大人になってからこそ味わえる「漢詩」とは【学びのきほん 知らなくても味わえる漢詩】
安田登さんによる「漢詩のきほん」指南
誰もが学校の授業で苦手になったままでいる「漢詩」という文芸。
しかし、作品の内容を味わい、その世界の入り口に立つのには、細かい知識は必要ありません。『NHK出版 学びのきほん 知らなくても味わえる漢詩』では、博覧強記の能楽師・安田登さんが「前提知識を持っていなくとも味わい尽くすことのできる漢詩の魅力」を、初学者に向けて道案内します。
今回は、安田さんによる本書「はじめに」を特別公開します。
はじめに
春は眠い。いつも朝寝をしてしまう。
「わかる!」という方、多いのではないでしょうか。そんな春の「あるある」をうたった有名な漢詩があります。
春暁
春眠不覚暁
処処聞啼鳥
夜来風雨声
花落知多少
春暁(しゅんぎょう)
春眠(しゅんみん) 暁(あかつき)を覚えず
処処(しょしょ) 啼鳥(ていちょう)を聞く
夜来(やらい) 風雨(ふうう)の声
花落つること 知らん多少(たしょう)なるを
春は眠い時季だ、夜が明けたことになんて気づかない。いつも知らぬ間に朝が来てしまう。あちこちから鳥の声が聞こえる。そういえば夜には風や雨の音が聞こえた。花はどれだけ散ってしまっただろうか。そんな詩です。
この詩をよんだ詩人・孟浩然(もうこうねん)は、起き上がって外を見に行ったわけではなく、ベッドの中でぬくぬくしたまま、「あ、鳥の声が聞こえるな。花はどれだけ散ったのかな」と想像しています。その気持ち、よくわかります。
以前、漢詩の講座をしたとき、どんな漢詩を知っているか事前に参加者に聞いてみました。すると、ほぼすべての人がこの詩を挙げました。というか、この詩しか知らない人が多かった。
「漢詩って、なんだか難しそう」「学校で習ったけど忘れてしまった」「レ点とかの文法、受験で苦労した思い出しかない」。そんな声も聞こえてきそうです。
それではあまりにもったいない。
というのも、漢詩は大人になってからこそ味わえる文学なのです。たとえば、みなさんは漢詩にこんなイメージを持っていないでしょうか。
「漢詩というものは、深い山やゆったりと流れる大河など、スケールの大きな自然を描いている」
たしかにそうです。しかしよく読むと、漢詩によまれた山や河や樹々は、ただ自然を描いているのではないことがわかります。
たとえば、唐を代表する詩人である杜甫(とほ)は、年を重ねて病を得たり、人生がうまくいかなくなったりすると、周りの自然が違って見えるということをうたっています。自分の身体や精神状態によって風景が違って見えるなんて、中高生のときにはなかなかわかりません。でも、年を重ねて大人になると、そのことがすごくよくわかる。つまり大人になってから漢詩を読むと、その世界を深く味わうことができるのです。
本書では、教科書にも載っている杜甫、李白(りはく)、白居易(はくきょい)といった代表的な詩人の有名作品を中心に、彼らに関連する人の作品や、有名ではないけれどおもしろい漢詩などを、みなさんと読んでいきます。
難しいルールは知らなくて大丈夫です。漢詩の基本的な約束事は最初に解説しますが、そうした約束事を覚えてもらうことが本書の目的ではありません。その約束事を何となく知って、そしてそこから自由になったとき、初めて「漢詩ってこんなにおもしろいのか!」と思えるのです。本書を通して、そんな感覚をぜひみなさんに味わってほしいと願っています。
漢詩には、私たちがいまを生きる上で役に立つ考え方や、座右の銘にしたいと思えるような言葉も数多く見つけることができます。そんな漢詩の意外な一面についてもお話ししていきたいと思います。
『NHK出版 学びのきほん 知らなくても味わえる漢詩』では、第1章 そもそも、漢詩ってなに?
第2章 三大詩人 杜甫
第3章 三大詩人 王維
第4章 三大詩人 李白
第5章 日本人が最も好んだ詩人 白居易
第6章 その後の漢詩を味わってみる
という構成で、大人だからこそ刺さってくる漢詩の「きほん」を学んでいきます。
著者紹介
安田 登(やすだ・のぼる)
1956年千葉県生まれ。下掛宝生流ワキ方能楽師。ワキ方の重鎮、鏑木岑男師の謡に衝撃を受け、27歳で入門。現在はワキ方の能楽師として国内外を問わず活躍し、能のメソッドを使った作品の創作、演出、出演などをおこなう。日本と中国の古典の「身体性」を読み直す試みにも取り組んでいる。著書に『能 650年続いた仕掛けとは』(新潮新書)、『すごい論語』『あわいの力』(ミシマ社)、『日本人の身体』(ちくま新書)、『見えないものを探す旅 旅と能と古典』(亜紀書房)、『別冊NHK100分de名著 集中講義 平家物語』『別冊NHK100分de名著 集中講義 太平記』『役に立つ古典』『使える儒教』(NHK出版)など多数。
※刊行時の情報です
◆『NHK出版 学びのきほん 知らなくても味わえる漢詩』「はじめに」より
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