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第2回 草花と四季をめぐる「本」~「命のひととき 四季の中で自然を味わう」

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「命のひととき 四季の中で自然を味わう」

植物のことを学び・知ることはもちろん、ゆったりとした気持ちで花を眺め、癒される、そんな「本」を、ブックコーディネーター・ライターの尾崎実帆子さんが紹介していきます。

「命のひととき 四季の中で自然を味わう」

ヘレン アポンシリ (著)、井上 舞 (翻訳)、杉野 宣雄 (解説) 化学同人、2021、ISBN978-4759822427

摘んできた草花を薄紙で包み、分厚い本に挟んでおくと、忘れたころにハラリと現れる“押し花”。作ってみたことがある人も多いのではないでしょうか。
本書はその“押し花”で四季を表現した本です。鳥や蝶、兎(うさぎ)などの生きもの、樹木やキノコなどさまざまなものがすべて押し花でかたどられ彩られています。驚くべきは、ここには1滴の絵の具も使われていないということ。花びらや葉を重ねることもなく変色させることもなく、まさにありのままの草花だけを素材としています。

春には淡く初々しい芽吹きと小鳥たちのさえずりを、夏には緑濃き葉を茂らせる森とそこに棲むものたちを、秋には赤く色づいた葉と大地の実りを、冬は枯れた葉の色をそのままに次のシーズンに向けて準備するさまを、押し花だけで表現しているのです。生きものたちは愛らしくデフォルメされているのですが、そこに凛とした気高さを感じるのは、生命を宿した素材を身にまとっているからなのかもしれません。

本書の原題は「A Year in the Wild(直訳:自然界の1年)」ですが、翻訳者はそれを「命のひととき」と訳しました。押し花とは、草花に“ある瞬間の命”を吹き込むことのように思えます。ここに表された生きものたちも、そして私たち人間も同じように、ひとときの命を大きな自然界のなかで生かされているのだなと、ふと思いを巡らせます。

作者は自ら大切に育てた草花と、自然環境から摘んだ野草を使うことで、生態系の持続可能性を意識して作品に向き合っているそうです。押し花に添えられた文章からは、作者がとても細やかに自然を観察していて、ごく小さな変化から豊かな自然の営みにまで想像力を広げていることが伝わってきます。

本書は「化学同人」という自然科学分野専門書の出版社から刊行されています。押し花という入り口から身近な草花や生きもの、そして生態系の営みにまで興味が広がるようなアートと科学のコラボレーションに魅了されます。

「命のひととき 四季の中で自然を味わう」

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