「ででむし」とは何のこと? 短歌がより楽しくなる「うたことば辞典」【NHK短歌】
「うたことば」とは和歌・短歌に詠みこまれた言葉のことです。
「うたことば」は、言葉のつながり、響きによって短い詩が作られる短歌の形式を生かす命といえるものです。歌人は、古くからある言葉に加えて、新しい言葉を積極的に歌に詠みこみ、表現の世界を広げてきました。
「NHK短歌」テキストでの連載「探索・うたことば」から厳選した言葉をまとめた『短歌 うたことば辞典』が発売となりました。伝統的な古語から時代を表す新語まで、厳選された1000語の語意と、その言葉が詠みこまれた名歌秀歌の鑑賞を紹介する一冊です。
短歌を作るときの言葉探しのツールとしても、「天気」「時間」「からだ」など、テーマ別に知らない言葉に出会う読み物としてもおすすめです。
今回は本書から、ある言葉をご紹介し、みなさんを「うたことば」の世界へご案内します。
「ででむし」「蝸牛」「まいまい」は何を指している?
◎ででむし
カタツムリ(陸棲巻貝の総称)の異名です。
でんでんむし、蝸牛(かぎゅう)、まいまいなどの読み方があります。
さて、次の歌に詠まれた「蝸牛」はなんと読むでしょう?
蝸牛の角の秀さきの白玉は消なば消ぬべし振りのこまかさ
北原白秋『雀の卵』
正解は「ででむし」
蝸牛(ででむし)の角の秀(ほ)さきの白玉は消(け)なば消(け)ぬべし振りのこまかさ
解説と鑑賞
「秀さき」は尖とがった先のこと。蝸牛の角を微細に見つめて「白玉」という形容が美しい。
次の歌の「蝸牛」はなんと読む?
はるかな森いづくにも充ち水ふくむ蝸牛の角の透きとほりたり
日高堯子『野の扉』
正解は「かぎゅう」
はるかな森いづくにも充ち水ふくむ蝸牛(くわぎゅう)の角の透きとほりたり
解説と鑑賞
カタツムリの身の濡れた滑らかさと森に生きる充実した季節を表す。
次の歌の「蝸牛」は?
蝸牛は生きてゐるのか抜殻か草生に白し三月のあめ
石川不二子『ゆきあひの空』
正解は「まいまい」
蝸牛(まひまひ)は生きてゐるのか抜殻か草生に白し三月のあめ
解説と鑑賞
動かないカタツムリを春の雨が静かに濡らしている。
いかがでしたか。
同じカタツムリでも、歌によって、ことばの響きやつながりを考えて、作者がよりフィットする読み方を選んでいるのがわかりますね。
『短歌 うたことば辞典』では、「天地」「自然」「時空」「色彩」など、9つの章、32のテーマに分類して言葉の意味を記し、場合によっては類語を掲げています。そしてその語が詠みこまれた作品を例として掲げ短い解説と鑑賞を施しています。短歌の意味内容や作られた背景を少しでもわかると関心が高まるのではないでしょうか。
うたことばの豊富な世界を見渡すことができ、歌の鑑賞を参考にしながら、実作の際の言い換えに役立つ、それが本書の特色です。
著者
梅内美華子(うめないみかこ)
歌人。「かりん」選者・編集委員。現代歌人協会理事。よみうり文芸選者。朝日カルチャーセンター新宿教室講師。1970年、青森県八戸市生まれ。同志社大学文学部卒業。小学生の頃より作歌を始める。1988年、短歌結社「かりん」入会、馬場あき子に師事。角川短歌賞、短歌研究賞他。歌集6冊。歌集以外の著書に『現代歌枕 歌が生まれる場所』(NHK出版)、『ここからはじめる短歌』『日本の美しい言葉辞典』(監修・ナツメ社)がある。