてもいいし置かなくてもいい、背中に一個、前に一個でもいい。とにかくその場で座って、作品世界に入って集中してもらえれば、と。そして「いつものお芝居をやるように演じてください」とも言われました。

ーーソファから立ったりしてはダメなんですか。

僕も聞いたんです、「立ってもいいですか」と。でも、それはダメみたいです(笑)。あくまでも座ったままで朗読をしながら、その中でなら自由にお芝居していいよということでした。

ーーちょっと不思議ですね、ソファに縛り付けられながらも、自由でいい。

そうですよね。だから、自由と言われても何をどこまでやっていいかはまだわからないんですけど。多少、手振りが出ちゃう時があるけど、そういうのは大丈夫みたいです、座ってさえいれば(笑)。

ーー朗読劇を未経験の方も多いかと思うので、ぜひ福士さんからお誘いの言葉をいただけますか。

派手な演出の舞台と比べると、面白くてわかりやすい作品とはまた違うジャンルかもしれません。朗読劇未経験の方にとっては「それって面白いの?」とちょっと敬遠してしまいがち。実は僕自身も、実際そうでした。台本を読むまでは1時間半にも及ぶ朗読劇ってどんな感じなんだろうと、想像もつきませんでした(笑)。だけど台本を読んでいくうちに、どんどん魅力に気付いていったんです。とはいえ、この気持ちは言語化するのが難しくて。とにかく坂元さんの脚本だからこそ、ジェットコースターのような感覚がすごくあって。階段を昇って行ってそこからバーンと落とされるような衝撃的なセリフや描写がところどころにあるので、そういう部分を聞いていたらものすごく朗読にハマっていくだろうなと思います。朗読劇を今まで経験したことがない方は特に、この舞台から入ったらどハマりしちゃうんじゃないかなというくらい、本当にこの坂元さんの朗読劇は言葉にパワーがあるので。ぜひともこの機会に、朗読劇を楽しんでみてもらいたいなと心から思います。

福士蒼汰

取材・文=田中里津子  撮影=福岡諒祠

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